小説 | ナノ
出会いは唐突に [ 2/259 ]
一番最初に思った事は、『生活どうしよう』である。私こと神月藍は、現在見知らぬ土地に迷い込んでいた。
迷子というのも御幣がある。そもそも、放課後の教室で転寝していただけなのにいつの間にか見知らぬ土地へ瞬間移動してるってありえない。
頭を抱え蹲る私は、傍から見れば変質者である。
電柱に書かれた町名と番地を見ても今ひとつピンとこない。浮世絵町ってどこだよ? と心の中で突っ込みを入れながら、云々うなっていると私に声を掛けてきた奇特な奴が居た。
「あのぉ……大丈夫ですか?」
顔を上げると、茶色と黒の二色が綺麗に分かれたプリン頭のメガネ少年が、心配そうに私を見下ろしている。
どこかで見た顔だ。はて、どこだろう? 無言でガン見する私に、メガネ少年はちょっとたじろいだ。
「…………」
「えっと……」
「あ、うん大丈夫だよ。……っ」
ダラダラと冷や汗を流す少年に、私は慌てて立ち上がり笑って誤魔化そうとしたのが悪かった。
脳貧血を起し立眩みしてへたり込んでしまう。
「この先に僕の家があるから、そこまで頑張れる?」
彼が指さしたのは、立派な塀が続いている純和風の日本家屋だ。
「や、少し休めば大丈夫だから……」
「いいから言うこと聞く!」
人様の家にご厄介になるのは気が引けるので遠慮しようと口を開いたら、目の前の坊ちゃんは有無を言わさず私を背負うとそのまま彼のお家へと連れて行かれた。
「若、お帰りなさい。そちらの方は?」
門前を箒で掃いていた美形さんが、コトリと顔を斜めに傾げる。首がプカプカ浮いているのは気のせいだろうか。
「家の前で倒れてたから拾った」
犬猫を拾うような言い方に引っかかりを感じたものの、介抱しようとしてくれているわけだし文句は言うまい。
「ああ、顔色が良くないですね」
「うん、そう思って。客間に布団敷いてくれる。横になった方が楽だと思うんだ」
「分かりました」
私の意思をまるっと無視して話を進める二人に、口を挟む気力などなくされるがままになる。
これが、後の三代目奴良リクオとの運命的な出会いを果たした瞬間だった。
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