素敵な恋愛を送るには、相手が好きになってくれるのを待つのではなく、自分から一歩踏み出す勇気が必要だ。
思いが通じていないのなら、まずは自分の気持ちを知って貰うことから始めなければならない。
そして気持ちを伝えるときの自分は絶対に女の子らしくと心に決めていた。もしフラれたとしても、好きな男の記憶のなかにインプットさせておきたかったからだ。アイツあんな可愛かったんだな、みたいな。
校則違反にならない程度のナチュラルメイク。髪の毛は念入りにアイロンをした。手鏡で最終チェック…よし!
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、お昼休みに入った瞬間を狙ってわたしは瞬足の如く彼のクラスへと訪れた。
すやすや眠っている彼の肩をとんとんと叩き起こすのにまず1分。これはもう慣れたものだった。そこから誰もいない空き教室に未だ寝ぼけている彼を連れて行くことに3分。辺りをぐるりと見渡し紫頭がどこかに潜んでいやしないかを念入りに素早くチェックすること約30秒。
……いない、いける!
ここまで学校に来て神経を使ったのは初めてかもしれない。
「どうしたの?」
「えっいやっ!?なんでもっ!?」
きょろきょろと挙動不審なわたしに対し想い人である凪くんは小首を傾げてわたしを見つめる。慌てて両手を左右に振りくあっと欠伸をしている凪くんを見上げれば、わたしの心臓はいとも簡単にきゅん、と音を奏でた。でも今はときめいている場合なんかではなくて。
「あっあのね、わたし凪くんのことが好き、なんだけど。それでその…もし良かったら付き合ってくれないかなって」
ずっとずっと言いたくて言えなかった言葉をやっと口にすることが出来た。それだけでも自分よくやったと褒め讃えたい。顔は熱いし心臓は尋常じゃないくらいに音を鳴らしている。凪くんが口を開くまでにそう時間は掛かっていないはずなのに、何十分も経っているかのように感じた。
「じゃあ付き合う?」
「…へ?」
「ん?」
自分で言っといてなんだけど、てっきり「女と付き合うとかめんどい」的なことを言われるとばかり思っていたから、今のわたしは驚き過ぎて目を見張っている。
まさかオッケーが貰えるだなんて思わず、そんなムードではないのについ3回も「付き合うってわたしの好きは恋愛の意味だよ!?」と普段のノリで聞き返してしまった。
「うん。それ以外に付き合う意味って他にあるの?」
「なっないよ!ないですけども!!」
「じゃあ…いいんじゃないの?」
こてん、とまた首を傾げる凪くんと、感極まって口をあぐあぐと動かすわたし。
「よっよろしくお願いします!」
「ん、よろしく」
いつか凪くんとそういう関係になれたらいいなと何度も夢見て思い描いていたそれが今、現実に付き合えることになったらもう死んでもいい程わたしの心情が大変なことになっている。
どのくらい大変なことになっているかと言いますと、
凪くんが彼氏、どうしよう、嬉しい、凪くんが彼氏、エンドレス。
それしか頭の中に浮かんでこないほど、ヤバい。
思考能力はもはや小学生以下になってしまったかもしれない。
「そろそろレオが来そう」
「あっ、そっそうだね!戻ろっか」
これからの幸せハッピーお付き合いライフを頭に思い描けばすぐにでも顔はふにゃりと緩んでしまいそうなのに、凪くんの口から出た名前と共に直ぐ浮かんでくるムラサキ。
嫌な予感しかしない。
……大丈夫だよね?うん、大丈夫大丈夫。
深いことは考えちゃいけない。今は凪くんと付き合えたことを素直に喜ぼう、そう言い聞かせて凪くんに分からないように小さくガッツポーズをした。
わたしはこうして晴れて凪くんの彼女の座をゲットしたのだ。
だけどやっぱり全然大丈夫じゃなかった。
凪くんとわたし、それと中学時代からの仲である御影玲王と3人でお弁当を食べるのはもう毎日の日課である。
