ブルロ夢 | ナノ


一瞬でも揺らげば俺の勝ち



※潔ドイツにて活躍中設定。高校時代の元カレ。




時刻は夜の21時を少し回ったところ。

「本当にごめんねっ!遅れた!」

約束の時間より約1時間もオーバーしてしまっていたわたしは緊張を感じる暇もなく、急いで彼の指定した居酒屋に訪れていた。

「いやいいよ。俺も急だったし。お疲れってか仕事大丈夫だった?」

わたしを見るなりすぐにまぁるい瞳がにっこりと細まって、頭の天骨頂の黒い双葉がぴょん、と揺れた。

相変わらず、可愛いな。

その言葉は胸の奥に留め、もう一度謝罪をして席に着く。本当は来る前に化粧直しをして、身なりだってちゃんと整えたかったのに。こういう時の急な残業ほど憎いものはないだろう。ほんと、ツイてない。

「取り敢えず、ビールでいいか?」
「あっうん。ってか飲むの待っててくれたんだね。先に飲んでくれてて良かったのに」
「あー…あんまし1人でこういうとこ来ねぇからさ。なんつーか気が引けちゃって、はは。まぁどうせならお前と飲みたいから待ってた」

頬を人差し指で掻きながら、目の前の男、潔くんはほんの少し照れ臭そうに注文用のタッチパネルを手に取った。

「っ…いつ日本に帰って来たの?」
「ん?3日前かな。パスポートの期限切れそうだったから帰ってきたって感じ。またすぐ向こうに戻らなくちゃなんないんだけどさ」
「なるほど」

なけなしの平常心をなんとか保ちつつ、雑談を交えながら適当にツマミを頼み終えると、暫しの沈黙が生じる。


「………」
「………」



いや気っまず!!

気まず過ぎて胃が痛いよ!!!

これがただのお友達ならばここらで「いぇーい!久しぶりの再会に今日は乾杯じゃん!?飲みまくろ!今日は寝かさん」的なノリで会話することが可能だけれど、生憎わたしと潔くんはそういった関係ではなく。

「…久しぶり、だな」
「そうだね。5年ぶりくらい?」
「そっか…もう5年になるのか」
「……」
「……」

そうしてまた生まれてしまった静寂。

何このお通夜みたいな空気と会話!!!
はやく!早くビールを持ってきて店員さん!!

心の中でメガホンを持ち大きな声で叫ぶ。アルコール入れなきゃやってらんないってこんな展開。まだハタチそこそこなのに、酒がこんなに恋しく思う日が来るとは思わなかった。しかし今日は華金。ここは個室であるけれど、通されるまでの道中店内は賑わっていた為、店員も忙しいのだろう。

「ってかここ普通の居酒屋だけど大丈夫なの?」
「なにが?」
「えと、潔くんめちゃくちゃ有名じゃん?こんな一般人が来るような飲み屋で大丈夫なのかなって」

お店の人には大変失礼だが、ここはわたしでも何度か飲みに訪れたことがある居酒屋だ。いくらここが個室であれど、日本だけでなく今や世界にも名を轟かせているサッカー選手がいるだなんて知れたらヤバくないか。

それも一緒に飲んでいるのが高校時代に付き合っていた元カノだなんて知られたら。

女といるってだけで世間は騒ぐのに、それこそ話題の的になってしまいそうなんだけど。

「あー…大丈夫だと思う。一応、ここ個室だしさ。意外と普通の対応してる方がバレないっていうか」
「まぁ、個室だけども」
「ここ来るときは変装っぽくして来たから大丈夫だろ」

来てしまってから思うのもなんだけど、本当にそうだろうか。ここの店員、若い子多いし。今の時代SNSが主流だよ?"潔世一が女とウチの居酒屋に飲みに来たんだが!"みたいに拡散されない?大丈夫そ?

