ブルロ夢 | ナノ


私をヒロインにしてくれる人



※青い監獄から帰って来た私の彼氏が別人のように吹っ切れていたし別人のように甘くなってた話



「好きです!付き合って下さい!」

もっと伝えたいことはあったのに、いざ本人目の前にするとシミュレーションしていた言葉は1から100全部頭から吹っ飛んで、どシンプルな言葉だけが口からもれた。

豹馬くんの取り巻きたち(自分含)の目を盗み、下校時に合わせて靴箱へと向かう彼を引き止めた際の少女漫画でよく見るような告白。

彼は恋愛よりサッカー人間だということは知っている。でも進学する高校が別だと小耳に挟んだものだから、自分の気持ちにいてもたってもいられなくなってしまったのだ。今逃したら引き止める機会なんてもうないだろうし、一生後悔しそうだって。

「……」

豹馬くんがわたしを見下ろしている視線が突き刺さる。
ダレお前って言いたいんだきっと。そりゃそう。
わたしは豹馬くんのことを勿論知っているが、豹馬くんがわたしを認知していないことも知っている。学年は同じでも、クラスが違うわたしには話しかける勇気なんてないまま時だけが過ぎ、ちゃんと彼と会話をするのはこれが初めてであったから。

フラれるのは確定している告白なのに、超がつくほど心臓の音が忙しない。数分にも満たない沈黙に耐えられそうにもなく、自分で言ったくせに走ってその場から逃げたくなった。今だけ豹馬くんよりも速く走れる気がする。

「…って、伝えたかっただけなので!いや無理なの分かってるんで!だいじょ、」
「いーよ。付き合っても」
「へ」
「俺と付き合いたいンじゃねぇの?」

遂には耐えられず自分からマイナスなことを口にしてしまう始末。
え、幻聴?と顔を上げたわたしに、豹馬くんは「何その反応」と言いたげに綺麗な顔の眉間に皺を寄せた。

「やっそうなんだけど、フラれると思ってたんで…え?」
「なんでフラれる前提?…ってかソレある意味すげぇ勇気じゃね」
「あっありがとう?でも…え?」

なんなんだこの会話。いやだって彼は結構バッサリ物言いをすることも有名で、それに泣いた女子は数知れず。卒業していった綺麗な先輩も、学年一可愛いと噂のあの子も、みんなみんな豹馬くんに好きだと伝えた子はフラれたと聞いていた。だからまさかこんなあっさりオッケーが貰えるだなんて予想の範囲を遥かに超え、頭上にはハテナばかりが募っている。信じられなくて。

豹馬くんは呆けたわたしに差程興味がないのかポッケに手を突っ込んだまま背を向けた。そうしてさらっと赤みの髪をゆらしてゆっくり振り返ると、言ったのだ。


「付き合うのはいーけど、俺サッカー優先だし多分そこらの、つーかあんたが期待してるようなことあんまし出来ねぇと思うけど、そんでもいいの?」


豹馬くんが問う。まるでわたしを試すかのように。
期待していることって?彼氏彼女らしいことが出来ないってこと?出掛けたりとか、そういうこと?

ぽけ、と空いた口をきゅっとしめる。
付き合えると思っていなかったからその先のことなんて考えてもいなかった。けれどそんなのわたしが出す答えなんて決まってるじゃんか。

「構いません!!」
「声でっか」

即座にツッコまれ羞恥心で顔に熱がこもりだす。
「つかタメだろ。なんで敬語?」と小さく笑われて、とうとう死んでしまいたくなったわたしは両手で頬を覆った。豹馬くんはそんなわたしをその場に置いて、今度こそ背を向け行ってしまったけれど。



こうして中学3年の初秋の風が吹く季節に、わたしは千切豹馬の彼女になったのだ。





それから豹馬くんとのお付き合いは順風満帆…ということは全然なかった。中学卒業するまでの間、わたしが豹馬くんと遊べたのは数回であるし、高校に上がれば毎日顔を合わせることも出来なくなったし、わたしの思った通りいや、なんなら中学の頃より彼は大層女子の人気者になってしまい勝手にヤキモチを妬いている日々。ぜんぶぜんぶ分かっていたことだけど、実際は結構心にクるものがある。素直に周りのカップルらしく自分の気持ちを伝えることが出来ればいいのだが、面倒臭いとか重荷になりたくなくて会いたいとか豹馬くんへの気持ちに蓋をし極力控えていた。だって夢に向かって頑張る彼を応援するのがわたしが出来る役割だと思っていたし、なにより初めに豹馬くんとのお付き合いに至る際に言われた言葉があとを引き、フラれたくなかった。


