03

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......。

「どこだよ、ここ」

目を覚ましたとたんに一変する視界。
暗く狭い路地で自分に問うた。

「桃太郎の世界だろうよ」

........。

「......しゃ、しゃべった。ネコがしゃべった」
「しゃべって何が悪い」
「え、べ、別にいいけど」

ネコって喋るんだ、と妙に落ち着いている自分。
早く仕事を済ませ金を貰いたいところだけど、どうもネコが気になる。

「行かねぇのか?」
「い、行くけど」

「ほら、これ」
「うおっ」

どこから出したのか投げつけられた本。
オッサンといい、コイツといい、やる事が雑だ。

「また桃太郎かよ、これさっきオッサンに貰ったけど」
ほら、とウエストバックからオッサンに渡された桃太郎を出した。
やっぱり同じ本。
表紙何て全く同じ。

「中読んでみろ」




 桃太郎

むかしむかしあるところに、オジイサンとオバアサンが住んでいた。
オジイサンは山へ芝刈りに、オバアサンは川へ洗濯に行った。
オバアサンが洗濯をしていると、川からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れて来た。
オバアサンは持ち帰った。



「同じじゃんかよ」
「最後まで読めって」




オバアサンは持ち帰った。

「えらい大きな桃じゃな」
「ええ、そうですね。さぁ切りましょう」

包丁を入れると、桃はぱっくりと割れ、中からたいそう端整な顔立ちの男の子が飛び出した。
「神様の授けに違いない」
そう思った夫婦はその赤ン坊を育てることにした。
桃から生まれた男の子を夫婦は
「桃太郎」
と名付けた。

彼はすくすくと育った。
だがオジイサンもオバアサンも手が付けられないほどの問題児だった。

畑を荒らした。
村の物を盗んだ。
負傷させた。

オジイサンとオバアサンはそれを「桃太郎」がやったのではなく「鬼」がやったとした。
そんな事が続いたある日、オジイサンは言った。
「桃太郎、オ前さんは悪い事をしすぎた。鬼ヶ島にでも修行に行って来い」

村にも飽きてしまった桃太郎は喜んで村を出た。
オバアサンは彼にせめても、ときび団子を渡した。
オジイサンは村の住人に、
「桃太郎は村に悪さをする鬼を退治にいったんじゃ」
と、広めた。

村を出た桃太郎は...........





俺はまだ白紙のページを捲った。
「何だよ、これ」
何度思い返してもこんな話ではなかった。

「コレがココの桃太郎の進行状況だ」

コガネは前足を一舐め毛繕うと、スタッと立つ。
「ほら、仕事、するんだろ?」
「え、あぁ」

そそくさと行ってしまうコガネ。
あたふたと二冊の絵本をしまう。


「俺らの仕事は、とりあえず完結まで持っていくことだ」

暗かった情景は一変し、明るい町並みになった。
賑わう店が俺に新鮮さを与えた。

「あんたの知っている桃太郎はどう終わる」
どうって
「鬼を退治して、お宝持って、村に帰る?」

「そうだ。だから、桃太郎がどんな奴でも、とりあえずあんたが言ったことが出来ればいいんだ」
へー。と俺は心無く返事した。


「で、桃太郎ってどこにいんの?」

事前に調達出来なかった食料。
腹も減った俺は活気のない露店に近寄った。

「饅頭、一個くれよ」
「ほらよ」

いるか?コガネに差し出すと一目俺を見、パクリと歩きでにかぶり付く。
俺もひと口かぶり付くが、悪い意味での珍味だった。



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