お付き合いが3日経った頃、玲王に凪くんと付き合ったことを報告をした。そりゃもう自然に。さらっと。お菓子食べる?くらいの軽さで。
「ハ?聞いてねぇよそんなハナシ」
ギロッとした玲王の目がわたしを捉えその顔は怒っているという形相そのものである。急激にその場の温度が3度程下がり、一際低く放たれた声音に食べていたおかずが喉に詰まりかけた。
「そっそりゃ今言ったんだもん」
「ハァ!?」
いつもニコニコ笑顔を振り撒いている玲王が眉間にこれでもかというくらいに皺を寄せる。その顔つきまるでヤクザ。ひっ、と小さな悲鳴が出そうになったけど、玲王もわたしの性格を知っているからか拉致があかないと踏んですぐさま視線を凪くんへと移し変えた。
「おい凪!コイツと付き合ってるってマジなのかよ!?」
「うん、最近だけど」
「んなっ!?最近っていつからそんな関係になったんだよ!俺は聞いてねぇぞ!!」
「あ、凪くんてば今日もゼリー?栄養偏るからだめだってば!わたしのお弁当食べる?そうだ、もしなら明日からわたしがお弁当作ろうか?」
「マジで?いいの?」
「話聞けよ!ってかお前料理なんか出来ねぇだろ。どうせお袋さんに作らすの知ってんだからな!」
「…なっ凪くんの為なら頑張るし!」
なんで玲王がウチの内情を知ってるんだ。というかせっかく話を変えようと思ったのにこれでは凪くんに料理が出来ないことがバレてしまったではないか。
玲王に睨みを効かせるも不愉快極まりないという気持ちをこれでもかというくらい顕にして倍の睨みで返ってきた。…そんなにわたしが凪くん(宝物)と付き合うのが嫌なのか。いつも大体笑顔でいる男が怒ってる姿は幽霊を見るより恐ろしいのだと一つ勉強になった。
「凪、腹減ってんなら俺の食え。お前の好きな卵焼きもやるから」
「おーありがとう」
「ちょっと!!」
玲王はお弁当の卵焼きを箸で掴むと凪くんの口へと運ぶ。今までなんとも思わなかったわたしもわたしだが、よくよく考えればその姿はまるでカップルであり、新婚生活の嫁と旦那にも見える。
……待って待って。おかしいだろ!
「玲王、凪くんにくっつきすぎだって」
「うるせぇんだよ。お前はもっと離れろ」
「はっはぁ?」
食堂の窓側の席。そこに凪くん、玲王、の前にわたしが座っている。十分過ぎるくらい距離があると思うのですが。なんなら凪くんの隣が普通わたしになると思うのですが。
というかこの2人、前から距離近いなとは思ってたけれど、流石にあーんはどうなの?え、わたしがおかしいの?
いろいろな疑問が頭に募るも最終的に行き着く答えは
ちょっと違くないですか!?である。
この場でいがみ合っているのは玲王とわたしだけであり、凪くんは通常通り。玲王からの卵焼きを頬張り口をもぐもぐ動かしながらスマホに夢中だ。
そうして小さく放たれた言葉はわたしの耳にはちゃんと届いた。
「俺は認めねぇよ」
玲王からの宣戦布告。
長い友情がライバルへと変わる瞬間であった。
ベェッと長い舌を出した玲王にわたしの顔は見る見るうちに歪んでいき、凪くんがスマホに夢中で良かったと心底思う。だってこんなブサイクな顔を見られたらたまったもんじゃない。
▽
御影玲王とは中学時代からの仲である。
中学2年から3年と同じクラスで席が隣同士になったことから始まった。
「これも何かの縁だよな。よろしく」
この頃から玲王の周りはいつも人で溢れていた。玲王は会話の流れを作るのが得意というか、人を懐に入れるのが上手い。それでいて勉強でもスポーツでも、大体なんでもそつなくこなすのだから女子だけでなく男子からも人気だったように思う。
勉学は普通、友人にたいしても狭く深くをモットーなわたしとは大違い。そのせいか誰に対しても分け隔てなく接する玲王が初めはあまり得意ではなくて、苦手意識の方が強かった。なんだか同じ世界に住む人間ではないような気がしたからかもしれない。
