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冬の風物詩 [ 11/11 ]


 年が明けて初雪が降った夜は、藍が率先して鍋パーティーを仕切っていた。
 と言うのも、関東では大雪の部類に入るくらい雪が積もり買い出しに行くに行けないのをこれ幸いと冷蔵庫一掃処分に踏み切ったのだ。
 幹部妖怪達から届けられた山の幸、海の幸をふんだんに盛り込んだ鍋はいつにも増して豪勢だった。
 お馴染みの丸テーブルを囲みながら甲斐甲斐しく子供達の世話に明け暮れる藍に、ぬらりひょんが苦笑を浮かべて彼女の手から菜箸を奪った。
「ぬらりひょん様、何か食べたいものでもありましたか?」
 よそいますよと手を差し出す藍に、ぬらりひょんは良いからとやんわりと断り逆に藍のお椀を取りポイポイと煮え立った具を入れていく。
「藍は、桜達に構いすぎじゃ。ちったぁ自分の飯も食わんでどうする」
 そう指摘され、藍は恥らうように頬を染めてはにかんだ。そう言われれば、夕食が始まってから一口も口にしていない気がする。
「リクオ達の面倒は、俺が見るから安心して飯に集中しな」
「そりゃワシの台詞じゃ」
 ぬらりひょんは、良いとこ取りをした鯉伴をキッと睨みつけた後、具が盛られた椀を手渡してくれた。
「お言葉に甘えて頂きますね」
 ハフハフと食事をしている合間も、やはり子供達の目が放せなくて結局世話を焼いてしまう。
「リクオ様、お汁が垂れてますよ」
 大きすぎた餅が、口からはみ出しポタポタと雫を落として服を汚しているリクオに、私は一度吐き出させ小さく裂いた物を少しずつ食べさせた。
「リクじゅるい。ママ、おもちたべゆ」
 グイグイと袖を引っ張りお持ちを強請る桜に、私はハイハイと桜に向き直りぬらりひょんがよそいでくれた椀からお餅を引っ張り出し食べさせると怒られた。
「そりゃ、藍の飯だろう。桜にやってどうするんだい」
「桜も、お餅が欲しけりゃワシのやるからこっち来い」
 ぬらりひょんと私の顔を交互に見た桜は、こくんと小さく頷きトトッとぬらりひょんの傍に寄ったかと思うとちょこんと座り口をパカッと大きく開けてお餅を催促していた。
 我が娘ながらどうしてそんなに食い意地が張っているのだろう。
「え、えっとぉ……」
「「藍」」
 じと目で鯉伴とぬらりひょんから見られて、私はウッと声を詰まらせ撃沈したのだった。
 桜達のことをぬらりひょん達に任せ、私はモソモソと食事を再開した。
 二人と時々雅が子供達の面倒を見てくれるので食事が捗ったのも事実だ。
「出汁が少なくなってきましたね。ちょっと取ってきます」
「そうじゃな。頼む」
 そう席を立ったのが失敗だった。ちょっと目を離した隙にちゃっかり嫌いな物を食べさせている子供達がいた。


 お椀を小さな手で掴み口をモゴモゴ動かしながら一生懸命食べる桜達の姿に笑みを零していたら、娘達の手がぴたりと止まった。
「霞、どうしたんだい?」
「桜も九重も箸が進んでおらんぞ」
 それぞれに声を掛けると子供達はへひょりと眉を下げてお椀の中を見ていた。
「ちいたけ……」
「ねぎ……」
「にんじん……」
 どれもこれもそれぞれが嫌いなものである。ムムムッと眉を潜めて親の仇と言わんばかりに大嫌いな食べ物を睨みつける姿に周囲から失笑が漏れた。
「とーしゃまぁ……」
「ミヤおねがい」
「りあんたん」
 ジーッと穴が開くほど見つめられ名前を呼ばれた二人と一匹は、甘いと言われつつも仕方がないを口癖に口を開けた。
「しょうがない、今日だけだぞ」
「あい! りあんたん、あーん」
 霞は、お花型に切られた人参を鯉伴の口元に持って行き食べさせている。傍から見たら微笑ましい光景なのだが、『今日だけ』という約束は建前で娘に頼られるのが嬉しくて堪らない鯉伴のデレさに周囲はまたかと溜息を吐いた。
「とーしゃま、あーんちて」
「あーん」
 にこぉと笑う桜に可愛いことを言われたぬらりひょんは、デレデレと頬を緩め口を開いている。こっちは、自主的に口を開いているあたり重症だ。
「好き嫌いすんなって言われてるだろう」
「ミヤ、おねがい! 後でなでなでしゅるからぁ」
 唯一嗜めた雅だが、九重の撫で撫で発言に尻尾が緩々と動いている。そんなに撫でられたいのかと冷ややかな視線が雅の背中に突き刺さるが綺麗に無視される。
「藍には内緒だぞ」
「うん!」
 パァッと明るい顔で喜ぶ九重に苦笑しつつ、箸の先に挟まれた葱を口の中に放り込みモグモグと租借した。
 嫌いなものを食べなくて済んだ娘達は、気を取り直してご飯へと手を伸ばしたのだったが、戻ってきた彼女の言葉にその手が止まった。
「九重、桜、霞……好き嫌いしちゃダメって言ったでしょう」
「「「あぅ……」」」
 目に見えてしょんぼりする娘に、私は小さく肩を竦め席に着くと標的をぬらりひょん等に移し軽く睨めつけた。
「ぬらりひょん様も鯉伴様も雅も、子供達にお願いされたからって食べちゃダメです。好き嫌いが直らないでしょう」
「それもそうじゃが、無理に食べんでも良いじゃろう」
「可愛い娘が泣くのは嫌だしなぁ」
 言い分も全然筋が通らない上に溺愛度が計れそうな内容に、言っても無駄かと溜息を吐いた。
「藍、おなかすいたでしょう。はい、あーん」
 隣に座っていたリクオが、私の口元にお肉を差し出した。
「私は大丈夫ですから、リクオ様が食べて下さいな」
「やだ! 藍食べてないから、ね? あーん」
 ぷくぅと頬を膨らませる姿に思わず身悶え、唆されるままに口に入れると肉の下に春菊が挟まっていた。
「リクオ様、春菊が嫌いだからって人に押付けちゃダメです」
「えへ」
 メッと嗜めるも、ニヘラと笑って誤魔化されてしまう。私は、ハァと溜息を吐き今日だけだと言ったところで、鯉伴から突込みが入った。
「藍、俺らと一緒のことしてるぜ」
「うっ……」
「リクオに一本取られたな」
 クククッと喉の奥で笑うぬらりひょんに、私は隣に座っているリクオの頭を軽く撫で気を取り直して食事を再開した。
 そんな彼らのやり取りは、僕から見れば似たもの親子に映るのだが、彼らは知る由もなかった。

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