小説 | ナノ

8.最期の審判を下してみた [ 15/21 ]


 異様な空気を醸し出しているのは、恐らくこのメンツだからだと断言できる。
 と云うのも、救世主(ルー君)・罪人・各国の首脳陣・審判者(私達)という負のカルテットが此処に存在する。何ておぞましい光景だろうか。
「皆様に集まって頂いたのは、他でもなくこの世界の行く末についてです。今、我々は惑星滅亡の危機に直面しています。この危機を回避する為にも、力を一つに合わせ立ち向かわねばならないのです」
と、重々しい口調で宣言するのは導師に扮したシンクである。シンクの姿に、ポカーンと阿呆面を晒していた罪人共は口々に喚き出した。
「イオン様が二人?! どういう事ですの?」
 シンクとイオンを交互に見比べるナタリアに対し、アニスが一緒に捕縛されているイオンこそ本物だと喚いた。
「あいつこそ、イオン様の偽者だよぉ! 皆騙されちゃだめ!!」
「あいつは、シンクだ! テメェ、何イオンの振りをしてやがる」
 譜術に長けるジェイドは勿論、ユリアの譜歌を歌われたら溜まったものではないのでティアとヴァン、そして譜術も得意とするリグレットとアリエッタにもガッチリと猿轡を噛ませていた。
 下手なことを言い出されて舞台を台無しにされては困るからだ。
「彼は、僕のレプリカです。似ていて当然でしょう」
 表情を変えずシレッと宣うシンクに、偽者発言をしたアニスがビシッと音を立てて固まった。
 それもそのはず、ルー君に対しバケモノ等と散々言いまくっていたのを思い出したのだろう。
「導師イオンは、既に病死している! 本物の導師なら、髪を切っても残るはずだ」
「そうですわね! 髪を切ってごらんなさいまし」
「偽者だと証明出来るもんね」
 勝ち誇った目でシンクを見つめる彼らの顔は、なんと醜悪なことだろうか。シンクは、正真正銘『導師』の地位に衝いている。
 例え預言が読めなくとも、彼はダアトに認められた――否、認めさせた『導師』なのだ。
「分かりました。そこまで仰るのであれば証明しましょう。もし、乖離せずに髪が残ったらその時は分かってますよね」
 鬱葱と笑みを浮かべたシンクは、もみ上げを掴みバッサリと切り落とした。
 それはもう、止める間もなくだ。豪快に切られた髪をアニスの顔面に投げつける。
 ベシッと鈍い音を立てて落ちた髪は、乖離して消えることはなくそこにあり続けている。
 何てことはない、切った髪は鬘だった。それに気付かず動転している彼らを見るのは面白いの一言に尽きるだろう。
「フフフ、乖離しませんね。礼の欠けた貴方がたに今更諭すのも時間の無駄と云うものです。今までの罪状に『不敬罪』が一つ追加されるだけなので、死を免れることはありませんから」
 実質上の死刑宣告に顔面蒼白になる大罪人達。特にアッシュとナタリアは酷かった。怪鳥のように喚く様は、一国の王族かと問い質したくなる見苦しさである。
「ヴァン・グランツと六神将ですが、預言を利用し世界を混乱に落としいれ、果ては惑星滅亡への引き金を引いた罪は重い。死を持ってしても償いきれるものではありません。また、妹のティア・グランツは同様に醜悪と言えるでしょう。かの……」
「ティアの悪口を言わないで下さいまし!」
 許可もなく導師の言葉を遮るナタリアに、シンクの顔が歪んだ。非常識軍団と接する機会が多かったルー君とルークはいつものことだと平然としている。
「口を慎みなさい! 貴女に発言の許可は与えられてません」
 ガスッと後頭部に足を乗せ強勢土下座の形を取らせると、隣に居た怪鳥ことアッシュが私に食って掛かってきたので、すかさずグラビティを放ちこちらは押しつぶされた害虫のような格好をしていた。
「御前を騒がせてしまい申し訳ありません」
「嗚呼、構いません。彼らには、口で言って理解できるほどの知能は持ち合わせてないようですからね」
 形ばかりの謝罪に、シンクは、煌かんばかりの笑顔を浮かべている。内心もっとやれとでも思っているのだろう。
「話が途中となりましたが、ティア・グランツは職務規定違反及び軍法違反。キムラスカとマルクト両国における不法入国。ファブレ公爵家への不法侵入・器物破損・傷害罪および王族誘拐を仕出かしてます。また、不敬罪は勿論のことことある毎に戦闘強要しルーク殿を盾にしたと報告が上がっています。また、ヴァン・グランツの企みを知っていたにも関わらず情報隠蔽を行った結果、アクゼリュス崩落に導き、更にその罪をルーク殿に被せようとした。正に悪魔の所業ですね。死刑にしても全然足りないくらいです」
「レプリカ・イオンは、独断で公務を放棄しパッセージリングの封印を解きヴァンの手助けをした。アニス・タトリンは、レプリカ・イオンの出奔の手助けを行った際に、同僚をトクナガで攻撃し死者を出しました。また彼女は大詠師モースのスパイでもあり、タルタロス襲撃の手引きをしたのです」
 顔色を失くしたアニスを見下ろしながらシンクは、嘆かわしいと嘯いている。その言葉を引き継ぐように、無言だったピオニーが重い口を開いた。
「嘆かわしいのは、俺の部下もそうだ。偶発的に飛ばされたルーク殿を保護ではなく捕縛した。タルタロスが襲撃された時も人手が足りないという理由で戦闘を強要し、あろうことか盾にした。和平を頼みに行く側の王族を馬鹿にし、嘲笑し、ジェイド……貴様は一体何様のつもりだ! ルーク殿と同じ立場に立っているとでも思ったのか?」
 激昂するピオニーに、ジェイドは何か言いたげな不満な表情を浮かべて睨んでいる。
 それを見たピオニーは、ハァと大きな溜息を吐いた。
「左官であるお前に和平の使者として旅立たせたのは、単に預言があったからだ。預言に詠まれてなければ、お前など和平の使者などにするものか。軍人としても出来損ないだとは、思いもしなかったがな。ライガ・クイーンの死後、エンゲーブでは人が度々魔物に襲われる事件が多発している。また、ローテルロー橋が大破した報告もタルタロス襲撃の報告も受けていない。アクゼリュス崩落の報告は、聞かずもがなだ。上下関係が緩かった俺に責任があるのだろうな。お前のようなモンスターを生み出してしまったのだから。ジェイド、死んで償えよ」
と、最後は哀愁を漂わせて項垂れた。
「キムラスカとて、例外ではない。ナタリア――いや、メリルよ。摩り替えられ知らなかったとは言え、そなたをキムラスカの姫として育てたにも関わらず、己の我侭と見栄の為だけに王命に逆らい国を出奔した。お前に仕えていたメイドも近衛兵も全員処罰された。レプリカ・ルークが、ヴァン・グランツに亡命を唆されたことも知った上で彼を脅した。ヴァン・グランツの部下には、実父であるラルゴがいる。そして、何より執着していたオリジナル・ルークもヴァンの元にいた。最初からキムラスカを陥れるために、奴等と手を組んでいたのではないか」
「お父様! 何かの間違いですわ」
 ヴァンとの共犯を疑われたナタリアが悲痛な声で否定するも、これまでの行動を考えたらどちらを信じるかなど分かりきっていた。
「この屑が、それでも父親か」
 一国の王に向かって暴言を吐くアッシュに対し、クリムゾンが怒りを滾らせた顔で睨みつけている。
「屑は貴様だ! ヴァンの甘言に唆され、命欲しさにダアトへ亡命した挙句、ルークに居場所を奪われたなどと甘ったれたことを抜かすような者が、私の息子であるはずがない!! ましてや、自国の財産を私利私欲のために蹂躙する者を王族と認めるとでも思ったのか。私の息子は、ルークただ一人。貴様のような屑ではない!」
 なんとも辛辣なことを宣うクリムゾンに、私も忍び笑いが止まらなかった。
 ルー君の実年齢を教えた時も物凄く吃驚していたが、アッシュを早々に切り捨て七歳児にしては物凄く出来の良いルー君を後継と決めた変わり身の早さは、キムラスカのお家芸とも言えるだろう。
「メリル・オークランド、実父共々仲良くあの世で罪を償うが良い。鮮血のアッシュ、そなたは生涯地下牢へ幽閉とする」
 こうして、世紀の大罪人達はひそやかに処刑されたのだった。


