ブルロ夢 | ナノ


わたしに落ちてはくれないの





幼なじみといえば違うし、ただの友人かと問われるともうちょい深い関係な気もする。顔は知ってるし同級生だけど今までそんな話さなかった人っているじゃん?でもクラスが一緒になったら仲良くなった、みたいな。わたしと潔はそんな感じから始まり友人関係が出来上がった。

小学校5年生の時にクラスで席が隣になって以来続いているこの良き関係性は、わたしが思うに親友に値するのではないかと思う。それくらい話をしていて楽しいし、居心地がいい。そこに恋愛感情をわたしが抱いてしまっているというだけで。

ニッカリ笑った顔が可愛くて胸にはなんとも言えない高鳴りを覚えた。母性本能を擽られるような、心臓を鷲掴みにされる感覚。あの笑顔を見てしまったら、仏像でもない限り正気を保つことは難しいと思う。

毎年の事なのに夏の暑さには慣れなくて、陽はカンカン照りだしセミも鳴いている。小学生のわたしにとったら家までの帰り道が地獄の道のり。だけどその日初めて「家近いし一緒に帰ろうぜ」とわたしの横を歩いた潔の笑顔に、一瞬暑さを忘れた。それくらい爆発的破壊力が潔にはあったのだ。

「あづい!アイスが食べたい!ソーダのっ」
「うん、マジで暑いよなぁ。買いに行くか?」
「でも寄り道はバレたらヤバくない?」
「今日は特別。お小遣いもあるし、俺も丁度食べたかったんだよ。奢ってやる!」

そう言ってランドセルからお財布を取り出した潔はちょっと悪戯げに口端を上げ近所の駄菓子屋さんに足を運ぶ。前々から薄々思っていたけれど、こういう会話がわたし達のなかでたまにあって、気付いてしまった。潔って自分はそんな気がないのに、まるで自分もそうであったかのように振る舞ってくれることが多いなぁって。例えばこの日のようにアイスであったり、宿題を忘れて居残り勉強をすることになったと泣き言を嘆いたとき、「俺も分かんないから一緒やろ」と言ってくれたりだとか。もしかしたらこれはただの自惚れで、他の人にもそうだったのかもしれないけれど、意識したら余計と意識してしまって、いつの間にかわたしは潔に現在進行形で片思いしてる。

つまり、彼は自然と距離を近付けて来るのが上手かったってわけだ。



「…わたし、潔のこと好きかもしんない」

初めて気持ちを伝えたのは小学6年生。
クラスが変わってしまって話す頻度が少なくなってしまったことに寂しさを感じ、放課後サッカーのクラブにも通っていた潔と会える時間も減ってしまった際の、久しぶりに一緒になった帰り道。

「え?」

潔のきょとんとした顔に幼きながら心臓はバックバクで、目は泳いで何処を見れば良いのか分からない。人生初告白に対してこんな告白の仕方で合ってる!?と頭の中はぐちゃぐちゃだった。

ぷ。

気の抜けるような笑った声が耳に届き、まだその頃あまり身長差のなかった潔に顔を向けた。するとやっぱり潔は笑っていて、今度はわたしがきょとんとする番だった。

「ふっふふ。なんだよいきなり」
「え、いやっえっと」
「俺も好き。俺女子のなかで1番お前と仲良いからさ、ナマエとクラス離れたの正直言って寂しいよ」

へにゃりと笑った潔が天使のようで悶えそうになったけど、それ以上に心臓へ鈍い痛みが走った。素直な言動、悪気を感じない屈託のない笑顔。幼きながらも分かるわたしとは違った温度差。

「あ、わたしの好きって、」
「そういえばポケモン何処まで進んだ?俺やっと4つ目のバッジゲットしたんだけど」
「ぁ…っと、7つ!」
「すっげー!早くね!?流石だなお前っ」

