視線をすくう午後三時


「……?ボクになにか用かい?」
「あ、いやなんでもないよ、花沢君」

そうかい?といって視線を教科書へと落とした花沢君に一息つく。どうやら自分で思っていたよりも彼のことを凝視していたらしい。おかげで不思議に思ったのであろうご本人に声までかけられてしまった。
席が隣というだけで事務的なつながりしかなかったので、声をかけられて時には思わず肩がゆれてしまった。変に思われていなければいいのだけれど、それに用もないのに不躾に凝視してしまうのも気をつけよう。

「………」

とは心の中でいうものの、自然にまた彼のほうへ視線が流れていく。
午後の日差しがやんわりと差し込む教室の中で、彼の金髪がきらきらと薄く光を反射していた。
お昼ごはんでおなかが満たされたからか、呪文のような歴史の先生の声のせいなのか(もしくは両方)花沢君は目こそ教科書を追っているものの、うつらうつらと髪が揺れていた。

そう、髪なのだ。

なんのきっかけかは知らないけれども、ついこの前から花沢君の頭髪は視界からフレームアウトするほどに伸びたのだ。いや冗談ではなく。まさにペガサス昇天ギガ盛り状態なのである。
以前の髪が普通だったころの花沢君はスポーツ万能、成績優秀それに顔もイケメンと神様がスキルを極ふりしたような、漫画にでてきそうな典型的な天才少年であった。不良と裏でつるんでいるとか、なんだか黒い噂もあったせいなのかわからないけれど私は彼に対してなんだか物事に対してさめているような、とっつきにくい印象を持っていた。けれどもそう思っているのは私だけだったようで、彼の周りにはいつも人が溢れていた。

そんな人気者の花沢君の頭は、ある日突然みんなの視界からフレームアウトしたのだ。
当然、クラスメート然り学校全体がどよめいた。あの花沢の髪が、頭が伸びた!まじやべぇなんだあれやべぇ、という喧騒はしばらくの間学校中を飛び交った。不良たちはそんな喧騒をなんだか訳知り顔で見ていたので、きっと不良たちの喧嘩か何かでそうなったのだろうけども詳細は謎に包まれたまま、喧騒は時間の波によって収まっていった。

ぼんやりと横目で花沢君の伸びた頭を眺めながら脳内でそんな回想を流す。花沢君はどうやら睡魔に打ち勝ったのか、今度はこっそりと机の中でスマホを弄っていた。
そういえば花沢君、頭も伸びたけども表情もよくかわるようになったなぁと頭のてっぺんをながめながら、心の中でつぶやく。
外は見たとおりだけれども彼の中でもなにか変化があったのだろうか、さめていてとっつきにくいと思っていた彼の雰囲気はなんだかほんわかした、それでいてすっきりとしたものに変わっていた。雰囲気が変わったからなのかなんだか以前の花沢君よりも、今の花沢君のほうがかっこよく感じてしまうのはきっと気のせいではないのだろう。
 
そうしてぼんやりと彼の長い頭をながめているとふと、スカートの中のスマホが震えた。
振動の短さから、きっとラインだろう。最近いっそう生意気になってきたいとこからだろうか。
こっそりと、先生に気づかれないように机の影でスマホを操作する。画面には知らない名前からのメッセージが表示されていた。

【そんなにボクが気になるなら、放課後お茶にでもいかないかい?】

勢いよく顔を上げて隣の席をみる。まぬけな顔ではくはくと鯉のように口を開ける私をみて、花沢君はいたずらっこのような笑みを浮かべながらこちらをみていた。

【ボクもみょうじさんのことがきになってるんだ】

再びきた彼からのメッセージに、今度は自分の机に向かってつっぷしてしまった。
隣からは楽しそうなちいさな笑い声が聞こえる。ああ、とてつもなく顔があつい!

いきます、とメッセージの返信を震える指で打ちながらどうやってこの顔の熱をひやそうかと机に突っ伏しながら考える。しばらくは、花沢君の顔をまともにみれそうにもない。



視線をすくう午後三時





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