小説 | ナノ

26.名は体を現すと言うけれど [ 27/48 ]


 エリクシルが、レプリカ・イオンと入替ってまず最初に行ったのは人事である。
 左遷されたカンタビレを呼び戻したり、モースの給与を大幅カットしたり、ヴァンに生存率5%の任務(主に魔物退治)を押付けたりと実に楽しそうだ。
「導師なら導師らしく机に向かって仕事したらどうなのさ」
 脱走したエリクシルを苛々した口調で嗜めるのは、ここ数ヶ月で一番被害を被ったシンクである。
「何言ってるんですか。導師だからこそ、導師らしく部下の仕事ぶりを拝見しているんじゃありませんか」
「イオン様、すてきです」
 ハハハと高笑いするエリクシルに対し、ポッと頬を赤らめるアリエッタにシンクは酷い偏頭痛がした。
「仕事を放り出す奴が素敵なもんか。あんた、ルル様と連絡取ってないだろう。いい加減連絡しろって怒ってたよ」
 シンクがそう云うと、
「ルル様、私の声が恋しいんですね。それならそうと言ってくれれば、シンクを身代わりにさっさと戻るのに」
と物凄く嬉しそうな笑みを浮かべていた。エリクシルの嬉しそうな笑みに、アリエッタは何を思ったのかムッとした顔でルルについて聞いている。
「イオン様、ルルって誰ですか?」
「とても愉快で独創的な雰囲気を持つ変人です」
 普通に主だと紹介するのかと思いきや、一見馬鹿にしたように聞こえるが、強ち間違った表現ではないためシンクは突っ込むに突っ込めなかった。
「なんせ、この私が主として認めた人ですからね。アリエッタも気に入りますよ」
「アリエッタ、その人に会ってみたいです」
 ルルに興味が沸いたのか、会いたいと言い出したアリエッタにシンクは嫌な予感がした。
 キラキラしい微笑を浮かべたエリクシルが、シンクの団服を掴んだかと思うと脱げと言わんばかりにグイグイと引っ張ってくる。
「ちょっ、何するんだよ!」
「脱いでその服を寄こしなさい」
と変態発言をかますエリクシルに、シンクは馬鹿言うなと怒鳴りつけた。
「兄に向かって馬鹿とは何ですか。私は、これからアリエッタを連れてバチカルに戻らなければなりません。貴方は、ここに残って私の身代わりをしてて下さい」
「あんたみたいな馬鹿兄貴要らないよっ! 何でアリエッタを連れていくのさ。一人で戻れつーか、僕が戻る!! 単に事務処理が嫌で逃げたいんだろう」
「失礼だな。私は、いつでも逃げている」
「胸を張って云うことか!!」
 ダアトに来てから切れ味の良い突っ込みに磨きが掛かっている気もしなくもないが、諸悪の根源がエリクシルだけに留まらず上層部は問題児ばかりな現状にシンクの胃は限界に達しそうになっていた。
「頼むから仕事をしてくれ……」
「やるべきことはやっているから問題ないさ。それに、バチカルへはあの赤鶏も連れて行くからシンクの負担も減るだろう」
 突然の爆弾発言にシンクは声も出せずエリクシルを凝視した。
「何だいその顔は。とにかく調教するにしても野生化した赤鶏は、髭に暗示を掛けられているせいか色々誤った情報を仕入れているみたいだからね。一度現実を見せないことには始まらないでしょう」
 それは再起不能にするためなのか、と一瞬言葉に出そうになったものの賢明にも口に出すことはなかった。
「そういうわけで暫くここを離れるから、適当な任務でもでっち上げておいて下さい。だから服を寄こしなさい」
 云いたい事だけ言ったエリクシルは、問答無用で追いはぎの如くシンクの団服を毟り取ったのだった。

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