キラキラとした青い瞳を見たら、それ以上の言葉は詰まってしまって飲み込んだ。そうして自然の流れで告白は溶けてゲームの話に変わっていく。でも潔はわざと話を逸らしたのではなく、単純に潔がわたしを"大事なお友達"カテゴリーに分類しているということが嫌でも分かってしまったから、形容し難い感情で嬉しいやら切ないやらで言葉にするのが難しかったのだ。

しかしそこで諦めるわたしではなく、ここからわたしの熱烈アピールは幕を開ける。

わたしの好きは恋愛の意味で好きなんだよと分かって貰う為に、色々考えそれはもう頑張った。意識して貰える為ならなんだってしたと思う。クラスは違えど毎日1回は挨拶含めて何かの会話をするよう心掛け、さり気ないボディタッチは欠かさない。少しでも可愛く思って貰いたく先生にバレない程度のナチュラルメイクに、髪の毛は女の命と聞いたものだからトリートメントも欠かさず。お父さんの雑誌の切り抜き(ノエル・ノア)を手渡したり、バレンタインには毎年必ずチョコ(勿論形はハートで手紙付)を渡し、一人で帰る潔を捕まえては一緒に帰ろうと声を掛けた。

「潔、好き」
「うん、俺も。あっ今日なんだけどさ、ウチ寄ってく?お前の好きな漫画、最新刊買ったし」

それでも気持ちを伝えたって何故か恋愛面での告白だと思われない。悲しきことに「お前すっげー良い奴」止まりである。中学に上がる頃になれば頻繁ではないけど家にまで遊びに行ける関係性にもなった。潔と同じ高校に行きたいと伝えたときは「いいじゃん!また時々一緒に帰ろうぜ」と肩を叩かれた。昔より距離は近くなったのは嬉しい限り。でもてんで意識をして貰えない。


「これ以上何をしたら意識してくれるワケ!?」

「アハハ、流石に長いね
「ナマエって小学生の頃から潔くん好きなんだっけ?もう4年?5年?」
「ってかあんな仲良いのに付き合ってないのが逆に驚くんだけど」

机に項垂れるように頭を置くわたしに友達たちは苦笑する。

潔はわたしを好きだと言ってくれる。友達の意味合いでもそりゃ嬉しいよ。潔がわたしを友人として認めてくれてるってことだもん。でも…でも。

「お、潔」

声の先へ反射的に顔を向ければ、友人に肩を抱かれ楽しげに話している潔が目に映る。潔が視界に入る度に思うのだ。好きだなぁ、彼女になりたいなぁって。

「っ、」

わたしがジッと見続けていたからか、潔の視線がわたしにぶつかった。ドキンと心臓は大きく鳴って未だに顔は火照り出す。潔はへにゃ、といつも通り笑ってわたしに手を振ってくれる。一瞬の出来事だけど、こういう何気ないことが嬉しくって堪らない。


でもさ、結局どう頑張ってもわたしの好きはまだ届かない。








潔の何処が1番好きかと言われると、返答に困ってしまうくらい全部好きだ。笑った顔は世界一可愛いのに、ボールを追い掛けている潔は別人で、とってもとってもかっこいい。さりげなく車道側を歩いてくれるところも素敵だと思うし、人を持ち上げることが自然と出来てしまうところは尊敬だってしてる。

「ノアのようなエースストライカーになってW杯優勝したいんだ」

潔の夢の話は、小学生の頃に聞いていた。
少し恥ずかしげに教えてくれた潔の夢の話、聞けて嬉しかった。「わたし応援する!」って両手に拳を作って口にした言葉も嘘じゃない。ずっとずっとサッカー一筋で頑張ってきた潔だもん。1歩ずつ夢に近付いていく潔に言わなきゃいけない言葉なんて決まっているのに、潔に「強化指定選手に選ばれた」と1枚の用紙を見せられたとき、わたしはすぐに頑張ってねという言葉が出て来てくれなかった。