一般人のわたしよりも目の前の本人の方が焦っている様子は見受けられず、寧ろ落ちついていてちょっと拍子抜けしてしまう。そんなことを思っていると、やっと店員が酒を運んできた。

「っせしやしたー。ビールお待ちしやっしたァ」

金髪マッシュの男の子が気だるそうに個室へと入る。如何にもやる気のない感じでわたしの前にビールジョッキを置き、そうして次に潔くんの前にビールジョッキを置いた瞬間、店員は石みたく固まったかと思うと目をかっぴらいたのだ。

「…エッ?おっあっ?アレ!?っい、いさぎ選手??サッサッカーの?えっドイツ…あエッ!?」

潔くん、前言撤回した方が良い。全然大丈夫じゃないじゃん。目が合ったら秒でバレてるじゃん。
怠そうだった金髪店員は急に畏まり、わなわなとぎこちない。この状況をどうするべきかわたしも焦り、働かない頭を回そうと必死になっていれば、潔くんはにっこりと笑顔を作ったのだ。

「あー…内緒にしといて貰えると嬉しいんスけど。一応、今プライベートなんで」
「もっ勿論でぅ!!」

潔くんは笑顔のまま自身の口元にシーっと人差し指をあてる。すると先程まで面倒くさそうに対応をしていたのが嘘のように店員は背筋をピン、と伸ばし、そして緊張のあまり、噛んだ。







「あっあ"りがどございまっ!おっ俺!潔選手のファンでありましてッ!いつも試合見てますっ」
「ありがとな。嬉しいよ」

低過ぎす高過ぎない、懐かしい声音がテレビの前じゃなく目の前で短い感謝を述べた声が耳へと伝う。

あれから約3分。メモ用紙を持ってガチガチになっている店員に快く二つ返事でメモ用紙を受け取ると、潔くんは慣れた手つきでサインを書き残したのだ。

「凄いね、神対応じゃん。目の前で見ちゃった」
「なんでだよ。こんくらい普通だろ」
「いや、なんか芸能人とかってプライベートだとこういうの嫌がるって聞くし。わたしもサイン欲しくなっちゃった」
「まぁ…時と場合によるけど、今日は特別」

サインを貰えたことに感動していた店員は、目の前に手を差し出され更に握手までして貰えたことに感激し、鼻を啜りながら個室を出て行った。そうだよね、嬉しいよね。分かる。ファンであればそうなっちゃうのも無理はない。「このプライベート空間は俺が死んでも守ります!」と言って去って行った店員は、チャラそうに見えて良い子だきっと。

静かになって、取り敢えずお互いのなみなみ注がれたビールグラスをぶつける。

「…最近は調子どう?この間も活躍してたよね。ニュースで潔くん出てるの見たよ」
「マジ!?なんか恥ずいな」
「ふふっ、カイザー選手だっけ?レスバしてるとこ挙げられてて笑っちゃった」
「そっちかよ!あんまし知られたくねぇ

げんなりとした潔くんにケラケラとわたしが笑えば、彼はジョッキ片手にドイツに籍を置いてからのことを話してくれた。さっきまで気まずさが漂いまくっていた空間が嘘みたい。あの店員のお陰かも。

そうして時間はゆっくりと過ぎていく。
ブルーロック時代の仲間たちの話、ドイツに渡って苦労したこと感動したこと。美味しい食べ物を食べたら、好物の金つばが無性に恋しくなった話。わたしの知らない時代の潔くんのこと、たくさん教えてくれた。

別れてるんだから、知らないのが当たり前なんだけど。

「頑張ってるんだね、潔くん。元気そうで安心したよ」
「元気っちゃ元気だけど…お前は?俺のことばっかり話してんじゃん。わりぃ、お前は最近どうなの?」
「えぇ…わたしは全然、普通だよ」

潔くんよりずっとずっと平凡な毎日を過ごしてる。潔くんのように常にライバル達が隣にいる訳でもなく、与えられた仕事を言う通りにこなし、家に帰ってご飯を食べて寝てるだけ。休日は家でゴロゴロしてるか、友達と出掛けるぐらいだし。

飲み終え空いたジョッキをテーブルの端に置いて、お代わりを頼む為にタッチパネルを手に取る。

「特に話題がないなぁ。恥ずかしいけど、毎日社畜頑張ってますって言っとく」
「偉いじゃん。恥ずかしがるところなんてなんにもないだろ。今日も残業だったんだもんな。毎日ご苦労さま」
「あっありがと…」

頬杖ついて、彼はにこりと笑みを見せる。
顔は昔よりは大人びたように見えるけど、多分同年代よりは幼いと思う。声も変わっていないし、髪型だって付き合っていた頃のようにサラりとした黒髪のまま。