それが変わったのはとある日の授業終了後の短い休み時間。
次の授業で使う教科書を出そうとしていれば、わたしの机に置かれた小さな包みのチョコレートが一粒。
「え、チョコ?」
「そ。今日コンビニで買ったんだけどさ、結構うまいよ。皆には内緒な?」
「ありがと。玲王くんてコンビニ行くんだね。意外」
「コンビニくらい俺だって行くよ。お前は行かねぇの?」
「いやわたしは塾帰りなんかに行くけど、玲王くんはなんか…ああ、アレだよアレ。お坊ちゃま君ってイメージあるから庶民の食べ物とか食べなそう」
玲王はおめめをパチパチと数回瞬きさせると、大口を開けて笑いだした。
「はっ、お坊ちゃまってなんだよ。お前おもしれぇな」
「いやでも実際そうじゃん?お坊ちゃま。あの有名な会社の息子だもん」
「んでもお坊ちゃまはねぇだろ。初めて言われたわ。普通だよ普通」
毎日リムジンで送り迎えがくる人が何言ってるんだ。ぜったい普通なんかじゃないと思うんだけどな。
苦手意識があった分、少し嫌味な言い方をしてしまったかもなんて思ったのに、玲王は全然気にしている素振りはせず寧ろケラケラと笑っていた。
その日をキッカケに1日1回、玲王はわたしに何かしらのお菓子をくれるようになった。それは飴であったり、クッキーだったり、チョコだったり。
「ねぇねぇ、コンビニ巡りにハマってるの?」
「いや別にそんなんじゃねぇけどまぁ餌付け…っつーの?」
「餌付け!!なにそれ、わたしも玲王くん餌付けした方がいい?」
「おっ!なんかおすすめの菓子でもあんの?」
余程玲王の周りにわたしのような反応をする人がいなかったのか、それともコンビニ話が楽しかったのか、理由は聞いていないけど毎日下らない日常会話をするようにもなった。この頃になると苦手だと思っていた感情なんて消え去って、寧ろ素のわたしを玲王に見せていたと思う。
とはいってもわたし達は普段連む仲間が違うわけで。
「なぁ、俺の家でアイツらと勉強会やるけどお前も来ねぇ?」
「あー…ううん、わたしはいいよ」
「お前いつも俺の誘い断るじゃん。たまには来いよ」
「玲王のお友達に悪いし、また今度参加する」
毎回同じ断り文句に玲王は不満げに口を曲げた。
誘って貰えることは有難いけど、玲王と仲良くなったからといって、玲王のお友達と仲良くなれる訳ではない。それとこれとは別な話。というよりも玲王本人に決して言えないが、玲王にガチ恋している女の子の目が怖いからというのが大半の理由でもある。お前は来るなアピールが分かりやすいんですよ。そりゃそう。わたしが逆の立場ならきっと思うだろうし。
わたしが断るたびに少し寂しげに眉を下げる玲王はほんの少しだけ、可愛く思った。
とまぁこんな感じで中学時代を過ごし、進学する高校まで一緒となればそれなりに友情というものが芽生える訳でして。
高校に上がり、歳が一つ大人に近づく16歳。
玲王はめちゃくちゃ良い笑顔でわたしの前に訪れた。
凪くんを連れて。
「おいナマエ!俺これからコイツとサッカーやるから!」
「はい?」
「…まだ決めてないし」
子供のように無邪気に話す玲王に驚きを覚えつつも、わたしの瞳は玲王に無理矢理連れて来られたかのように首に片手を回されたこの彼から視線を逸らせなかった。
「コイツ凪っつーんだけどさ、すげぇんだよ!コイツとならW杯優勝も夢じゃねぇ!」
「なぎ、くん」
「よろしく」
「よっよろしく」
その瞬間、胸が大きく脈打った。
当たり障りもない挨拶だったのに凪くんと目が合ったその一瞬で、わたしは落ちてしまったのだ。
つまりは一目惚れというやつ。本当にあるんだこんなこと。
なんで同級生なのに今まで凪くんに気が付かなかったんだろうと悔やんだほどに、わたしはその日から凪くん一直線であった。
玲王のおかげで凪くんと話す機会は少なくなかった。
