小説 | ナノ

本家抗争編その弐 [ 8/34 ]

※注意:清継成代り夢です。
 旧鼠の一件で奴良組の本家妖怪たちと面識が出来たのはまだいい。
 牛鬼の一件で、三羽烏による報告(という名のチクリ)のせいで私にまで護衛をつけると言い出し、ぬらりひょんもリクオもその案に賛成していた。
 夜、ボールペンの芯が切れてしまいコンビニに買出しに行ったのが運のつきだったのだと今更ながらに思う。
 見回りをしていた黒羽丸に見つかり説教を食らった後、帰りが遅いと呼びに来たトサカ丸に呆れた顔をされ、更に帰りが遅いと呼びに来たささ美から雷を落とされた。
「……なんで俺は、奴良ん家に居るんでしょうか?」
 問答無用で拉致られた私は、リクオの家に連れて来られた。周りは、妖怪だらけで顔が引きつっても仕方がない。
「お前は、危機感と言うものがなさすぎる!」
「そうだぞ。奴良組の敷地とは言え、若い妖怪共がシマを荒らしているのは知っているだろう。お前がそんなんでは、前々から言っていた護衛の件も早々に決めねばならん」
 カチャッと眼鏡を押し上げ淡々と話すささ美に、私は一体何でそうなるのかサッパリ理解できなかった。
「俺に護衛っておかしいだろう。奴良組と関係ないんだけど……」
 ポロッと零れた本音に、氷麗がキッと目を吊り上げる。
「何を言ってるんですか! 清継君は、私達の恩人です。それだけではありません。その身に流れる血が、敵勢に渡れば非常に危険です」
「君の血というだけで価値があるんだよ」
 敵に塩を送りたくないのが本音なのか。しかし、それだけではなさそうな彼らの態度に私は首を傾げる。
「ウォホンッ、えー…それでは清継殿の護衛を決めたいと思う。特別審査員に総大将とリクオ様を迎えておる。皆のもの、ここで人間に生変化して貰うぞ」
 パタパタと宙を飛びながら偉そうなことを宣う烏天狗に、私の心は打ちぬかれた。
「可愛いーっ 俺、護衛とか本気で勘弁して欲しいって思ったけど、コレなら全然問題ない! 寧ろ欲しい!!」
「ギャーーーーッ!?」
 私は、ガシッと烏天狗の体を掴み抱きしめる。三羽烏の親と分かっていても、このミニマムで愛嬌のある姿に悶える。
 悲鳴を上げる烏天狗を無視し頬擦りしていると、ガシッと頭を掴まれ抱きしめていた烏天狗と引き離された。
「……何やってるのかなぁ」
 真っ黒な笑みを浮かべるリクオと、
「いくらお前の願いでも、これはやれん」
 烏天狗の首をギリギリと絞めながら至って普通に接してくるぬらりひょんが恐ろしい。
「「カラスの処分は、追々決めるとして佐久穂は後でゆっくり話し合おうか」」
 ボソッと呟かれた言葉は、一言一句違わず脅しを掛けてくる彼らはやっぱり血の繋がりをヒシヒシと感じさせた。
 お前らと話することはないと言えば、何をされるか分からないのでほとぼりが冷めるのを待ち逃亡してやると心に決めた。
「ゲホゲホッ……気を取り直して生変化チェックじゃ。自薦他薦は問わないぞ」
 フラフラとなりながらも仕事を真っ当しようとする烏天狗に思わず手が伸びる。
「佐久穂」
 ドスの利いた声で名前を呼ばれピタッと手が宙に止まる。
「聞き分けないと怒るよ」
「お仕置きが必要か?」
 いい笑顔を浮かべて言う言葉じゃないと思う。ぬらりひょんとリクオの脅しに屈した私は、烏天狗に熱い視線を送るだけに留めた。
「じゃあ、まずは拙者から……」
 立候補したのは黒田坊。 いつの間に用意されたのか、セット+熱湯風呂に私は唖然とする。妖怪のくせにバライティー番組が好きなのか。
 黒田坊は、意気揚々とセットに入り変化をして見せた。
「どこから見てもイケてるイケメンビジネスマンですぞ」
 自画自賛する黒田坊に、引っ込めのブーイングが炸裂する。
「ビジネスマンって言うか、ホストの兄ちゃんじゃね」
「そうだね。そんなのを佐久穂の隣を歩かせるのは却下」
「他はおらんのか?」
 ×印のプラカードを上げると、黒田坊はガクッと膝をついて落ち込んだ。
「それなら、この首なし。マフラーを巻けばバッチリです」
