小説 | ナノ

お仕置きの時間 [ 20/259 ]


 海女騒動が終った後に待っていたのは、宣言通りお仕置きの時間だった。
 濃厚な旅行のせいで、心身ともにクタクタになった私を夜のリクオが更に追い討ちを掛けてくれた。
 家事もそこそこに風呂で汗を流した後、もう寝ようかと部屋に入ったら急に視界が回り畳の上に押し倒される。
「わ、か…さま」
「藍、仕置きの時間だ」
 ギラギラと獲物を狙う野生動物のような目で、私を見下ろすリクオにゴクリと生唾を嚥下する。
 クイッと顎を持ち上げられ、唇が触れ合うかギリギリのところで止まり、彼は妖艶な笑みを浮かべていた。
「一体どうしてお前は、あっちこっちに気を持たせるような素振りを見せるんだろうなぁ。あいつらで手いっぱいなのに、お前は俺の気など知らず敵を作りやがる」
「意味、が、分かりません。若様近いです。離れてっ」
 胸板を押すも、ビクともしない。リクオの手が、ドンッと顔の横の畳を殴った。普段の彼からは考えられないくらいの乱暴な仕草に私は怖くなった。
「俺は、お前を拾った後に言ったはずだ。俺のものだってな。いい加減聞き分けねーと、犯すぞ」
 怖いくらい無表情な顔で言って退けるリクオに、あまりの変わりように怖くなり目尻に涙を溜めた。
「ふっ……ふぇ…」
 ボロボロと堰を切ったように泣き出した私を、リクオは許してくれなかった。
「泣いても許さねー。お前は、頭から爪の先まで全部俺のもんだ」
 そう言うと、リクオはボロボロと零れる涙を唇で吸い取る。額、瞼、鼻先、頬、そして唇と甘やかな口付けを落としていく。
 しっとりと重なった唇から逃れようとすると、顎を掴まれ強引に舌を捻じ込まれる。
「ふぅん……んんっ…ハァ…ァ、ンゥ…」
 クチュクチュと舌が絡む音が、やけに大きく聞こえて恥ずかしい。
 リクオの胸を押していた手も、息が苦しくなり頭がぼんやりするにつれ縋るように着物の合わせをキュッと掴んでいた。
 チュパッと音を立てて唇が離れ、唾液が口の端から垂れるのも気にすることなど出来ず、ぼんやりと彼を見上げる。
「藍……」
 酷く扇情的な声で名前を呼ばれた私は、恥ずかしさの余り顔を手で覆ってしまう。
 リクオは、顔を覆っていた手を有無を言わさず退かしまた口付けを落とす。
「俺のもんだって印をつけてやる」
 リクオの唇が喉をなぞり、鎖骨へと降りる。浴衣の合わせに手をかけ左右に大きく開かれ、私は小さな悲鳴を上げた。
「若様、止めっ……ンァッ…な、に…。ファ、フフフッ……擽ったい」
 胸元に顔を埋めるリクオの髪が、肌の上を滑り擽ったい。胸を揉まれる感覚よりも、くすぐったい方に意識が向いてしまうので、ケタケタと笑い声が上がる。
「……お前なぁ…ハァ」
 私のくすぐったがりように彼も呆気に取られ気が殺がれたのか、ハァと大きな溜息を一つ吐き右胸をチュッときつく吸い上げ赤い華を散らすと身体を離した。
「今日は、これくらいで許してやる」
 変わり身の早さにポカンとしていると、リクオはニヤッと人の悪い笑みを浮かべて言った。
「このまま、俺に襲われたいのかい?」
 その言葉に、ハッと我に返り乱れまくった浴衣を慌てて掻き合わせる。
「若様の馬鹿っ! エッチ! 助平! セクハラ反対!!」
 顔を真っ赤にして文句を言う私を見て、彼はどこ吹く風だ。
「褒め言葉だな。男は、みんなエロいんだよ。助平上等だ」
「褒めてませんっ!! ああ、もうっ……これがどういう意味か分かってるんですか?」
 胸元に散らした赤い華は、いわゆるキスマークという奴で別名所有印だ。
「俺のもんって意味で付けたんだ。キャンキャン五月蝿いなら、見える場所につけるぞ。首にぐるっと一周首輪のようにつけてやろうか?」
「なっ、なっ……若様の変態! 出て行けーっ!!!」
 リクオに向かって枕を投げつけると、あっさりと交わされてしまって悔しい。
 布団を頭から被り芋虫のようになる私を見たリクオは、ククッと喉の奥で笑みを噛み殺しているなど知る由もなく、私は羞恥心で死ねると泣きながら夜を明かしたのだった。


 翌朝、私は胸につけられたキスマークをどう隠すか躍起になっていた。
「ううっ……若様の馬鹿っ。ブラを着けても隠れないじゃない。いくら服で隠れるからって、体育があるんだぞ。着替えられない……」
 巻や鳥居達に見られること必死だし、あからさまについたキスマークを気付かない確率は低い。
「こんな事ならキャミソールも購入しておけば良かった」
 前日買ったTシャツだと柄が透けて見えてしまうから却下だ。かくなる上は、見学するしかない。
 半べそかきながら制服に袖を通していると、ガラッと襖が開いた。
「藍、遅いよ!」
「へ? キャアァアッ!! な、何平然とした顔で部屋に入ってきてるですか! 着替え中ですよ」
 上着で胸元を隠し顔を真っ赤にして怒る私に、リクオはニッコリと笑いながら言った。
「今更恥ずかしがる仲でもないだろう。それに、僕も自分のものって印を付けにきたんだ。僕も怒ってるんだよ。夜の僕だけつけるのってずるいしね」
 同一人物じゃありませんか、という言葉を飲み込みどうにかして逃げを試みるが、あっさりと捕まってしまった。
 畳の上に落ちる上着を拾うことすら許して貰えない。恥ずかしさで泣きそうになる私に、リクオは夜の彼を思わせるような笑みを浮かべて私の胸にもう一つ赤い華を散らした。
「早く着替えてきなね。ご飯食べ損ねるよ」
 何事もなかったかのように身体を離しヒラヒラと手を振りながら出て行くリクオを見送った後、私は腰が抜けて暫く動けず結果、リクオ共々遅刻する羽目になったのだった。

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