玲王のおかげでたまに部活がない日に一緒に帰れる日もあった(勿論3人)。
玲王のおかげでお昼だって一緒に食べれるし。
玲王には感謝している。玲王がいなかったらクラスも違うわたしは凪くんと接点すらなかっただろう。
でも玲王に「応援して欲しい!」とは言えなかった。
だって前々から玲王は凪くんに対する執着が凄かったから。
「玲王と凪くんは本当に仲が良いんだね」
「そりゃそうだろ!凪は俺の宝物だからな!」
凪くんの方が背が高いのに、軽々と玲王はおんぶしながらわたしににいっと口端をあげる。
こんなサラりと恥ずかしげもなく凪くんを"宝物"と言ってしまえる玲王に、凪くんのことが好きだというのは躊躇してしまって今の今まで来てしまったわけだ。
それと同時に、凪くんの心の内にいられる玲王のことを羨ましく思ってしまったり。
玲王にヤキモチ妬くなんてどうかしている。
おそらく玲王は、わたしが凪くんと付き合ってしまったことに自分のモノが取られてしまったような感覚なんだと思う。
でもあんなに怒るとは思わなかった。
ふぅ、と小さくため息を吐くとひょこっとわたしの顔を除き込んできた凪くん。
「ひぇっ!?」
「なんか考え事?」
玲王抜きで初めて放課後一緒に帰る約束をしていたわたしは、唐突な凪くんの顔の近さに声が裏返ってしまった。
「なっなんにもないよ!」
「……ふーん」
いつも必ず玲王がいて、付き合ってもう時期3ヶ月経つけれど2人になれたことはまずない。マジで!?と驚かれそうだけど、マジで2人の時間はない。わたしが凪くんと何かの約束をしているときでも玲王がセットでついてくる。休み時間でも、放課後でも、休日でも。
「おいナマエ、お前今日凪と一緒に帰る約束したんだろ?」
「え"っ!なんで知ってんの!?」
「んなのバレバレ。許すワケねぇだろ」
「なっなんで玲王にそんなこと言われなきゃなんないの!」
こんな会話はいつからか日常茶飯事である。
凪くんも凪くんで玲王といるとき表情はあまり変えないが楽しそうだから嫌だと言えない。それに悶々してしまうわたしを玲王はきっと分かっているはずだ。
だけどチャンスは突然やってきた。
玲王が今日は寄り道せず家に帰らなければならない用があったのだ。部活も休みだということで、こんな日はもう二度と巡ってこないかもしれない。
「絶対ぇまっすぐ帰れよ」
そう言い放った玲王に対し、心の中で息子溺愛する姑かよとツッコミを入れてしまった。危うく声に出てきそうだったのをちゃんと飲み込んだわたし、偉い。
こんな風に2人でゆっくり話すのなんて付き合ってから初めてだったので、いざそうなると何を話していいのか分からない。
もっといっぱい話したいのに、中々話題は思いつかなくて。
そうしたとき、凪くんは口を開いたのだ。
「俺んち来る?って言っても寮だけど」
聞き間違いかと思った。だって何処行くにもいつもわたしか玲王が決めるってのがパターン化していたから、まさか凪くんの口から誘いが出るだなんて思わなかったのだ。
「イヤならいいけど」
「いっいやじゃないよ!嫌なわけないじゃん!ってかめちゃくちゃ嬉しい、んだけど…いいの?」
「良くなきゃ誘わないよ」
わたしの顔からパァ、と効果音が鳴りそうなほど明るくなったのが自分でも分かった。凪くんはそんなわたしを見てぷい、と顔を前に向けるとわたしの手を初めて取ったのだ。
「…こっち。早く行こ」
▽
好きな男の子と初めて手を繋いだというだけで心情がぐちゃぐちゃに暴れ回っているというのに更に凪くんの部屋までお邪魔出来たと思えば、変態な自覚はあるが今日のわたしは眠れないかもしれない。
「ごめん。散らかってる」
「ううん、全然平気だよ」
緊張し過ぎていつものように話すことが出来ない。それでなくとも隣に座っている凪くんの距離が拳ひとつ分しか開いていないって状況だけで、死んでしまいそうだ。
「なんかいつものナマエと違うね」
