小説 | ナノ

いつも別れを見つめて1 [ 85/145 ]


 神隠し――親しい人が、忽然と居なくなること。それが、まさか自分にも当て嵌まると誰が想像するだろうか。
 一生に一度あるかないか、福引で当てた特賞で訪れた出雲大社。パワースポットで有名な場所に、煩悩を携えて行ったのが不味かったのかもしれない。
 恋愛が成就すれば良いなど大それた事を望んだわけではない。ほんの少し、好きな男子と話す切っ掛けが出来たら良いなと思っていた。
 境内を歩いていると、張り詰めた空気が心地よく隈なくあたりを見て回っていた私は、大きな神社には不釣合いな廃れた鳥居を見つけ、引き寄せられるように足を運んでいた。
「どうして、ここだけ修繕されてないんだろう……。ま、いっか」
 目を瞑り手を合わせたお願い事をした私が目を開けて見た光景は、全く知らない土地の神社の境内に居たのだった。
 最初は、夢だと思った。一晩寝ても醒めず、次に頭がおかしくなったと思った。
 自分の住んでいた場所を地図で探したが、どこにも存在しなかった。実家の番号に掛けても『現在使われておりません』のアナウンスが無常に流れた。
 それでも諦めれなくて信じられなくてあちこち歩き回ったが、三日経って漸くそれが現実だと言うことに絶望した。
 中学卒業間近の子供が、生きるには厳しい世界で更に身元の保証も出来ないため働くことも出来ない。
 この世界には、佐久穂という存在がないのだ。戸籍もなければ、帰る家もない。
 財布のお金が底をついた私は情けないことに行き倒れた。行き倒れた先は、見たこともない妖怪の巣窟でした。


 酷く薄汚れてボロボロの私は、拾い主に浮浪者と間違われたが家の前で放置するのは分が悪いと判断したのか招き入れ風呂と食事を与えてくれた。
 あちらこちらに見える人ならざるものにギョッとしたが、今の私の状況を考えれば何が起こっても不思議じゃない。
 たっぷりの睡眠の後は、風呂に放り込まれる。一週間もお風呂に入らなかったのだ汚いと思う。
 浴衣を借り、通された部屋には艶々と輝く白いご飯と美味しそうなおかず、温かい味噌汁が膳に乗って私を待ち構えていた。
「色々聞きたいことあるが、取敢えず飯を食ってからだ」
 食えと言われ、私は膳と男を交互に見る。私のお腹は正直で、食事を見ただけでお腹がクーッと鳴った。
 暫しの葛藤の後、そろそろと箸に手を伸ばし頂きますと言った後、食事に手をつけたのだった。
 久しぶりに食べたまともなご飯に私は思わずボロッと涙を流した。涙を流しながら食事をする私に、男は面食らったのかマジマジと凝視している。
 食べ終わった私は、助けてくれた男に深々と頭を下げた。
「あの、ありがとう御座います」
「いや、それは構わねぇが……。何だって、あそこで倒れてたんだい?」
 男に問われた私は、口ごもる。私が体験したことを正直に話したとしても、頭がおかしい奴なんじゃないかって思われる。実際、私自身がそう思うくらい真実味の薄い非現実的な現象を赤の他人の彼が信じるだろうか。
「……分からないんです。辛うじて財布の中に入っていたどこかのお店のポイントカードに名前が書かれていたので、恐らく自分の名前だと思うのですがそれ以外は何も分からないんです」
 分からないと繰り返す私に、男は厳しい顔で話を聞いていた。
「あの、お願いがあるんです」
「何だい?」
 お願いに身構える彼に、私は絶対誤解しているなと苦笑いが浮かんだ。
「一番近い交番または警察署まで行く道を教えて貰えませんか?」
 てっきり自分を置いてくれと言われるもんだと思っていたのか、少し驚いた顔をしている。食事や着る物の世話までして貰っておいて、それ以上甘えたくない。
「警察に行ってどうするつもりなんだい?」
「保護をして貰おうかと思ってます。身元を保証するものが無い上に住む場所もありませんから……」
「そーかい。分かった。俺も一緒に行ってやるよ」
 男はニカッと笑ったかと思うと、グシャグシャと私の頭を撫でた。
「俺は、奴良鯉伴。ここであんたを拾ったのも何かの縁だ。困ったことがあったら頼りな」
「ありがとう御座います。私は、神月佐久穂です。……多分」
「何じゃそりゃ。あー、記憶が無いんだったな」
 その後、私は鯉伴に連れられて警察に行き事情を話し保護して貰ったのだった。

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