小説 | ナノ

43.一難去ってまた一難 [ 44/72 ]


 ナタリアを牢屋にぶち込み一息吐いていたところに、またも事件です。
「あの、少し宜しいでしょうか?」
 おずおずと声を掛けてくる白光騎士にルークは首を傾げた。兜を被っていて表情は読み取れないが、物凄く言いにくそうな雰囲気は声音で十分伝わった。
「どうした?」
「ルーク様の部屋から物音がしたので、確認のため部屋に入らせて頂いたのですが……その、ミュウ殿と子ライガが居たんです。どうしたら良いでしょう」
「「はぁあっ?」」
 衝撃の事実に、思わず間抜けな問いを返してしまった。瘴気が充満している町に連れて行くわけにもいかないので、無断で置き去りにしてきたのに一体どうやって船に忍び込んだと云うのだ。
「どうするも何も魔物宅急便で強制送還させるしかないじゃないのよ」
 余計な手間を掛けさせやがってと眉間に皺を深く刻みながらブツブツと文句を云う私に対し、ルークが疲れた表情で首を緩く振った。
「あいつらが、大人しく云うことを聞くタマかよ。お前に似て」
「私が、聞き分けの無い女のような言い方しないで頂けます」
 ルークの評価にムッと顔を曇らせ文句を言ってみるが、彼は気にした様子もなく飄々としている。
「取敢えずとっ捕まえて侵入経路を確認しましょう。ナタリア姫の件もあるし、警備を見直さなきゃいけませんし」
 こうもスポスポ進入されては、ルークの身が危ぶまれる。私は、ルークに白光騎士に隊長と仔ライガ達を連れてくるように命じるように誘導したのだった。


 何やら冷や汗を掻いている隊長殿と対照的に暢気な子チーグルと仔ライガ。王女の侵入だけでなく、邸にいるはずの仔ライガたちにまで侵入を許してしまったのだから肝が冷えているのだろう。
「ミュウ、何で船に乗ってるのかしら?」
「ミュ? ご主人様を追いかけてきたですのー。もう、離れ離れは嫌ですの!」
「ルークは、来るなって言ったはずだけど?」
 一見麗しい主従愛に見えなくも無いが、アクゼリュス行きを禁じたはずのミュウたちがここに居ること事態が命令違反だ。
「みゅ〜。ご主人様は言ったですの。だからボク、ルークさんをお守りするですの」
 ムムムッ、私の命令が仇になったのか。流石、害獣チーグル。小賢しさだけは一人前だ。
「ティア、一本取られたな」
 ハハハッと他人事のように笑うルークに、私は恨みがましく彼を睨んだ。自分の詰めの甘さが敗北を引き寄せたのも事実だ。
「海の真ん中で下ろすわけには行きませんからアリエッタと合流するまでは同行させるとして、一体どうやって侵入したのか説明しなさい」
 キッとミュウを睨みつけると、彼は間延びした声を出しながらさも当然のように宣った。
「ルークさんの道具袋に入ってたですの!」
「確かに、あれなら簡単に入れるな」
 まさかの弊害その2に私は頭を抱えて撃沈した。四次元ポケットならぬ、四次元な道具袋がミュウ達の侵入を許すことになろうとは涙が出そうだ。
「後、ディストさんから預かってきたですの」
と、道具袋をどこから取り出したのか私達の目の前に置いた。中身を開くと、何やら飴らしきものが入っている。
「……何だこれ」
「瘴気対策用に作られた飴ですの。理論上では一時的に瘴気に侵されないようにできるらしいですの。でも試作品なので効果は分からないって言ってたですの」
 中に入っていたメモによると、一粒で3時間程度の効果があるとの事。飴自体、人体に影響はないが服用は極力控えるようにとも書かれている。
「体よく実験台にされてるのかしら」
「さあ? ユリアの譜歌だけじゃあ、どこまで持つか分からないし何も無いよりはマシだろう」
「効果があれば、大量生産して売りさばきましょう」
「そこは売るんだ」
 商魂逞しい私の提案に、若干呆れ顔のルークは早々に諦めモードに突入していた。
 功績とお金が手に入って一石二鳥なのに何故? と思わなくも無いが、汚い大人の考え方を理解しろと云うにはルークは綺麗過ぎるのかもしれない。
「ミュウたちの侵入は、私の責任です。ルーク様、申し訳ありませんでした。今度から事前に荷物チェックして今後このような事が起きないようにします」
「そんな事したら、ご主人様と離れ離れになるですの」
「ティア、連れてってやれよ。何かの役に立つかもしれないし」
 ミューミュー、ミャーミャーと小動物たちが泣き喚くので、流石に可哀想になったのかルークが彼らの同行を許可してしまったから始末に終えない。
 ルークの無自覚お強請りに私は顔を引きつらせつつ、結局折れる形で彼らの同行を許可した。
 その後、ルークと仔ライガ達を追い出し私は隊長殿に警護体制の見直しを図るというのは建前で始終愚痴を零しながら護衛の配置やローテーションを綿密に組上げたのだった。

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