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私の彼氏、灰谷蘭こと蘭ちゃんはとても良く出来た彼氏である。私が寂しいときにはぎゅって抱きしめて頭を撫でてくれるし、沢山「可愛い」って褒めてくれるし、重たい荷物は何だかんだいって持ってくれるし、顔がモデルさんのように綺麗で格好良いし…そう、蘭ちゃんは格好良い。格好良いということはモテると世の中での決まり事がある。黒と金が混じった三つ編みはいつも綺麗に結われていて鼻筋は羨ましいくらいに通っている。何を着ても似合ってお洒落で、男なのに美人という言葉が良く似合う。けれど問題はここからで蘭ちゃんは彼女である私"だけ"に優しい訳では無くて、他の女の子"にも"優しい。これが私の頭を一番悩ませている。

「えぇ〜好きなのはお前だけだって分かんだろ」
「うん、分かる。嬉しい

初めはね、付き合えたことに浮かれ頭をポンポンと撫でられながら宥められると"好き"って言われた事にときめいてしまって、なんなくコロりと許してしまう時期が私にもありました。今思えば蘭ちゃんのペースにすぐ飲み込まれる私は「チョロすぎ」とか思われていたかも知れないし自分でもそう思う。

私といようがいまいが関係無く蘭ちゃんの所にはしょっちゅう女の子から電話が掛かって来るし、メールだって来る。隠す気がないのか平気で電話に出るし、メールもポチポチ返す蘭ちゃん。…見えてんのよ、女の名前が写ってるそのディスプレイ。他の女と連絡なんてとって欲しくないけど、やるんならせめて隠してバレないようにして欲しい。人の気持ち考えないのかなこの人。最近は蘭ちゃんを深く知って好きになっていく度に根深い嫉妬に犯されていくようになった。でもさ、彼氏彼女の関係ならこれって普通じゃない?自分しか見て欲しくないのって当たり前じゃないの?

だから私も蘭ちゃんにやり返そうと同じことをしてみた。蘭ちゃんは高校には行っていないから私の全部の交友関係を知っている訳では無い。それでも蘭ちゃんと付き合ってからは他の男の子には一切興味がなくて必要最低限の話しかしなくなったけれど。

ちょうど文化祭の時期が近付いてきて、出し物の件で連絡先をクラスの一部と交換する機会が巡って来た。そこを狙い普段ならば会話をする事は無いであろうメガネ君(頭が良い子)と連絡先を自然に交換する事に成功した。

「なぁなまえ、蘭ちゃんといんのにさっきからなぁに携帯弄ってんだぁ?」
「ん?クラスの男の子からのメール」

キタキタキタキタ。
蘭ちゃんは私の横から携帯を覗き込む。所詮、内容は文化祭の件で『日曜日に買い出しに行って来るので、月曜日学校に100円持ってきて下さい』みたいな内容だったけど、蘭ちゃんがどんな反応をするのか想像すると口元が緩みそうになるのを必死で隠した。
ヤキモチ妬いてくれるかな?怒るかな?私の気持ち少しは分かってくれるかな?とドキドキしながら蘭ちゃんの顔を伺う。

「買い出しってなに?」
「あ、えっとこれは文化祭の買い出しみたいで」
「へぇ〜」

蘭ちゃんはそれだけ言うとテレビのリモコンを操作し録画をしてあったお笑い番組を見だした。あれ?あれれ?それだけ?思ってた展開と随分違うんだが。私、男の子とのメールだって言ったよね?メガネ君の名前はフルネームで登録したし分かりやすいものだと思うけれど、宛先見てなかったのかな?それとも見たし聞こえていたけど何にも思わなかったのかな。

「あ、蘭ちゃん?」
「ん〜?」

蘭ちゃんはそのままテレビを見ながら私の膝に頭をこてん、と乗っける。か、可愛いなぁもう!…じゃなくて。

「んと、このメール相手クラスの男の子なんだけど…いいの?」
「あー、だってなまえ俺のこと大好きじゃん?俺よりカッケェ奴いんの?」
「…いない、ケド」
「だろぉ?蘭ちゃんお前のこと信じてっから」