「いやいや、この河童の方が護衛にはピッタリです。背格好も同じくらいですし」
 自信満々に言う二人を見て、又も厳しい突っ込みが入る。
「人間には水かきはねーし、夏場でマフラーされたら鬱陶しい」
 スパンッと容赦ないダメ出しに黒田坊に続き撃沈する二人。
「きききき清継君! マフラーはダメですか? ダメなのですか? 私は鬱陶しいですか?」
 鬱陶しい発言を聞いていた氷麗が、滂沱しながら詰め寄ってきた。
 忘れていた。彼女もマフラー族だ。冷気を逃がさないためにマフラーをしているんだっけ。
「お前のことじゃない。鬱陶しくもない。寧ろ、お前のマフラー姿は可愛い」
「清継君……大好きです」
 ヒシッと抱きついてくる氷麗は、どさくさに紛れて告白をしていたが取敢えず気づかない振りをしておこう。
 目を瞑り顔を近づけてくる彼女に問い掛けると、
「……何?」
「清継君、質問は不粋ですわ。ここは男らしくググッと接吻を」
と返された。何故キス? 氷麗の突拍子もない行動に固まる私を他所に、彼女は都合よく解釈したのか、
「照れてらっしゃるのですね。では、僭越ながら私めが……」
 私の頬を掴み唇を重ねようとした。氷麗のキスで死にたくない。内心絶叫を上げる私を助けたのは、毛女郎の髪だった。
「雪女、あんたは若の護衛でしょう。何でここにいるのよ」
「私が、どこに居ようと勝手でしょう! 折角良いところだったのに、邪魔しないでよ」
 毛女郎の髪を凍らせながら抵抗しようとする氷麗と、モリモリと髪を増量させて圧死させようとする毛女郎が恐ろしい。
 旧鼠の時で百鬼夜行側に連れて行かれたあの時が目の前で再現されているかのようだ。
「おい、奴良あいつら止めろよ」
「良いじゃない。面白くて」
「いやいやいや、そういうことじゃねーだろう。ぬらりひょん、あいつら何とかしろよ!」
「面倒くせぇ」
 全然頼りにならない馬鹿共に、私の血管はブチ切れそうだ。男だったら怒るくせに、女にはどうして寛容的なのか。
「そりゃのぉ、一度くらい女を知っておいた方が良いじゃろう」
「その上で、選ばせないと意味がないしね」
「人の心を読むなぁぁああ!」
 含みのある言葉に、私はブルブルと体を振るわせる。何こいつら、滅茶苦茶なんですけど。
 ヒーヒーッと絶叫する私を救ってくれたのは、他でもないささ美だった。
「いい加減にしな。清継が、怯えてるだろう」
 その一言にピタッと二人の動きが止まり、ホッと息を吐く。
「……助かった」
「護衛がまだ決まっていない。そうだ、お前が指名すれば良いことじゃないのか」
 突如与えられた指名権。全然嬉しくないんですがと、ささ美を見ると拒否権はないとばかりに睨まれた。
 キラキラと熱い視線が、私に集まる。
「誰でも良いのか?」
「人型を取れるならな」
 烏天狗を指名してやろうと思ったが、先手で釘を刺されてしまった。
「……………………………………………………………じゃあ、鴆で」
「「「えええええーっ!?」」」
 鴆を指名したら、驚愕の大合唱に私は耳を塞いだ。
「何で鴆様なんですか!!」
「ていうか、いつ知り合ったのっ!!」
「ほぉ……」
 私を囲む奴らの目が怖い。負けるな私! そう心を奮い立たせて彼らの質問に答えた。
「雪女、あいつが一番人に見える。奴良、行き倒れていた鴆を助けているから面識ある」
「軟弱鳥に負けるなんてぇぇええ」
「鴆君なんて護衛するどころか、血吐いて倒れまくるだけじゃないか」
 畳を叩きながらオイオイと嘆く氷麗と、自分の下僕を虚仮降ろすリクオに顔が引きつる。
 収拾のつかなくなってきた彼らを他所に、ぬらりひょんがボソッと不穏なことを宣った。
「鴆は無理じゃろう。暫くは、ワシがついてやるとするか」
 彼の宣言通り、自ら大将が買って出て護衛に当たるのだが、その毎にセクハラを仕掛けてくるようになり疲労困憊した私が、烏天狗に泣き付くまでそれは続くのだった。
end

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