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少女と百鬼夜行 [ 82/259 ]


 庭先には、猫又が本性を現し暴れまわっていた。彼を筆頭に小妖怪や白雪たちの姿も見える。桜や九重の姿を見た時は血の気が引いた。
 乱闘騒ぎがよく分かっていない彼女らは、首を傾げてボーッと眺めている。特に桜からすれば、奴良組の妖怪は見知った相手である。警戒しろという方が無理だ。
「斑、止めなさい!」
 私の怒号に、乱闘していた彼らの動きが止まる。
「瑞、何もされてねーか? 貞操は無事か?」
 猫又は、対峙していた牛鬼を跳ね飛ばし私の周りをグルグル回ったかと思うと必死の形相で貞操を気に掛けてくる。
「何ですか、それ。そんなことより、子供の前で乱闘するとは何事です。桜や九重を出入りにまで連れてきて、怪我したらどうするつもりですか!」
「や、それはだな。チビ共が付いてきたいって……」
 しどろもどろに説明する猫又に、私の怒りは収まらない。
「だからって連れて良いわけありません! 出入りがしたいなら、勝手にして下さい。この子達を巻き込まないで下さい」
「すまん」
 冷や汗を掻く猫又に、私はハァと大きなため息を吐く。彼についてきた雑鬼や小妖怪達を見ると、ビクッと身体を揺らし視線が宙を彷徨っている。
「言うことはありませんか?」
「「「「す、すみませんっ」」」
 謝罪の大合唱に私はフンッと鼻を鳴らし、大破した門を見て頭が痛む。何でこうも力のある妖怪は、物を壊すのが好きなのか。
「皆さん、壊したものはきちんと直して下さいね。桜、九重おいで」
 両手を広げて二人を待っていると、彼女らは嬉しそうに抱きついてくる。うーん、最近は留守番を任せても大丈夫なくらいに成長したが、泊まりがけで離れるのはまだ無理のようだ。
 白雪もニョロニョロと巨体を動かし近づいてくる。私は、ニッコリと笑みを浮かべて釘を刺す。
「白雪は、門の修繕を手伝うの」
 白雪は、ガーンッとショックを受けている。ポロポロと涙を零し哀愁を漂わせ訴えてくるが、私はそれを許さなかった。
「ダメ。斑さんの暴走に便乗して暴れた罰よ。修繕が終わるまでご飯抜きですからね」
 身体を揺らし本格的に泣き出した白雪を無視し、奴良組の妖怪たちに頭を下げる。
「私の家族がご迷惑をお掛けしました。ちゃんと言い聞かせますので、許して頂けませんか?」
「いや、あ……」
 唖然とする面々に、私は苦笑を浮かべる。大妖怪を怒鳴りつけていることか、妖怪を家族と称したことか、思い当たる節が多すぎて分からない。
 ショックからいち早く立ち直った牛鬼が、現状を把握しようと質問をしてきた。
「瑞は、人だな? おぬしは、妖怪と夫婦になったのか?」
「夫婦の契りは交わしてませんが、同じ家に住んで共に生活していればそれだけで家族です」
「……それって家族なのか?」
「家族です」
 納得いかない様子の牛鬼は放っておくことにしよう。
「まだご飯を作っている途中なので失礼しますね。狒狒さん、豆腐小僧さん行きますよー」
 桜と九重を渡殿に上げ二人の手を引きながら庭先にいる狒狒と納豆小僧に声を掛ける。
 まだ戸惑っているようだが、私と襲撃してきた猫又を見比べた後、彼らは私の後ろを追いかけてきた。素直なことは良いことだ。違うか。
「ママ、ごはんなあに?」
「ん? 今日はね、豚汁と鯖の味噌煮よ。斑さん達が押し掛けてきたから、足りないのよね」
「かーしゃま、とーしゃまは?」
「……雪羅さんの怒りの鉄槌を食らって風邪を引いて寝込んでいるわ。近寄ったらダメよ。移るから」
「とーしゃま、あいかわらずだね」
 娘にまで言われたらお仕舞いだろう、ぬらりひょん。心の中で突っ込みを入れつつ、このチビっ子二人をどうするかと考えていたら、雪羅にバタリ会った。
「「せつらねーたん!!」」
 雪羅の姿を見つけた桜と九重は、私の手を離れ雪羅に突進していく。ビタンと足に引っ付かれた彼女は危ないと怒りながらもされるがままになっている。
「見覚えのある妖気だと思ってたら、来てたのね」
「ええ、斑さん達が押し掛けてきてました」
「あんたが来た時点で予測はついていたわよ」
 カラカラと笑い飛ばす雪羅に、空気になっていた狒狒が口を挟む。
「お前、あの百鬼夜行と知り合いなのか?」
「百鬼夜行? 何それ」
 意味が分からないと顔を顰める雪羅に、私が補足説明を付け加える。
「斑さん達のことですよ」
「百鬼夜行ねぇ。瑞姫組とでも名乗ったら?」
 雪羅の冗談か本気か分からないからかいに、私はヒクッと顔を引きつらせる。傍で聞いていた桜たちが猫又たちに話し、本当に瑞姫組が誕生するとはこの時思ってもみなかった。
「嫌ですよ。それより、ご飯です! 急に増えたので追加で作らないと…。雪羅さんも手伝って下さいね」
「ええー、私は食べるの専門なんだけど」
「文句言わずに手伝う。桜、九重、雪羅さんを台所に連行するわよ」
「「あい」」
 私の言葉に頷き、ニコォと天使の微笑を浮かべたチビっ子二人はガッチリと雪羅の腕を掴み台所へと連衡したのだった。

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