「…いつ行っちゃうの?」
「明後日。もっとナマエには早く言わなきゃと思ってたんだけど、LINEじゃなくて直接言いたくてさ」
「そ、か。明後日…」

久しぶりに呼ばれた潔の家。部屋の隅っこには荷物の整理をするつもりなのか大きなバッグが置いてある。

喜ばしいことなのに、わたしの口はぎゅと紡いでしまう。急過ぎていつもの調子を取り戻せないでいると、潔は不思議そうにわたしの顔を覗き込む。

「ナマエ?どうした?」
「ぁ、っな、なんでもないよ!凄いじゃん!選ばれた人だけ行けるんでしょ?さっすが潔っ。応援してるからね」

慌てて笑顔を取り繕う。潔はぱちぱち、と目を瞬きさせると、安心したように息を吐いた。

「ああ、ありがとな。お前がいつも応援してくれるお陰で頑張れるよ。お前と会えなくなんのは寂しいけどな」

頬を掻きながらわたしの大好きな笑顔を見せる潔に胸は苦しくなる一方だ。いつもだったらこんなこと言って貰えたら飛び跳ねるくらい嬉しいのに、今日はそんなこと思えなかった。だってなんだか、最後のお別れみたいじゃん。

潔から目を逸らし、咄嗟に俯いてしまう。
嬉しいことなのに、潔が夢に向かっていくのを応援したいのに。なんでだろ。つい泣きそうになって唇を噛み締めた。

「…き」
「ん?」

潔の袖を掴む。今言う場でないのは分かってるんだけど、多分きっと今日で伝えるのは最後な気がするから、今しかないと思ったのだ。

「いさぎのこと、好き」

声はきっと震えてた。視界だってちょっと滲んでる。俯いているせいで潔がどんな顔をしているのか分からないけれど、怖くて見れない。

「俺も、」
「そういうんじゃなくて」
「え?」
「そういうのじゃなくて…っ友達としても勿論好きだけど、潔のこと、おっ男の人として好き、で」
「は、」
「ずっと潔の彼女になりたかったの」

いつものわたしであれば、こういう風に言い切ることが出来なかった。いつかは潔の大事な子になりたいと思ってはいたけれど、今の関係が崩れて会話すら出来なくなってしまうことも怖かったから。

「…俺は」
「や!大丈夫!!潔がわたしのことを友達として好きでいてくれてるのも分かってるんで!えと、青い監獄だっけ?頑張ってね!こんな時に告っちゃってごめん。潔が夢を叶えるの応援してるからっ」
「あ、待てって、」
「むりっ!返事は分かってるから!ちょっと言っちゃった手前悪いんだけどほんと気にしないでっ!わたし夕方からバイトだし帰るねっ」
「おい!」

潔が伸ばした手をするりと交わしできる限りの元気を取り繕った。お菓子を持ってこようとしてくれていた潔のお母さんに会釈だけして家を後にする。

「う"っうぇっ…っふ」

ぽろぽろ落ちてくる涙を袖で拭って足早で自宅へと帰宅する。潔はきっとわたしも喜ぶと思って青い監獄の話をしてくれていた筈だ。なのにわたしってば最低だ。会えなくなってしまうと思ったらあんな態度取った挙句に告白して逃げるように帰って来てしまった。バイトなんて咄嗟に嘘をついてしまったけれど、今日シフトが入ってなくて本当に良かったと思う。


次の日どんな顔をして会えば良いんだろうなんて考えては眠れなかったけど、潔は準備の為に学校を休んでそのまま青い監獄へ行ってしまったから、本当にわたしの恋はこれで終わりを迎えてしまった。





潔が青い監獄へ行ってしまってから、毎日変わらない日々を送ってる。友達は心配してくれて気を紛らわせようとカラオケとかファミレスに連れて行ってくれたりもしたけれど、いつまでも気を使わせてしまうのは悪いと思って吹っ切れたフリをしてる。