 邪魔者がいなくなったので、急ピッチで外郭大地の降下を行いローレライ解放まで漕ぎ着けた。
 エルドラントに立っているのは、勿論ルークと私だけ。ルー君もシンクも、純粋なレプリカなのでローレライ解放時に引き寄せられて乖離しかねないので各国でお留守番していたりする。
「やっとここまで漕ぎ着けたなぁ」
「本当よね」
 ローレライの鍵を抱きながらうんこ座りルークと私。形振り構わず突っ走ってきたのだ。
 休憩は大事だと嘯きながら、今後のことを話し合った。
「でも、良かったのかよ。シンクは、あの性格だからダアト掌握も直ぐ出来るだろうけど。ルークが心配だ」
「嗚呼、それなら大丈夫。レプリカ=ローレライの子と洗脳してきてるし、彼らに害を成そうものなら折角伝承したユリアの譜歌の効力も綺麗サッパリ消えてなくなるって脅してあるし。瘴気も再び噴出するだろうとも云ってあるから大丈夫っしょ」
 ローレライを解放した時に、そのように作り変えれば問題ないだろうと宣えば、ルークは流石ティアと手を叩いて褒め称えた。
「さあ、あのクソ電波を解放して帰るわよ!」
「イエッサー」
 ローレライ殺すと怨念を吐きつつ、私達は無事彼を解放することが出来た。


 ――はずだったのだが、何故か今度は全く知らない土地に超振動を起こしてしまった。
 ローレライとルークと私のトリプル擬似超振動は、どうやら時限だけでなく次元も越えてしまったらしい。
「いつになったら帰れるんだぁぁあ」
 こうして、私達は新たな旅に出ることとなったのだった。

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