「そっそうかな?ってかちょっと緊張しちゃって。えとホラ、いつも玲王が一緒にいたし2人の時間ってあんましなかったからかな」
えへへ、と笑顔を作ってみるも凪くんは一切表情を変えずにわたしを見つめるものだから、思わず息を飲んだ。
「あ、えと…凪、くん?」
名前を呼べば小さく「ん?」と返してくれた。
徐々に彼の顔が近付いてきて、触れ合った柔らかな感触。
それはキスというもので、重なった唇が離れると、凪くんは形の良い口を開いた。
「なんで玲王のことは玲王って言うのに俺のことは凪って呼ぶの?」
「……へ」
「俺も下の名前で呼んで欲しいんだけど」
わたしの見間違いでなければ凪くんの顔は少しだけつまらなさそうな表情に見て取れる。
「俺の下の名前知ってる?」
「せ、せいしろうくん」
「"くん"いらない」
「えっ!!」
待って下さい。キャパオーバーなんですけど。
目の前にいる凪くんは本物の凪くんなのでしょうか。誰か教えて。
金魚のようにぱくぱくと口を開けるわたしに、凪くんはもう一度キスを落とす。
「呼んでくれないの?」
「…せいしろ、ぉ」
名前を呼ぶだけでこんなにも恥ずかしくなってしまう自分をどうにかしたい。
凪くんは満足気に口元に弧を描く。
「ん、良い子。本当はレオのことだって下の名前で呼ばせたくないんだけど。俺と知り合う前からだし仕方ないけどさ」
「え?」
凪くんはわたしに見られぬように顔を逸らす。
そうして言葉の意味をゆっくり理解するとわたしはつい言ってしまったのだ。
「…それってヤキモチ、ですか?」
「……そうって言ったらめんどい?」
「そっ、」
そんなワケない!!
自分が思った以上の声が出てしまい、「…うるさ」と凪くんは顔を顰めた。
▽
「おいおい、なんでお前が誠士郎呼びしてんの?っつかお前ら距離近くね?」
「付き合ってるんだからこれくらい普通だし!」
「普通じゃねぇよ昨日までお前らそんなんじゃなかったろ!」
放課後、玲王が凪くんを迎えにくるまでの数分間。
わたしは凪くんのクラスにいた。
「昨日まではって、別に玲王には関係ないじゃん」
いつものわたしであればここまで言うことはないが今日のわたしはちょびっとだけ玲王に対し強く出れる。
反抗したわたしに玲王は気分を害したのか凪の腕を半場強引に掴んだ。
「おい凪、昨日俺がいない間に何があった」
「別になんにも。昨日俺の部屋にナマエ呼んだだけ」
「は?はぁぁ??」
玲王は信じられないようにわたしと凪くんを交互に凝視する。
「おまっ、昨日はまっすぐ帰れって言っただろうが!」
「なっなんで玲王にそんなこと言われなきゃなんないの!」
「なっ!なんでって」
「誠士郎はわたしの彼氏だもん。ちょっと2人で遊ぶくらい良いじゃんか!なんで付き合ったって言った途端そんないつも怒ってるの!?」
「別に怒ってるワケじゃ、」
「怒ってるよ。毎回わたし達を2人にさせないようにしてることくらい知ってるんだから!確かに玲王が誠士郎を初めに見つけたのかもしれないけど…っ付き合ったこと報告したときも認めないとかなんとか言って玲王はお母さんなの!?なんで友達なのに喜んでくれないの?」
言ってやった。ついに言ってやったのだ。
ずっと思っていた玲王にたいしての気持ちをついに。
だってここまで玲王がわたしと凪くんが付き合うことにたいして反対する意味が分からない。
部活動やら帰宅する人なんかが教室を出て行き、良くはないが今教室に人が少ない状況で心底安堵する。
玲王はわたしがそんなことを思っていたとは予想すらしていなかったかのようで、傷ついた顔をしてみせた。
あれ?
わたしが思っていたのと違う反応が返ってきたことに拍子抜けしていると、玲王は小さく震えたような声で呟いたのだ。
「…凪だけじゃねぇよ。お前のことだって俺が初めに見つけたんだから、お前だって俺だけのモノだっただろうが」