だけど、ちょっと、ちがう。

なんだろう。潔くんの纏う雰囲気なのか、久しぶりに会ったから違って見えるのか。

「っせしやした!ビールになります!こちらお下げしますね!」

先程の店員がシャキッとした表情でお代わりを持ってきた。この子は多分、好きな子がいると体張ってでも頑張るタイプの子だと思う。…そんな気がする。

目を輝かせている店員からビールを受け取る。そうして「サービスっす!」と元気よくこのお店で一番よく出ているおつまみを出してくれた。

「あの子、潔くんの大ファンなんだね」
「え?ファンってのは聞いたけど、そうか?ナマエがいるからじゃなくて?」

潔くんて、昔からちょーっとだけ抜けている所があるんだよね。そういう内面、変わっていないのかと思えば少し安心する。

「あはは、なんでわたしなの。どう見ても潔くんでしょ。あの子目がキラッキラしてたよ。本当にファンなんだなってわたしでも分かるもん」
「ありがたいけど、男にモテてもな。嬉しいけどさ」
「え、潔くん女の子にもモテてるでしょ?」
「いや全然!凪とか玲王とか、癪だけどカイザーとかに比べたら俺なんて全然だよ」

潔くんは否定する。
自分に対して疎いところも全く変わっていない。

「モテてたよ。潔くんが気付いていなかっただけで」
「え?」
「わたし達が付き合う前から潔くんに隠れファンがいたこと知らないでしょ?」
「俺に?いねぇよそんなの」

にやぁっと笑ってみると、潔くんは酒を飲む手を止める。

「今だから言えるけど、わたしあの頃潔くんが誰かに取られちゃうって焦って告白しちゃってさ」
「…まじ?」
「うん、マジ。だって二個上の先輩は潔くんの為に部活見に行ってたし、タメのモブ山さんていたの覚えてる?その子も潔くんが好きだったんだよね。それに一個上の先輩はわたしが潔くんと付き合ってから仲良くしてくれてたのに口聞いて貰えなくなっちゃったりね。…知らないだけで、あの時から人気者だったよ潔くんは」

初めて聞く過去の潔くんを狙っていた女の子の話に、彼は若干気まずそうにわたしを見やる。

高一のときにわたしから告白して始まった交際。
わたしも初カレ、潔くんもわたしが初カノ。お互いが初めて同士のそれは、わたしの前だと緊張してしまうのか、手すら繋げない可愛らしい清らかなお付き合いだった。

サッカー部は忙しい。毎日部活でオフの日は少ない。潔くんのサッカーをしている姿を見ながら部活が終わるのを待つ時間は嫌いじゃなくて、寧ろ好きだった。それでいつも申し訳なさそうに眉を下げる潔くんが可愛くて、必ず家まで送ってくれる潔くんに毎回胸はドキドキ音を鳴らしてて。

だけど付き合った期間は長くはない。潔くんの特別な女の子になれた期間は高一の初秋から、高二の夏にかけての間だけだ。別れた理由は単純で、潔くんは大事な全国大会に繋がるFWに選ばれて前より忙しく、わたしもわたしでバイトを始めたものだからすれ違いが続いてしまった。今ならもう少し上手くやれたでしょ、って思うけど、当時はお互いが自分のことで精一杯だったのだ。そうして破局。別れを告げたのも、わたしからだった。潔くんが眉を眉間に寄せた表情は、今でも覚えてる。それから暫くして潔くんはあの青い監獄へ行ってしまったから、今日こうして一緒に飲んでいることに素直に驚くしちょっと今でも信じられない。

「だからさ、ずっと心配してたんだよね当時は」
「初めて聞いたんだけど」
「いま初めて言ったんだもん。ヤキモチ密かに妬きまくってたよ。あの頃毎日どきどきしてたし嫌われたくなかったから言えなかったけどさ」

一昨日潔くんからメッセージが届いて、昨日の夜は緊張して眠れなかった。朝はそのお陰で寝坊してしまったし、今日に限って急な会議も入り夜は残業。疲れていたから、いつもよりお酒の回りも早かったのだ。きっと。