だからかもしれない。


「お前ってなんで俺が好きなの?」


高校1年。足を怪我してしまった豹馬くんに言われた言葉。やっとほんの少し、豹馬くんとの距離が近付いてきたかなと思った矢先の出来事だった。

静寂に包まれた室内で、初めて聞く嘲笑ったような底冷えた声音に、わたしの表情は凍りついた。

「え?」
「お前ってサッカーしてる俺が好きになったんじゃねぇの?」
「そっそんな訳ないじゃん!」

思わず大きく否定するも豹馬くんは全く表情を変えない。
豹馬くんの言う通り、初めはサッカーをしている彼の姿を見て好きになったのは確か。でもそんなの好きになりたての頃の話だ。幼稚園児の女の子が足の速い子を好きになるのと同じように、好きになるキッカケだけは単純であったり小さなことが多いと思う。勿論、今だってサッカーをしている豹馬くんは格好良いと思うし、好きだ。でもそれだけじゃない。わたしに対して向けてくれる笑顔にときめいたり、前は一緒に帰ってもわたしの一歩先を歩いて行ってしまう豹馬くんだったけど、今はわたしに歩幅を合わせて歩いてくれるそんな小さな優しさも大好きなのだ。もっともっと、好きなところがいっぱいある。

目の前に、いつもの余裕に溢れている豹馬くんはそこにはいない。つまらなさそうに、興味のなさそうに、あの頃わたしが告白したときみたく、他人を見るような目つきでわたしを見つめている。

「…キッカケはサッカーしてる豹馬くんを見てからだけど、今はちがうよ」
「……」
「どこがって言われたらいっぱいありすぎてわかんない、けど…全部すきなんだもん。ていうか、どんな豹馬くんでも好き…それじゃだめ、なのかな」
「はっ、なんだソレ」

今ちゃんと伝えなければいけないと思うのに、豹馬くんを見たら言葉に詰まって鼻の奥がツン、と痛みだす。わたしが泣いてる場合なんかじゃないのに、豹馬くんの方が泣きたい立場なのに。上手い慰め方が出来ない自分にも悔しくなって、服の袖で溢れてくる涙を必死に拭う。

「ばーか。お前が泣く意味がわかんねぇよ」

滲む視界に豹馬くんの眉を下げて笑った顔が映る。わたしの頭を引き寄せた豹馬くんは、そのまま黙ってわたしを宥めるように頭をポンポンと撫でた。わたしが彼を支えなければならない立場なのに気の利いたセリフひとつも言えない自分が嫌になった。





「豹馬くん、好き」
「…どーも」

それからのわたしは会うたび彼のことが好きだと思った際には必ず自分の気持ちを伝えるようにした。それくらいしか出来なかったのだ。豹馬くんはまんざらでも無さそうに一言短く返事をして、わたしから視線を逸らす。好きだと返してくれたことはなかったけれど、毎回ちょっとだけ顔を染める彼が見れるから、その顔が一番好きだと最近気付いた。ボールを追い掛けている豹馬くんもかっこいいけれど、この顔は唯一わたしだけが見れる表情だからかもしれない。
そうしていつもその後に思うことがひとつ。ゆっくりでもいいからいつか豹馬くんが、豹馬くんからわたしを求めてくれたら嬉しいなって、そう思うようになったのだ。


でも恋愛って、本当に難しい。
少しずつ距離を縮めてきたつもりだったけど、実際のところ豹馬くんのことをわたしはなんにも知れていなかった。
彼の怪我に対する思いも、わたしに対する気持ちも、ぜんぶぜんぶ、知らなかったのだ。


「っもう一戦しよ」
「別にいいけど、お前敵に攻められるとすぐ焦るから弱ぇんだよ。周りをもっとよく見ろ」
「…次は負けないもん」
「手加減してやろうか?」
「それはイヤ!!」

ニヤァと楽しげに口角を上げた彼が目に映る。やったことのある某有名なゲームをしたって、豹馬くんに勝てたのは片手で数回だけ。わたしは何をしたって豹馬くんより劣っている。

豹馬くんは、前よりわたしと居る時間が増えた。部活動にも顔を出しているようだけど、リハビリがある際の暇な時間をわたしと過ごしてくれるようになった。一緒に過ごしてくれる時間が増えた、それは昔のわたしにしたら願ってもない幸せなことなんだけど、ちがう。好きな人の力になれない無力さって、しんどいものがある。