そっか、信じてくれているんだね私のこと。…じゃねぇんだわ!にっこり自信満々で蘭ちゃんは微笑むからついまた流されてしまいそうになった。危ない。自分の格好良さを分かっている蘭ちゃんが自信満々なのは分かるけど、私に対して少しも嫉妬してくれない立ち位置なんですか私は。

「なぁ頭撫でて〜」
「あ、ハイ」

私の手を捕まれ艶がかかった頭に私の手が置かれる。蘭ちゃんの頭を撫でていると蘭ちゃんはお笑い番組の芸人のネタに対し、ここ笑うとこ?というような変なところでツボに入ったらしくケラケラと楽しそうに笑っている。私の心境はその笑いに釣られることは無く別のことをずっと考えていた。

家に帰っても考えることは同じことで、私たちは本当に付き合っているに入るのかという疑問。そうふと思うようになって来たのはここ最近。今まで脳裏でチラついても頭を横に振って片隅に追いやってきた。だが段々追いやれない程に不安が大きくなってきた。好きとかそういうことは言ってくれるけど、それって本当に私のことを思って言ってくれているのだろうか。分からなくなってきた蘭ちゃんが。いや、付き合った頃から蘭ちゃんは謎な部分が多いけど。もしかしたら私は蘭ちゃんにとって都合の良い女の一人で、他の子の扱いと全く同じなのかもしれない。

「悔しいじゃん…私ばっかり好きじゃん」

お風呂に浸かりながら小さく呟いたその声は浴室の中でそっと響いた。





「あれ?メガネ君は?」
「あー何か熱出したとかで休みらしいよ?よく知らんけど」

月曜日、お金を渡そうとメガネ君を探すも何処にもいなく友人に聞けば休みらしい。休みなら仕方がないと私は特に気に止めずに友人たちと文化祭の準備に勤しんでいた。

蘭ちゃんは相変わらずで会えば変わらず女の子と電話してたりメールしたり。私も私で「やめてよ!」と何度も喉から出そうになったけれど思い止まってしまう。蘭ちゃんは私の扱いが非常に上手だし口も上手い。きっとまた良いように言いくるめられてしまう気がしてならない。

「あ、見ろよなまえ」
「なぁに?」

悶々としている私の横で蘭ちゃんは食べ終えた棒付きアイスを小さく振りながら私に見せる。

「アタリだってさ、蘭ちゃんさっすがー。後でまたコンビニ行こうぜ」
「え、凄いね!私は…ハズレだ」

急いで最後の一口を食べ終わって棒を見るもハズレと文字が書かれていて、そこでツボったのか蘭ちゃんはヒーヒーお腹を抱えて笑い出した。何がそんな面白いんだろう。世の中アタリの数よりハズレが多い仕組みになっているんだよ蘭ちゃん。このアイスを食べた人のほとんどはハズレだと思うよ…知らんけど。

「お前ほんっとかわいー」

今の何処に可愛い要素があったのか分からなくて、黙り込む私に蘭ちゃんは一頻り笑い終えたあと私をムギューっと抱きしめた。他の女の子にもこうしているかも知れないと思うと息が詰まって死んでしまいそう。勝手な被害妄想なのに色んなことを想像しては嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。





週末に蘭ちゃんは私とショッピングへ行ってくれた。いつもお家デートが多いから久々のデートは嬉しくて、朝から早起きをしてメイクをして、髪を巻いて蘭ちゃんが前に褒めてくれた服に着替えて、私たちは街を歩く。

