小説 | ナノ
平行線上の私 [ 26/34 ]
清十字清継に成代って早数十年。妖怪一家の跡取り、奴良リクオと出会ったのが運の尽きと言うべきなのか。揃いも揃って私を囲おうとした。
反則技とも云えるような彼らの手腕に、抵抗空しく嫁にされたのは、中学校卒業と同時である。
妖怪世界での話であって、人間社会では『未婚』ではあるが。
「……だからっつて、これはあんまりだろう」
子供達の悪戯にまんまと引っかかった私は、頭を強打し気絶するという何とも間抜けな話だ。
後頭部には、でっかいタンコブが出来ているあたり頭を強打したのは言うまでもない。
「つーか、ここどこだよ」
見覚えがある景色に首を傾げていたら、自分の知っている彼よりも幾分幼いリクオが私に気付き飛びついてきた。
「佐久穂、大丈夫!?」
「リクオか、ここどこだ?」
キョロキョロと部屋の中を見渡す私に、リクオは首を傾げて事も無げに言った。
「保健室だけど。体育でボールを顔面キャッチして昏倒したのは覚えてる?」
何だそれは。どんだけどん臭いんだ自分! 思わず心の中で突っ込みを入れてしまったのはもう癖としか言いようがない。
リクオの話を聞く限りでは、私はどうやら過去へ遡ってしまったようだ。
「……覚えてない」
ここは、さらりと流して様子を見るのが一番良いだろう。
「今日は、大事を取って早退しなよ。鴆君呼んで診て貰えば良いし」
さらりと奴良家お泊りコースを用意しているリクオに、私は断固阻止とばかりにそれを拒絶した。
「病院で検査して貰うから良い。鴆も、脳震盪で呼びつけたら可哀想だろう」
「何言ってんの! 嫁の一大事に、駆けつけられない主治医なんて医者じゃないだろう」
無茶苦茶なリクオの言い分に私は顔を引きつらせる。リクオは、こんなに押しが強かっただろうか。
このまま強制お泊りになりそうな雰囲気に冷や汗を流していたら、救世主が鞄と着替えを持って現れた。
「リクオ君、まだ着替えてないの。もう、次の授業始まっちゃうよ」
「早退する清継君を送るから、次の授業は出ないから良いんだ」
「決定事項かよ!」
「決定事項も何も、脳震盪起こしてたくせに何言ってんの」
思わず突っ込んだ私に対し、リクオは呆れ顔で突っ込み返してきた。中1の時、もっと可愛げがあった気がするのに目の前のリクオは全然可愛くない。
「リクオ君、担任に雑用言いつけられてたじゃない。私が、清継君と帰るから雑用に専念したら良いよ」
「別に今日急ぎじゃないから良いんだ。大体、カナちゃんは違うクラスでしょう!」
二人して言い争うのは止めて欲しい。間に挟まれた私は、物凄く居たたまれない気持ちになる。
どうしようと思っていたら、見知らぬ関西弁の少女が保健室に入ってきた。
「清継君、帰るでー」
「……どちら様でしょうか?」
首を傾げる私に対し、関西弁少女こと花開院ゆらは絶叫した。
「清継君が頭打っておかしなったぁああっ」
この世界では、二度目らしい『記憶喪失』に認定された瞬間だった。
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