本音の本音は吹っ切れたいのは山々なんだけど、やっぱり何処かで潔のことを1日1回は考えてしまう。今頃頑張ってるのかなぁとか、あの時本気で好きだと言わなければ友達関係は拗れなかったのになぁなんて。あんなに彼女になりたくて好き好き言ってたくせに、友情関係まで壊れてしまうとなれば寂しいだなんて矛盾してる。

小学校から潔に恋をして今までずっと近くにいたものだから、いつかはこうなるかもと何処かで思っていたのに中々前を向くことはまだ出来そうになかった。

1ヶ月、2ヶ月と過ぎていく。
きっと潔はもう前を向いて世界一のストライカーになる為に日々努力を重ねて頑張っているんだろう。

わたしもいい加減前を向かなきゃ。
前を向いて、いつか潔にまた会ったら、いつも通りに接することが出来るように。



諦めるなら、その人のことを思い出にしなくちゃならない。

だから相手にこれ以上目を向けちゃいけない。



なのに、なのに。




『潔世一の"直撃蹴弾"が突き刺さり"青い監獄"逆転GOOOAAL!!!』

試合終了のホイッスルと共に湧き上がった歓声と画面に大きく映る潔と仲間たち。わたしが今まで見ていた潔とは一体なんだったのかと思ってしまうくらいに、見ているこちらまでもが瞬きすら忘れてしまうような熱い試合。相手はU-20日本代表選手だ。そんな強敵に、まさかラスト1点を潔が入れ青い監獄が勝利を掴むことが出来ただなんて、誰が想像出来ただろうか。

「す、凄い」

テレビの前で拍手するのなんて生まれて初めてだった。冷め止まない興奮を前に、潔が映る度に未だに胸は痛むけど、それ以上に嬉しかった。嬉しくて嬉しくて堪らない。


良かった、と思う。
あの時わたしが告白したせいで潔にとって重く受け止めてしまって、万が一サッカーのコンディションに関わってしまったら申し訳ないと思っていた。

でも仲間と抱き合う潔を見たら元気そうで安心する。



『潔選手、今この気持ちを誰かに伝えたい人はいますか?やっぱり家族ですかね?』
「えっ!?えーと…あーと、そっすね」

先程までインタビューで男らしい言葉を述べていた潔は急に口篭る。こういう所、変わってなくて思わず笑みが溢れた。

潔は何かを考えている素振りをすると、言葉を決めたのか小さくふぅ、と息を吐いて言ったのだ。



「言い逃げした俺の好きな子に伝えたいっすね。今きっと見てくれてると思うんで」
『えっ!?それは、』
「なんか俺ら空回りしちゃってたみたいで。よく俺のこと好きって言ってくれる子がいるんすけど、お互いのこと友達としての好きだと思ってた、みたいな?アレ、伝わるかなコレ。はは」
『え?え?ん?』


「まぁとにかく俺はお前のことちゃんと女として好きだからって言いたいです。俺が今こうしてここに立てているのも彼女がずっと俺の夢を応援してくれていたからなんですよ」




へへ、と恥ずかしげに笑う潔にインタビュアーは固まり静けさが襲う。テレビの前のわたしはというと、口を開けて凝視からの思考は一旦停止。

ちょっと待って待って。


え??



「えええっ!?」






潔世一という恋愛にからっきしなエゴイストに恋をしたけど本日の私はマジで死亡




「潔くんやるね。ってかマジでなんで上手くいかなかった!?ってナマエから話聞いたとき思ってたんだけど」
「それな!だって潔くんてナマエが男子と話してる度に物凄い顔で圧掛けてたよね。あたしナマエを男子校の文化祭誘った時近くに潔くんいてさ。死ぬほど良い笑顔向けられたんだけど、鬼みたいだった」
「何それ。鬼で笑顔て草生える。ってか噂してたらナマエから電話来た。絶対潔くんのことだべ」



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