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海女探索 ―後編― [ 18/259 ]


 リクオを宥めてすかして何とか機嫌を取り(詳細は聞かないでほしい……)、ゆらを宿に連れ帰った。勿論、海女も家鳴りも一緒だ。
「若様、そう言えば一緒にいたカナさんはどうしましたか?」
「あ、やべぇ……」
「置き去りにしてきたんですね」
 ハァと溜息を吐くと、バツ悪い顔で私を見るリクオが居た。
「清継君ですか? ゆらさんが倒れまして、先に宿へ戻ります。清継君は、皆さんに戻るよう指示をお願いします」
「花開院さんの具合はどうなんだい?」
「対した事はありません。気を失っているだけです」
「分かったよ。気をつけて戻るんだぞ」
 清継から貰った通信機で、ゆらが倒れたことを伝え一足先に戻っていると説明すると、流石に彼も心配になったのか妖怪探しを断念し戻ることにしてくれたようだ。
 取敢えず、これで皆を回収できる。後はリクオをどうするかなのだが、夜は妖怪のリクオの領分。
「若様、昼のお姿にお戻りになれませんか?」
「なんだい。おめぇは、昼の俺の方が良いっていうのかよ」
 気に障ることを言ってしまったのか、彼はムッとした顔で私を睨みつける。
「そういう事ではありません。清継君達が戻ってきたときに、若様だけお姿が見えないとなると要らぬ誤解を招きかねません。戻れるなら戻って下さい」
「そうポンポンと変化できりゃあ苦労しねーよ」
 ガリガリと頭を掻き吐き捨てるように言うリクオに、それもそうかと納得した。
「私が、適当に誤魔化しますから海女や家鳴りと一緒に見つからないように隠れてて下さい。海女は、これに着替えて下さいね」
 差し出したのは、寝巻き用に持ってきていた藍色の浴衣と紅色の兵児帯だ。子供っぽいかもしれないが、彼女に合うものと言えば、これくらいしか思いつかなかった。
「あっちは、このままでも大丈夫でありんす」
「全然大丈夫じゃありません! 白い着物だと透けて肌が見えて扇情的なんです。年頃の男の子がいるんですよ? 襲われちゃったらどうするんですか」
「返り討ちにしやんす」
 恥じらいを持ってほしいのだが、キッパリと男らしく返り討ち宣言をする海女に私は頭が痛くなってきた。
「ダメったらダメです。絶対にそれ着て下さいね。若様も海女が着替えている間は、別の場所に行ってて下さい」
「こんな奴襲うかよ」
 ケッと吐き捨てるように言うリクオに、海女は彼の好みからかけ離れているようだ。二人揃うと美男美女といった感じで似合っているのに勿体無い。
「はいはい、仲良くして隠れて下さいね」
 私は、それだけ言うと彼らを置いて清継たちを迎える準備をした。


 全員の布団を敷き、先にシャワーを浴びる。潮風に当たっていたせいか、べた付いて気持ち悪い。シャワーが使えて良かった。
 Tシャツと短パンに着替え、髪を拭いていると皆が戻ってきた。
「皆さん、お帰りなさい」
 タオルを肩に掛けたまま出迎えると、目を見張りビシッと固まる面々に私は首を傾げた。
「えっと……どうかしました?」
「藍、何て格好しているんですかーっ!! 男共は、目を瞑りなさい!」
 氷麗の怒声に、私は起こられる理由がさっぱり分からない。ガシッと腕を掴まれたかと思うと、ズルズルと荷物を置いている部屋へと連れ込まれる。
「氷麗ちゃん?」
「藍は、無防備過ぎです! 今の藍の格好は、ケダモノの前に餌さをぶら下げて食べて下さいと言っているようなものよ。寝巻きなら浴衣があったでしょう。どうしてそれ着ないの!!」
 ノンブレスで捲し立てる氷麗に私は、これまでの出来事(都合の悪い部分は伏せて)を説明した。そしたら、更に怒られた。
「海女と遭遇したですって!? 何で私を呼ばないの! 何も無かったから良かったものの、人間に好意的な妖怪ばかりじゃないのよっ」
 氷麗の最もな言葉に、私は少し反省する。何の力も無いちっぽけな人間が、弱い妖怪なら兎も角、普通なら太刀打ちできるわけがない。
 彼女のいう通り、一歩間違えれば大惨事を引き起こしていたかもしれない。
「……ごめんなさい」
「分かれば良いんです。それにしても陰陽師は全然・全く本当役に立ってませんね」
 同じ意味合いの言葉を二回使うほど、ゆらに対して厳しい評価を下す氷麗に私は苦笑を浮かべた。
「仕方がありません。相手の畏れは、強力な魅了ですよ。しかも無自覚で常に畏れを発動している方でしたから、まだ修行中の身では適わないと思います。私には、全然効果がありませんでしたけど……どうなさいましたか?」
 氷麗が口を噤み、何やら思案している。
「……どうして、畏れが分かったの?」
「え? そう言われてみれば、そうですね。海女の特徴と彼女と話をして確信を得たからでしょうか」
「(何て洞察力なのかしら。これで無自覚だなんて)……ハァ、もう良いわ。藍、何かあったら次からは私に言いなさいね」
「は、はい」
「よし(藍の畏れに影響されないことも気になる。総大将に一度相談した方が良いかもしれないわね)」
 氷麗の剣幕に気圧された私だったが、話はカナの乱入で終わりを告げたのだった。

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