コントローラーを机に置きぐぐっと小さく伸びをした豹馬くんはわたしの手からもコントローラーを奪うと、わたしの顔をじっと見つめる。

「やっぱもうやめ。休憩」
「えっ」
「飽きた」

思考回路は即座に遮断。短かった彼の髪は今や伸びかけて、傷みの少ない綺麗で細い髪の毛がゆらり、と揺れた。

あっ、と思ったときにはぷにっとした感触がわたしの唇に伝わった。それがキスされたんだと分かるまでに、何秒掛かってしまったんだろう。

「……」

彼の深い蘇芳色の瞳が薄くひらく。
どきん、と心臓が大きく跳ねた。

わたしの顔が赤く染め上がる前に、彼の透き通るような声が耳を通過すると、熱を帯び出した体の体温がすぅ、と消えていくのを感じた。



「俺、来週からここ行って来ようかと思ってる」


「へ??」


目の前がまっくらになるって正にこの事。
このタイミングで言いますか?
豹馬くんは1枚の紙をわたしに見せた。硬直プラス放心状態のわたしは目線だけその紙の文章に移すも、内容が頭に入ってくる訳がない。


「…暫くは会えねぇと思う」


悪い、と一言告げて近付いていたその距離が離れると、わたしに「送ってく」と身支度を始めた。


まってまって。状況と心情が、全く追いつかない。






簡単に言えば、彼はブルーロックという場の強化指定選手に選ばれたらしい。まずそのブルーロックについても訳が分からなかったし、いつからその話が出ていたのかもわたしは知らなかった。あの日を境に1週間後、本当に行ってしまった豹馬くん。別れの挨拶もとくになく、いつ帰って来るのか聞いても分からないの一言。選ばれたということは喜ばしいことなのかもしれないが、急すぎて笑顔で見送ることが出来なかった。

そして数ヶ月。出発した日を境に豹馬くんから一度も連絡が来ない。メッセージだって送ってみたけれど、返信すら返ってこないのだ。そうすると、最悪な展開しか思いつかず嫌な想像がぐるぐると巡ってきてはぶんぶんと頭を横に振る。暫く会えないとは言ったって、1ヶ月、2ヶ月と月日が経ち鳴らないスマホとにらめっこし、いつ帰って来るかも分からない彼氏のことを考えていると、段々あれ?わたし達、もしかして自然消滅したのでは?と考えるようになってしまった。

わたしにとって一大事なことでも、豹馬くんにとったらそれ程のことではないのかもしれない。それなりに年月重ねて歩み寄って来たつもりだったけど、相談さえして貰えないってことは、そういうことなんだろう。

サッカーをしている豹馬くんがすきだ。
わたしはサッカーについて勉強したとてにわか知識しかないけれど、豹馬くんのプレースタイルについて話すのなら大得意だ。だからきっとわたしは豹馬くんがその時に一言行こうか悩んでいることを教えてくれていたら、寂しいが応援していただろうと思う。


「…結局わたしって豹馬くんのなんだったんだろ」


ぽつ、と出た独り言。虚しすぎて頭がおかしくなりそう。
でも仕方ない。すぐに前を向ける訳じゃないけれど、好きな人が頑張っているのなら応援しなきゃ。そうやって自分に言い聞かせるしかなかったのだ。








「よっ、久しぶり」

「…へ」


高校から帰宅して、家に帰ればママがニコニコ笑って「お客さんが来てるわよ」とか言うものだから不信感抱きながらも部屋のドアを開ければ、腰抜かした。

目の前にはつい先日からテレビのニュースで話題に取り上げられまくりの一人、千切豹馬がいたからだ。

「あ?へ?なんで、いるの?」
「ん?あぁ、今日から2週間のオフ。ってかさ、おかえりって言ってくんねぇの?」

ずっと棒立ちのままの状態のわたしに豹馬くんは「こっち来い」と手招きする。ロボットみたくかちこちのわたしを豹馬くんは笑って隣に座らせるのだ。

「だっ、」
「ん?」
「代表戦見たよ…おめで、と」

頭も口も回らないわたしは、これを言うだけで精一杯。
俯いて自分の膝を見つめるわたしに、豹馬くんは覗き込む。

「ん、ありがとな」

その瞬間、留めていたものが溢れかえって涙が溢れた。豹馬くんの前で泣くのはこれが2回目だ。

「まぁ交代になっちまったけど、」
「かっこよかったよ。っいちばん、豹馬くんがかっこよかった」

豹馬くんにもし次会うことがあるのなら言いたいことは山ほどあったのに、この言葉しか浮かんでこないのだ。だってわたしの中で一番フィールド上でキラキラしていたもん。あんな楽しそうに試合している豹馬くんを、かっこいいと思わない訳がない。

