小説 | ナノ

40.ルークの初陣 [ 41/72 ]


 やっぱり預言狂の連中には、正論は通らなかった。ローレライ教団NO.2のモースが命令しても引かない辺り狂っているとしか言いようが無い。
 敵船の位置を確認しつつ、アスラン率いる譜術船とシンク率いる白兵船、そしてルークが大将を勤める譜弓船である。援護にジョゼットが指揮を取る弓兵船が今回のみ作戦に加わるので戦力的にはほぼ互角と言って良いだろう。
「セシル将軍とシンクで敵船を一箇所に集めて下さい。私が巨大譜陣を作りますので、フリングス少将とルーク様の部隊は譜陣を合図に詠唱に入り術を放って下さい。スプラッシュ、メイルシュトローム、ディバインセイバーの順番で詠唱して下さい。連続で行きます」
「ティアのTPが持たないだろう。あれすると、ティア具合悪そうだったじゃねーか」
「スペシャルグミで凌ぎます」
 ルークの心配を余所にキパッと断言すると、何とも言えない顔をされた。まあ、グミの乱用は正直頂けないのは言われなくとも分かっている。それに勿体無いのも。
「相手も譜術で攻撃されるとは思ってないだろうから、案外簡単に退けられるんじゃない」
とシンクが珍しくフォローを入れてくれた。
「ティア一人に無茶させるのもどうかと思う」
「やるって言ってんだからやらせれば良いじゃん」
 ルークは私の身体を心配してくれているのに、シンクは心配のしの字も見当たらない。可愛げの欠片も無いぞと念を送ってみると、至極鬱陶しいと言わんばかりに眉を顰められた。
「だが、巨大譜術を作れたとしても発動できるものなのだろうか?」
 実際に見たことがないジョゼットは、始終困惑顔だ。
「カイツールをアッシュに襲われた時、多数の怪我人が出たんだ。その時、フリングス少将が連れてきていた治癒師を借りて巨大ハートレスサークルを発動させたんだ」
「結構な範囲だったから、今回もいけるんじゃない?」
「迎撃は構いませんが、追撃はしないで下さい。無駄な争いは時間の無駄ですから。それでは、ルーク様号令を」
「出立」
 ルークの号令で、彼の初陣となる海戦が幕を開けた。


 こちらを威嚇するように沖合いに漂っていたダアトの船は、ジョゼットとシンクの船によって徐々に一箇所へ集められている。
「ルーク、一時的に護衛を外れるけど構わないかしら?」
「どうしたんだ?」
「多分、倒れると思うの。流石に3回連続は結構厳しいものがあるのよ。一発で仕留められるほど精度が高いとは言いがたいし、かと言って何発も乱用できるわけでもない。今の私には、グミで補っても精々三回が限度よ」
 ギリギリで3回。下手したら2回がやっとかもしれない。大見得切った以上は、何としてでも譜陣を作り上げるつもりでいるが。
「何でそんな無茶をしようとするんだ!! この作戦は変更だ!」
「もう作戦は動いているわ。この作戦を上回る策をルークは持ってないでしょう」
「俺は親善大使だぞ! 俺の言うことを聞け」
「私は、貴方の参謀として付いてきているのよ! 手段を選ばなければ、もっと楽な方法はあったのに、どうしてこの方法を取ったか貴方は何も分かってない!!」
 命令を下そうとするルークの頬をベシッと引っ叩いた。頬には、真っ赤な手形がくっきりとついている。
「ティア一人に負担が掛かるような作戦は認められないって言ってんだ」
「じゃあ、貴方が大切にしている民を――兵を囮にして良いと言うの? 親善大使一行を装った船を出向させた後で、連絡船や商船を装って出向すれば簡単に彼らを出し抜けて目的地に着けるでしょう。でも、囮になった兵達はどうするの? 下手したら殺されるかもしれないのよ」
 ゼイゼイと肩で息をしながら、私は高ぶった神経を落ち着かせるように大きく深呼吸を一つした。
「最小限の力で最大限の効果をって言うでしょう。私は、倒れるだけで死ぬわけじゃないんだから良いの。死んだらそこで終わってしまうわ。だからルーク、終わったら私に思う存分惰眠を貪らせて頂戴」
 ニッと笑みを浮かべて見せると、ルークは物凄く渋い顔をした後で小さく笑みを浮かべて頷いた。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -