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海女探索 ―前編― [ 16/259 ]


 午前0時30分を回った頃、私達は海女が現れるという浜辺にいた。彼女は、月が美しい夜に現れ人を誘い海へと道連れにするのだという。
「よし、それじゃあ皆この中から一枚好きな紙を取ってくれ」
 清継が、ポケットから取り出した四つ折の紙を受取る。全員に行き渡ったのを確認した彼は、折り畳んだ紙を開くように指示した。
「アルファーベッドが書かれていますが、これが何か?」
 私の紙には、Dと書かれている。これが何かさっぱり分からなくて清継に聞くと、彼は待ってましたとばかりに説明を始めた。
「同じアルファーベットが書かれた相手とペアになって、妖怪探しをしに行く。広いからね。手分けをして探した方が効率がいい。妖怪を見つけたら、無線機に連絡だ! 見つけるまで帰らないぞ」
 ワハハハッと高笑いする清継に、私は危うく大きな溜息を吐きかけ根性で何とか押し留めた。某ブランドの特注品で、妖怪仕様の人形型無線機。
 私のものも超特急で作ってくれたようで、何故か猫娘仕様になっている。カナのに比べればマシだが、不気味なのには変わりない。
 男女混合でチームを組み手分けして探すことになるのだが、くじ引きで決まったチームは清継と巻、鳥居とリクオ、ゆらと倉田、島と氷麗、私とカナの5つだ。
 私にカナを守るだけの力は無いので、ゆらか倉田のどちらかと交代できれば安心できるのだけど、どうやって説得して納得して貰おうかと頭をフルに使い考える。
「女の子二人だけで夜の海岸を歩くのは、流石に危ないと思います。カナさん可愛いですから、どこぞの不貞な輩に目を付けられるとも限りません。私、カナさんを守りきる自信ありませんので、ここは別のチームと一緒に行動した方が良いと思います。カナさん、怖がりだからゆらさんのところに入ってはどうですか? 妖怪が現れてもゆらさんが守って下さいますし、倉田君なら不貞な輩からゆらさんやカナさんを守ってくれます。ね、倉田君」
「ああ…」
 いきなり話を振られた倉田は、小さく頷き了承してくれた。リクオの護衛で来ているはずが、人間の護衛をする羽目になっているのだから不満もあるだろうに彼は優しい妖怪だ。
「じゃあ、藍は僕のところに入れば良いよ」
 さも当然と言わんばかりに、自分のチームに組込もうとするリクオにカナが遮った。
「簡単な護身術なら心得てるし、自分の身は自分で守るから大丈夫。私が、藍ちゃんも守るからリクオ君は引っ込んでて」
「カナちゃん、妖怪相手でも同じこと言える? 怖がりなんだから無理しないで、倉田君のチームに入りなよ。藍は、僕が守るからね」
「それとこれとは別よ!! 藍ちゃんは私が守るんだから!」
「僕が守るんだよ!!」
 守られる前提で話が進んでいる。言い争っている当人達をよそに、氷麗を除いて周りの友人はドン引きだ。私が口を出そうものなら薮蛇を突きかねないので賢明にも口にしないが。
「清継君、鳥居さんと倉田君をペアにして、私はゆらちゃんとペアになります。あの二人長引きそうなので、放っておいて探索開始しませんか? 後、闇雲に探しても意味はありませんので、最も出やすい1時から3時までの間に絞りましょう。3時を過ぎたら探索は打ち切り、無線で連絡を取り合い集合して皆で戻る。丁度、月灯りがあるので視界が困ることはなさそうですね。集合場所の目印を決めておきましょう。あれ、なんかどうですか?」
 指差した先にあるのは、海の家と書かれた建物だ。これだけハッキリと分かりやすい目印があれば、迷うこともないだろう。
「確かに、神月さんの云う事は一理あるな。よし、じゃあそうしよう。皆、手分けして海女を探すぞ!! 検討を祈る」
 各々散らばるように海岸を歩き始める。氷麗の恨めしそうな視線が突き刺さるのを感じながらも、あえて気にしないことにしてゆらに声を掛ける。
「私達も行きましょうか」
 ゆらの手を引きながら、そそくさとその場を離れる。
「なあ、ええん? あの二人放っておいて」
 遠慮がちに聞いてくるゆらに、私はキョトンと首を傾げる。めくるめくラブロマンスに発展しそうなら張り付いてでも見ていたいが、あの様子ではとばっちりを食らうのは目に見えている。
「リクオ君ならカナさんを守れると思いますし、私も(精神的に)安心です。それに、ゆらさんが居てくれたら心強いですもの」
「……おおきに。うち、頑張って守るから」
 ニッコリと笑みを浮かべながら一緒にいたいのだと言えば、彼女は頬を赤く染めて照れたようにはにかんでくれた。
 可愛い過ぎる! 思わずギュッと抱きしめたくなったが、何とか根性でその衝動を押しとどめる。
「ゆらさん、海女と遭遇しても相手を倒そうなんて思わないで逃げますよ。足手まといが一人居るだけで危険度は増しますし、相手の力も分からず闇雲に戦えば勝機も舞い込みません。分かりましたね?」
「うっ……分かった。言う通りにするわ」
 一見おっとりしていそうな彼女だが、妖怪が絡むと好戦的になる。
 初対面のあのやり取りで、彼女は相当気の強い女の子だというのは分かった。
 その上、プライドも高く頑固だということも。
 プライドを傷つけない言い回しで、彼女から妖怪に遭遇したら逃げるという言質を取れたことは自分を褒めたいくらいだ。
「では、3時間頑張りましょうか」
 私は、ゆらの手を引き夜の散歩気分で海女探しを再開した。
 まさか自分が、お目当ての海女に遭遇するなどと思ってもいなかった。

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