何年も会えていなかった訳ではないのに懐かしく感じてしまうから、余計と涙は止まらないし会えばやっぱり好きだと思ってしまう。

「俺、本当はサッカー諦めるつもりだったんだ」
「…へ」
「その為にブルーロックに行ったんだけどさ、アイツらとサッカーしてたら色々吹っ切れたっつーかなんていうか。もう1回、夢見てみようって思えたんだ」
「……」
「そんで一人の時間に考える余裕も出来てきて、そういう時に思い出すのが必ずお前」

彼の指がわたしの涙を掬い取る。

「俺お前になんにもしてやれてなかったろ。それすげぇ後悔してたんだよ。…お前は俺のこと好きっていつも言葉にしてくれてたけどさ、俺はそれに答えてやることが出来てなかったなって。スマホも取り上げられてたせいで連絡手段もねぇし、すげぇ寂しい思いさせたって思ってる…ゴメンな」

豹馬くんが自分の気持ちを表に出すだなんて初めてで、わたしは息を飲む。

「そうだよ…すごく、寂しかった」
「うん」
「豹馬くんが行っちゃってから色々考えちゃって、わたしじゃ豹馬くんのこと支えてあげることも出来なかったんだな、とか相談もして貰えない仲だったんだってショック受けて、スマホの件は分かったけど…1回も連絡なかったから、別れちゃったのかもって、」
「そんな訳ねぇだろ。…俺が悪いけど、お前が別れてぇって思ってても別れてやんねぇから」

わたしの口がポカン、と開く。
この素直過ぎる豹馬くんはわたしの知っている豹馬くんではないと脳内で騒ぎ立てている。わたしの涙を拭ったその指をわたしの指と絡ませたと思ったら、そのまま手を引き寄せて触れるだけのキスを落とした。


「なぁ、今日改めて思ったんだけどさ。俺、お前のことすげぇ好きなんだと思う」


ぶわぁ、と急激に熱くなる体の体温。それもそのはず。だって初めてちゃんと豹馬くんがわたしのことを好きだと言ってくれたのだ。どうしよう、好きな人に好きだと言われることがこんなに幸福になれるだなんて初めて知った。
今度は感激し過ぎて目が潤むわたしに、豹馬くんは「泣き虫」と小さく囁くとわたしをその場に押し倒す。

「どっどうしよひょうまく、嬉しくてやばい、です」
「…言わなかったんじゃねぇから。言えなかっただけだからな、恥ずくて」

照れ隠しのように豹馬くんはまたもう一度キスをする。
豹馬くんて、こんなに可愛い人だったんだ。
短く触れた唇が離れると、彼の髪がわたしの頬を擽りそれがくすぐったい。

「あのさ、これから先も俺の一番近くで応援してくれる?」

不安げにわたしを見下ろす豹馬くんに、わたしの返事なんて決まっている。だけど今まで言えずに秘めていたわたしの気持ちだってある。だからわたしは彼のサイドの髪を耳にかけ、そっと口を開いた。

「これからもサッカーが一番でいい…けど、わたしといるときだけはわたしを豹馬くんの一番にして欲しい」

豹馬くんの大きな瞳がぱちぱちと瞬く。
そうして顔を染めた彼は堪らなくなったようにわたしをぎゅうぅ、ときつく抱き締めた。






「…図る対象が違えよ。ってかお前が気付いてねぇだけで……俺にとってナマエはもういなくちゃなんねぇ存在だっつーの。……分かれよばか」








−−−−−−−−−


「やっと明日から2週間のオフだな!実感ねぇわ!千切は何すんの?」
「別になんでもいいだろ」
「いーじゃん減るもんじゃねぇし。教えろよ」
「……彼女に会いに行く」
「カノジョ?は?…はぁ!?おまっ、彼女いたのかよ!ウソだろ!?初耳なんだけど!?」
「…潔うるせぇ。こんなんでウソついても意味ねぇだろ」
「マジかよ。まぁ千切ならいるよなってかどんな子?お前が好きな子って」




「どんな俺でも好きって言ってくれて中学ン頃からずっとかわいーって思ってたオンナだよ」







Title By …icca





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