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お買い物day 中編 [ 12/259 ]


 リクオと共に奴良邸を出た私は、何故か仲良く手を繋いで登校していた。
「烏天狗と何話してたの?」
 興味津々というよりか、ジットリと念が篭った目で見つめられて顔を反らしたくなった。
「洋服持ってませんから、学校が終ったら氷麗ちゃんと買い物に行くように言われたんです。お金も貰いましたし」
「聞いてないぞ。まさか、二人きりで行くつもりじゃないよね?」
 ゴゴゴッと背中から黒いものが出ているリクオに、顔がヒクリと引きつった。何でそんなこと言われなければならないんだろう。
 しかし、相手は一枚上手で私の考えていることなどお見通しだった。
「いくら氷麗が一緒だからって危ないよ! 藍は可愛いんだし、変な虫が沸いたら困る。それに、藍は僕のだろう」
 誑しは夜のリクオだけだと思ったが、昼の彼もなかなか誑しであるという事実に眩暈がした。
「……私は、物扱いですか」
「え? だって拾得者だし」
 この坊ちゃんには、私=落し物と認識されているようだ。
 ちょっとでもドキッとしたトキメキを返して欲しい。
「買い物、僕も行くからね!!」
「はいはい」
 下着売り場に連れてってささやかな報復をしてやると心に誓い適当に返事をかえしていたら、カナに声を掛けられた。
「お早う。藍ちゃん、リクオ君」
「カナちゃん、お早う」
 カナの登場でペッカーと明るい笑顔を振りまくリクオに、私は思わず白い目で彼を見てしまった。
 自分との扱いの差に腹が立ったわけでは断じてない。
 手を繋いでいる部分を凝視するカナに、言い訳するのが面倒臭いと思いつつも挨拶はしておく。
「お早うカナさん」
「今日も手、繋いでるんだね」
「いい年して手を繋いで歩くのも恥ずかしいものがあるんですけど、どうもリクオ君には信頼がないようでして……」
 乾いた笑みを浮かべて誤魔化すと、昨日とは別人のようにあっさりと納得してくれた。
「リクオ君から聞いたよ。極度の迷子癖があるんだから仕方がないよね」
 何を彼女に吹き込んだんだ。キッとリクオを睨みつけると、彼はニヤッと人を食った笑みを浮かべるだけで何も言わない。
 空いたもう片方をキュッと握られ、驚いてカナの方を見ると少し照れた顔で笑みを浮かべている。
「ええっと……カナさん?」
「手を繋いで歩くのも良いよね」
 上目遣いではにかむ様な笑みを見ただけでNoと言えるほど私は非情じゃない。
 男だったら、絶対前かがみになっていただろう。
 左手にはリクオ、右手にはカナと三人揃って手を繋ぎ登校する光景はちょっと……いや、かなり異色な光景だった。
 まさか、その背後から氷麗が嫉妬に狂った女さながらに私を睨んでいたなど知る由もない。


 授業を終えた私は、清継にクラブ活動に参加できないと断りを入れていた。
「なにぃぃ!! 神月さん、今日は帰るというのかい」
「今日、氷麗ちゃんとリクオ君と買い物に行くので済みません」
 申し訳なさそうに謝ると、ガクッと床に崩れ落ちた。何故、そんなに気落ちするのかさっぱり分からない。
「奴良君ならともかく及川さんと君は、昨日会ったばかりじゃないか?」
 鋭い突っ込みだ。自己中なナルシストかと思っていたが、結構人を良く見ている。
「急な合宿が決まったでしょう。私、普段着が着物しかないからお洋服買いに行こうと思ってリクオ君に相談したんです。この辺りに可愛いお洋服が置いてあるお店とかあまり知らなくて、リクオ君に相談を受けた氷麗ちゃんが一緒に回ってくれるって言ってくれのでお言葉に甘えたんですけどダメでしたか?」
 急遽頭の中で作り上げた八割がた嘘で固めた言い訳をつらつらと並べると、清継は納得したのか仕方が無いと私を解放してくれた。
「そういう事なら仕方が無い。明日は、合宿の細かい打ち合わせをするから必ず出席してくれたまえ」
「はい」
 清継の言葉に適当に相槌を打ち、挨拶もそこそこに鞄を肩に掛け隣のクラスにいるリクオの元へと向かう。
 教室の入口に立ちキョロキョロとリクオの姿を探していると、カナと話している彼の姿があった。
 なんだか凄くいい雰囲気なのだが、邪魔するのは気が引ける。このまま声を掛けずに去る方法もあるのだが、勝手に帰ってしまったら後が怖い。
 近くにいた男子生徒に、リクオを呼んで貰えないかと頼むと顔を赤らめ頭を激しく縦に振り気持ち悪かった。
「奴良ー、お客さん!」
 大声で呼ばなくても良いのにと思いもしたが、呼んでもらった手前文句を言うわけにはいかない。
「藍、もう用意できたの」
「はい、お待たせしました」
 リクオは、既に用意していた鞄を肩に掛けカナに挨拶する。
「またね、カナちゃん」
「二人とももう帰るの?」
 少し驚いた様子のカナに、要らぬ誤解を招きそうなので先手必勝とばかりに買い物のことを話した。
「私、洋服持ってないんです。だから、合宿に備えて買い物しようと思ってリクオ君と氷麗ちゃんに付き合ってもらうんです」
「へぇ〜、及川さんに? 昨日会ったばっかりなのに? もう仲が良いの?」
 ゴゴゴッと黒いものがカナから出ていて怖い。食いつく場所が微妙に違う気がするのは気のせいではなかろうか。
「は、はい良くさせて貰ってます。可愛いお洋服屋さんを知ってらっしゃるとかで、付き添いしてもらおうかと思いまして」
「ふーんふーん……」
 冷や汗がタラリと垂れる。拗ねた顔も可愛いが、やっぱり怖い。恋人の浮気を責められている感じがする。
「私も行く!」
「はい?」
「及川さんのセンスより私の方が絶対センス良いと思うのよね!」
 助けてとリクオを見るが、彼は即座に私から顔を反らした。流石、彼の幼馴染だけあって一度思い込んだら斜め上の方向に突き進む思い込みの激しさには彼も勝てないようだ。
 私は、氷麗にどう説明しようかとグルグルと頭を悩ませるのだった。

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