「やっぱ似合ってんなソレ」
「あ、ありがとう」

今日は蘭ちゃんの気まぐれで私の見たいところへ付き合ってくれるらしい。こういうときの蘭ちゃんは紳士なのだ。慣れないヒールを履く私をさりげなく手を繋いで転ばないように、足の長い蘭ちゃんが歩幅を合わせてゆっくりと歩いてくれる。本当王子様みたい。蘭ちゃんは外に出るデートの時は余り携帯を触らないから彼女なのに蘭ちゃんを世界で独り占め出来ている感がして嬉しくなる。今日の蘭ちゃんはご機嫌みたいでいつもはあまり撮りたがらないプリクラだって撮ってくれた。そんな楽しい時間はあっという間でお星様がいつの間にか空に上がる時間になっていた。

「そろそろ帰っかぁ」
「そうだね。また行きたいな」

蘭ちゃんはにこりと笑って私の手を握ったまま家路の道へと街を歩く。でも楽しいと思えた時間はここで終わりを告げた。

「らん?」

背後から彼氏の名前を呼ばれ、蘭ちゃん同様私も振り返ると美人が立っていた。夜になれば薄寒いこの季節にお腹が見える服を着て、誰しも羨むようなボンッキュッボンの女の人。お顔をとても綺麗な人だった。

「おー、久しぶりじゃん」
「久しぶりどころじゃないし!何で最近クラブ来てくんないの?イケメンいないとモチベ上がんないんだけどぉ」

え??だれだれその女の人。
繋いだ手は自然と離れて蘭ちゃんは私に微笑むのと同じようにその女性に笑いかけている。この空間に時が止まってしまったかのように感じた。楽しそうに話す二人を見るも私だけ蚊帳の外に放り出されてしまい、今日一日凄く楽しいと思えていたのに今の状況で事態は急変、サイアクになってしまった。美人な女性は私に気付いているのか気付いていないのか知らないが、私の方をチラリとも見もせず蘭ちゃんの方ばかり見ている。コレ、私わかる。この人蘭ちゃんが好きなんだ。

彼氏が自分といるときに違う女に向けて笑顔を見せている、そんなところなんて誰が見たいと思うだろうか。その美人な女性が蘭ちゃんの服の袖を掴んだ瞬間、今まで我慢していたものが溢れかってしまった。

「あ、あの!」

蘭ちゃんの袖を掴んだ女性の腕を私は掴む。女の人も蘭ちゃんも驚いたように目を見開いて私の方へと顔を向けた。

「こっこの人は私の彼氏なんです!やめてもらえませんかそういうの!」
「はぁ?」

女性の声のトーンが分かりやすく低い声音に変わった。それでも私は負けじと蘭ちゃんの手を引っ張り歩き出した。

「そういうことなんで!失礼しますっ!!」
「あ!オイっ」

蘭ちゃんの言葉を無視して私は蘭ちゃんを引き連れ早足でその場を立ち去る。蘭ちゃんが今後ろでどんな顔をしているか分からないけれど、私の顔はきっと嫉妬で醜い顔をしているのは間違いなかった。

人通りの少ないところまで来ると、私は蘭ちゃんの手を離して意を決して口を開いた。

「蘭ちゃんは私の何?彼氏じゃないの?いっつもいっつも他の子と電話やメールなんかしてさ。私の気持ち考えたことある?私は遊びですか?今日だって私がいるのに他の女にニコニコしちゃってさ!もう…別れたいってか別れる!大事にしてくれない蘭ちゃんなんて嫌い!」

息も耐えかね早口で心に留め言えなかったことを口にする。目から涙がこぼれ落ちそうだったけれど、最後の悪あがきで絶対に蘭ちゃんの前で泣きたくなかった。とんだ変なプライドである。シンと静まり返って地面に目を向けていた私は蘭ちゃんが何も言わないことに疑問を覚えそっと顔を上げてみる。

「へ???」

驚愕した。こんな言われようで多少は謝ってくれるかな?とか反省した顔してるかな?なんて思ったが見当違いもいいとこで、蘭ちゃんは片手で口を覆いながらめちゃくちゃにいい笑顔を私に向けていた。それはもうとても嬉しそうに口角をゆるゆる上げて。ポカンとしている蘭ちゃんは私に向かって口をやっと開く。