「今だったら潔くんとヨリ戻しても上手くやってけたりして?」


こういう場の、軽いノリで言っただけだった。本当にそんなつもりはなかったし、「なに言ってんだよお前」くらいの感じで返してくれると思ったのだ。

だけど、潔くんは思った以上に大きな目を見開いてわたしを凝視するものだから、顔には瞬く間に酒とは別の熱が上がり、両手を左右に思い切り振った。

「うっ嘘だよ!?冗談だからね!?ごめんっ変なこと言った!」

慌てて弁解をするも潔くんは動かない。しくった!背中に汗が流れそうになったとき、潔くんは肩を震わせたのだ。

「ふっくくっ、ハハッ。なんだ冗談なのかよ」
「へ?」
「俺はお前とやり直したいって思って今日ここにお前と飲みに来てんだけど?」

未だクスクスと笑っている潔くんが目に映る。きっと今のわたしは口を閉じるのも忘れて間抜けな顔を晒してしまっているに違いない。

「じょっ冗談だよね?」
「いや?本気。…お前とやり直したくて連絡した」
「えっと、」
「お前と別れてからヨリ戻したいって何度か言おうと思ってたんだけどさ、言えなかったんだよ。めちゃくちゃダセーけど、あん時はムリって言われるんじゃないかって怖気付いちまって」

潔くんの蒼深い瞳がわたしの視線を奪う。その目つきはまるで狙った獲物を捕らえるかのような、捕食者のようだった。口調は昔と変わらず、声音だって優しいのに、まるで潔くんじゃないみたいだ。

「え、えと…」
「あー…あとさ、ナマエ」

わたしの名を潔くんが呼ぶ。どくんどくん、と胸が大きな音を立てて、逸らせずにいる瞳で目先の潔くんを見つめる。潔くんはゆっくり目を細め、頬杖ついて首をほんの少し傾けた。


「もう、昔みたいに俺のこと"世一"って呼んでくんねぇの?」


わたしの知っている潔くんは、頑張り屋で、優しくて、いつでも人の気持ちを考えて行動していて、それから、それから…。

酒に侵食されている脳内で必死にわたしの知っている潔くんを思い出そうとしているのに、目の前の知らない潔くんが邪魔をして、考えることが出来ない。

「俺じゃあお前の彼氏になる資格、もうない?」

疑問形なのに、自信ありげなそのトーン。
声にならない喃語みたいなものしか出ないわたしの顔は言うまでもなく真っ赤だろう。潔くんだって絶対それを分かっているはずだ。クスクスと笑って、小悪魔みたいに可愛くて意地悪な顔をしてる。

いっ潔くんて、そんな人だったっけ!?

わたしの中のわたしが脳内で暴れまくる。酒の酔いなんて一瞬で覚めた。待って、どうしよう。落ち着こう、落ち着けない。

わたしと別れてからの潔くん、随分と雄みが増していて心臓持たないのですが。

「ぁ…ぇっと、」
「ん?」

潔くんはわたしの言葉の続きを待っている。
あぐあぐと口を開けたわたしはきっと金魚みたいだろう。そうして数秒後、あまりにも今の潔くんに耐性がなく、わたしが取った行動は席を立ち、離脱してこの場を一旦離れようとすることだった。

「ごっごめん!終電が近いし、今日は取り敢えず帰るね!」

2人がけの小さな個室。捕食者がいる前では背中なんて見せちゃいけない。背を向けたわたしの腕はすぐに彼により引っ張られ、無理矢理視線を合わされた。

そうして、深すぎるくらいの蒼い瞳が三日月のように細まったのが分かると、わたしは息を飲んだのだ。





「バーカ。終電はもうとっくに過ぎてんだろ」








−−−−−−−−−


「おつかれ!わりっ遅れた」
「よっ」
「なにしてたんだよ潔。待ちくたびれて凪寝ちまったぞ」

潔は画面の前の旧友たちに謝罪をしながら笑顔を向ける。画面の向こうに映るのはイングランドで大活躍しているブルーロック時代の戦友、ワガママお嬢の千切と、凪大好き御影の御曹司、玲王だ。凪はというと、先に酒を飲んでうつらうつらとしているようだった。まぁこれは所謂オンライン飲み会というやつで。

