小説 | ナノ

9.害獣チーグルとライガクイーン [ 10/72 ]


 ライガのところへ交渉にさあ行こうかという時に、森を燃やした経緯を色々と暴露してくれた。
 ルークとイオンに巣の入口で待ってもらい忘れ物を取りにチーグルの巣に戻ったりと少々出発が遅れてしまった。
 途中で昼食を取ったりと半分ピクニック気分である。ライガクイーンが根城にしている巣の入口に私は立ち止まり中に入ろうとしたイオンに問い掛けた。
「それで、導師はどう交渉するおつもりで?」
「別の土地に移って欲しいとお願いします」
「はぁ? そりゃ交渉でも何でもねぇだろう」
「どこがいけないのですか?」
 交渉のこの字も知らないイオンに、私は頭が酷く痛んだ。このお荷物導師捨てて帰りたい。
「ルークの言うとおりだわ。交渉ってのはね、特定の問題について相手と話し合うこと。掛け合うことを言うのよ。導師が行おうとしてるのは、交渉でもお願いでもない命令よ。ライガは自分の家を焼かれ、賠償を求めて加害者のチーグルの家に仮住まいした。被害者を何故追い出されなければならないの?」
 そこまで言って、イオンの顔色は真っ白に変わった。私の言いたい事が多少伝わったようだ。
「ぼ、ぼく……そんなつもりじゃ」
「自分の発言に責任を持った方がいいですよ。これが対人間なら、貴方とんでもない失態を巻き起こしてるわ」
 私は、指摘してやるほど優しくはないので仏心はここまでだ。
「おい、ブタザル」
「はいですの」
「この辺りにライガが住めるようなところはねーか?」
「ここより一つ山を越えたところにキノコがいっぱい生えてる森があるですの。そこならライガさんも気に入るとおもうですの」
 キノコロードの辺りか。確かに、あそこなら人も近寄らない場所で魔物も豊富にいる。
「交渉は私が行うわ。だから、ルーク、貴方は自分を守ることに専念して。ついでに導師も守ってくれると助かるわ」
「ついで……」
「ついでで良いのかよ」
 雑な扱いをされたイオンは、しょんぼりと肩を落としている。ルークも私の物言いに戸惑っているようだ。
「自分の身も守れもしないのに勝手についてきたんですから、野垂れ死にしても全て納得の上なのでしょう。私は、貴方の為なら命を掛けて守るけど導師を守る義理はないわ。危ないと判断したら即撤収するから」
 そう言い切ると複雑な顔を浮かべルークは押し黙ってしまった。
「ミュウ、貴方は私と同行して言葉を訳して頂戴」
「分かったですの」
 私は、ミュウを連れライガクイーンの根城へと足を踏み入れた。全身にピリピリとした殺気が襲い掛かかる。
 入口であれだけ騒いでいたのだ。怒りもするか。
「初めましてライガクイーン、私はティア。チーグル族に頼まれて交渉に来たの」
「みゅみゅみゅーみゅっ、みゅーみゅー」
「ガウッ!!」
 ひと吼えしただけでミュウが飛ばされてしまう。凄まじい衝撃はに、私は早まったかもと内心冷や汗をかいた。
「ライガさん怒ってますの。立ち去らないと生まれる子供の餌にすると言ってますの」
「人の子を――アリエッタを――育てた貴女なら、私の言葉に耳を傾けてくれると信じている。どうか話を聞いて、今後の貴女の娘の運命を左右するかもしれないの」
「みゅみゅみゅみゅっ、みゅみゅー」
 アリエッタの名前で、ライガクイーンの動きが鈍くなる。やっぱり娘の名前は偉大だ。
「アリエッタを知っているのかと仰ってますの」
「ええ、知ってるわ。私は、彼女と同じ職場で働いていたのだもの」
「みゅみゅっ、みゅーみゅみゅー……ライガさんが、話を聞いてくれるって仰ってますの」
 私は、棍を地面に置き両手を上げてゆっくりとライガクイーンの傍へと歩み寄った。
「ティアさん、危ないですの!」
「ミュウ、貴女もクイーンのところへ来て。そのソーサラーリングをクイーンにも触れて貰えば通訳なんて要らないでしょう」
 そう言うと、ミュウは少し悩んだ末に青い顔でコクリと小さく頷きミューミューと啼きだした。恐らく、ライガクイーンに近寄らせて欲しいと懇願したのだろう。
 通訳を介す手間と時間を考えれば、彼女としても私という不穏分子は早々に立ち去って貰いたいところだろう。
 一声ライガクイーンが啼き、それを了承を取った私はミュウの腰からリングを外し彼女にも触れるように前足の上に置いた。
「人間、われらはチーグル族に住処を焼かれた。行き場を失い仕方なくここに居るのだ。その我らに出て行けと言うのか」
「北の森を復活させるまでの間、移住して欲しいとお願いしにきたのです」
 予想していなかった言葉に、ミュウもライガクイーンも呆気に取られている。
「ティアさん、森を復活させることが出来るのですの?」
「時間は掛かるけど出来るわよ」
 生命の力を舐めてはいけない。チーグルの森から木の苗や種を植え育てれば良い。ただし、時間と根気と労力が掛かる。
「……どうやって復活させる気だ」
 訝しむライガクイーンに私は、簡単に復活させる方法を教えた。
「焼けてしまった場所に新たな草木を植え育てるのです。時間を掛けて森を生き返らせれば、一度は居なくなってしまった魔物も戻ってくるでしょう」
「確かにそれなら森は戻る。だが、その草木をどうやって植えるのだ?」
「それは、チーグル族が総出で行います。そしてその資金を、原因となったこの子が自分の力で稼ぎます。一生働くことになるでしょうけど」
「ぼく頑張るですの。謝って済むことではありませんの。森を復活させれたら、他のチーグルを許して欲しいですの」
 一生働くことを強いられるのに、ミュウはそれを良しとし他のチーグルのことまで気遣い果敢にもライガクイーンにお願いしている。
「……良いだろう。復活したらチーグル族を許してやってもよい。しかし、出産したばかりで今すぐに動くのは難しい」
「なら動けるように…・・・なってからでは遅いみたいね。ミュウ、あそこの岩陰に火を噴いて頂戴」
「ミューゥファイヤですのぉぉ」
 ブオォォッと火炎放射ならぬミュウファイヤが炸裂し、集まった音素が一気に霧散する。
「危ないじゃないですか〜」
「カーティス大佐、交渉の邪魔をしないでくれる。クイーン、悪いこと言わないわ。貴方の仲間を連れて今すぐこの場を去って頂戴。ここから更に北に進むとキノコロードがあるわ。そこなら人もあまり来ないし、魔物も豊富よ。さあ、早く。貴女が立ち去るまでは、指一本触れさせないわ」
 ミュウと二人でジェイドを威嚇する。棍を地面に置いたのが悔やまれるが、そんなこと言っている場合じゃない。
 詠唱させてなるものかと、体術で応戦するも腐っても軍人。力の差は歴然で、彼の方が何枚も上手だった。
 そんな私達のやり取りを見ていたライガクイーンは、生まれたばかりの子供だけ咥え仲間を引き連れその場を去っていった。
 ライガクイーンたちの気配を感じなくなり、漸く戦闘を止めた私は思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
 不覚にも腰が抜けてしまったからではないと主張しておく。

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