「お前本当かわいー」
「は?」

蘭ちゃんはそういうと口を間抜けにあけている私をぎゅうっと力強く抱きしめた。骨が折れてしまうんじゃないかってぐらい強く。

「俺ェ、お前が好きすぎてさー。多分、お前が思っている以上に?好きなんだよなぁ」
「え?は、らんちゃん?」
「んでぇ特に好きなのがお前がヤキモチ妬いてるときの顔でさー」
「ん?」

何言ってるのこの人は。
蘭ちゃんはそのまま私の肩に顔をすり寄せながら疼くめた。とても可愛らしく子猫のように。

「凄ぇ好きな子が俺のこと思って辛い顔したり泣きそうになったりすんの、マジでクんだよなぁ」
「は、はぁ…?」

それって、変態じゃん!好きな子虐めて楽しいみたいなノリで言うけどさ、蘭ちゃんが言うと意味がまた違って来る気がするんだけど、分からないその気持ち。

「で、でもっ蘭ちゃん他の子とも遊んでるんじゃないの?今日だってあの女の人に色々言われてたじゃん」
「あーアレぇ?知らね。名前覚えてねぇーし。適当にお前の顔見んの楽しかったからノッてやったっつかこんな可愛い彼女いんのに他のオンナと遊ぶワケねぇじゃん。心外だわー」

「はーっ、さっきの怒ってるお前めちゃくちゃ可愛かったな〜」と伸び伸びした口調で彼は言葉を繋げる。やっぱり蘭ちゃんのツボは分からないし一生掛かっても理解する事は出来ないかも知れない。絶対に自分が悪いことをしたっていう自覚も勿論無いと思う。

「あ、お前さぁ」
「はっはいっ」

顔を急に上げた蘭ちゃんは私を抱く腕を緩めついヨロッとコケそうになってしまった。ヒールを履いても頭一個分以上ある蘭ちゃんの顔を見上げると蘭ちゃんはニコニコと未だ微笑んでいる。

「あのメガネ君て奴は学校きたわけー?」
「メガネ君?…熱みたいでずっと休んでるみたいだけど…?」
「ふぅん、そっかぁ」

ケラケラと笑いながら口端を上げる蘭ちゃんの顔を見て私は確信して青ざめる。きっとメガネ君は熱なんかでは無くて蘭ちゃんがきっと何かをしたのだと。もしかしたら今ごろ悪夢に魘されているのかもしれない…。

「おーい。他の男のことなんか考えてんじゃねぇぞー?」
「べっ別にそういう訳じゃないよ!」

ごめん、メガネ君。本当にごめんなさい私のせいで。心の中で必死に謝るが彼に届くことは無いだろう。すると蘭ちゃんは少しひんやりとした手を私の頬に置く。その冷たさにピクリと体が反応すると蘭ちゃんは一等低い声で口を開いた。

「でも蘭ちゃんこぉんなにお前が好きで大事にしてンのに、別れるぅとか嫌い!とか言われてさぁ傷付いてんだよなぁ」
「そっそれは」

全部蘭ちゃんが原因じゃないか!って言いたかったのに、蘭ちゃんは頬に添えていた手を私の唇へと移動し人差し指を宛てがう。口を開くことを許さないとでもいうかのように、顔は笑っているのに声が笑っていない。

「どーしても別れたいんなら今ここでオマエをぶち犯すし、嫌いっつーんなら俺マジで何しちゃうか分かんないかも
「あう…」

目を細めて言う彼の言葉はきっと本気なのだろう。何せあの灰谷蘭なのだから。蘭ちゃんなら本当にやりかねない。私の選択肢は初めから一つ決まっているようだ。

「で、それ踏まえてもう一回聞くワ。俺のこと嫌い?別れたい?」



「いえっ!大好きだし別れたくありません!!」



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