「で、早速だけどどうだったよ?俺の教えた通りにディナーは誘えたか?」
「あー…ディナーには、行ってないかな」
「はぁ?あんだけ相談乗ってやったのに。じゃあ教えてやった夜景は?」
「そこも行ってない」
「はぁ!?なにしてたんだよお前!元カノとヨリ戻してぇって言うから俺が色々レクチャーしてやったのに!」
「あはは、ごめんごめん」

玲王は納得のいかない様子でクッションを抱きながら顔を顰める。その横にいる凪は玲王に寄り掛かり、もはや夢の中だ。

「なんつーか俺なりに考えてさ、ディナーとかやっぱり俺には敷居が高いかなーとか思っちゃって。でもレオの助言はめちゃくちゃ助かったよ。ありがとな」
「……別にお前がいいんなら良いけど」

潔の感謝に玲王はぷぃとそっぽを向く。潔の屈託のない笑顔には、なんとも言えない破壊力があるのだ。サッカーをしてボールを追い掛ける姿は目が据わり暴言だって吐き散らかすくせに、普段の彼は「罵倒?そんなのしませんよ」レベルで可愛さ剥き出しなのが悪い。憎めない。怒れない。なんだそのギャップ。

「で?肝心の元カノさんとやらは復縁出来たのかよ」
「そのことなんだけどさ、」
「あー…ちょい待ち」

一番知りたかった内容を聞ける間際、これまで黙っていた千切が潔の声を遮った。それに玲王がなんだよとあからさまに口を曲げると、千切は苦笑を浮かべながらスマホを玲王に手渡したのだ。

「…ん?……ハ?ッおっおま!パパラッチされてんじゃねぇか!!」
「え?マジで?」
「知らなかったのかよ潔。っつかここって見た感じ普通の居酒屋だろ?お前変装しなかったのか?これじゃすぐ潔って分かるぞ」
「いや、してたけど。行きは」
「行きはって…」

千切は呆れた口調でため息を吐いた。
千切が見ていたのはSNSのトレンドである。目に映った1番のトレンドは"#潔選手熱愛"だ。まさかな、と思いタップすればそれは確信に繋がる。

アップされていた画像は潔が店を出てすぐに撮られたものらしい。深夜と呼べる時間に女と手を繋いで歩いている男がハッキリ写っているその画像。男は言うまでもなく潔である。そしてその女は100パー潔がヨリを戻したいと言っていた元カノであろう。

「ほんとだ。完璧俺だ、はは」
「お前呑気に笑ってる場合かよ。マスコミやらなんやらきっとうるせぇぞ。上手くやれって言ったのに」

玲王はなんだかんだ面倒見が良い。凪のことになるとちょっと…な所はあるが、基本自分が認めている相手にはなんだかんだ尽くすタイプである。だから潔に対しても恋愛相談に乗っていたし、真剣に元カノとヨリを戻せる為のプランを練ったのだ。隣の凪はその時「恋愛なんてめんどくさ。やめときなよ潔」とゲームをしていたけれど。

玲王の軽いお説教を聞き流す。潔は今日ご機嫌だったので、それはもう双葉を揺らしながらニコニコと聞いていた。そうして玲王のお説教が終わると同時に、今度は千切が口を開いたのだ。

「なぁ潔?間違いだったらわりーんだけどさ。お前こうなるって分かっててやったってことはないよな?」
「ん?」
「あぁ、いや。違うんならマジで悪いんだけど。お前、ってか俺たちは欲しいものは自分で手に入れて来ただろ?その為には容赦しねぇっつーかなんつーか。だから初めからすっぱ抜かれるの分かっててワザと撮られるようにしたんかなって。もしもの為に逃げられねぇように既成事実みたくしちまえ!みたいな?」

暫しの沈黙。

な、ワケないか。そう口にした瞬間、千切は固まった。千切だけではなく、隣の玲王も。凪は変わらずすやすや就寝中。だが玲王が凍った瞬間、体制が崩れたせいで大きな体の彼はそのままフローリングにゴトン、と横たわってしまった。「んあ?」という声が聞こえた気がしたが、それでも起きる様子はない。



「さぁ?…どうだろうな」



青い監獄イングランドメン3分の2。画面前の潔の表情を目にした瞬間、顔を引き攣らせた。そうしてどちらともなく「うわ…わりぃ顔」と、口にしたのだった。






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