小説 | ナノ

act55 [ 56/199 ]


 袖モギ様の一件から間を空けることなく、四国妖怪の次の一手は直ぐそこまで迫っていた。
「……本気でこれ着るのか?」
 手渡されたのは、毛女郎の私物である花魁衣装だ。
「大丈夫、私が着付けしてあげますから。髪も結いましょうね〜」
 物凄く良い笑顔を見せる毛女郎に、私の顔は引きつる。冗談じゃないとリクオを見ると、彼もまた良い笑顔を浮かべて言った。
「清継君なら何でも着こなせるよ」
「そういう問題じゃねー! つーか、普通の着物で良いだろう。何故に花魁? そこからしておかしすぎる!!」
 投げ捨てたいのを我慢しつつ文句を零すが、リクオはコテンと首を傾げている。
「嫌だった? 白無垢でも良かったんだけど、流石に体育館だし汚しそうじゃない? 十二単でも良かったんだけど、それだと動き辛いでしょう。魅力を一番引き出せると言えば、花魁かなって。皆も言ってたし」
「……」
 そうか。なるほど、本家妖怪とリクオの趣味か。最悪だな、オイ。半眼で恨みがましい目で彼を睨みつけても許されるはず。
「昼休みとはいえ、時間は限られてるんだから」
「腕が鳴りますねぇ」
 フッフッフッと嫌な笑みを浮かべジリジリとにじり寄る毛女郎に、私は顔を引きつらせ悲鳴を上げる。
「うわぁぁあああーっ!!」
「大人しくしてて下さいよ。雪女、これどうやって脱がすの?」
「私が脱がせます。毛女郎は、逃げないように捕縛を」
「オーケー」
 嫌な会話が私を挟んで交わされる。女の子のパワーッて凄い。転生前は、私もあんなんだったかな? と思い返してみたが、あそこまでパワフル且つ破廉恥じゃなかったと思う。
「勘弁してぇぇええー」
 久しぶりの絶叫と共に溢れ出た涙。女の子に泣かされるなんて屈辱だけど、そんなこと言ってられない。
 襲われる恐怖と羞恥心を味わえば、誰だって泣きたくなる。昼食もそこそこに、私は毛女郎と氷麗に好き放題触り放題された。
 それを間近で見るリクオの目が獲物を目の前にして待ち構えるハンターのようで怖かった。


 昼休みが終了し、リクオたちは先に体育館へと入っていた。私は、羞恥心を押し殺しながら舞台脇に立ち自分の順番を待つ。
 穴があくほどジ〜〜ッと見つめる生徒の視線は居心地が悪い。しかし、四国妖怪はもう次の手を打ってきているようだ。
 馴染みのある妖気とは別の妖気を感じやはりと思うものの、寸劇を提案して良かったとひとりごちる。
 筋書きとしては、スクリーンに前日に取った映像を流し注意を引きつけたところでリクオの演説をさせる。
 リクオの演説のタイミングで襲ってくる可能性は非常に高い。リクオ個人を狙うか、人間も一緒にと考えているのかは不明だ。
 四国妖怪との戦闘を上手く利用し寸隙に見せようと考えているなどとは、リクオも流石に予測していないだろう。
 壇上で前立候補者の応援演説が終わったようだ。私も気合を入れ、パチパチパチと照明を落としていく。
 進行役の生徒が、スクリーンに注目するようアナウンスを流した。


――やあ、諸君。このような場所から失礼するよ。


「き、来たぁああーーー! 清継君だ!!」
 島の絶妙な掛け合いに、スクリーンの中の私が答える。


――そうです。清十字清継です。


「映像なのに返事したぞ!?」
 生徒の驚きようを見る限り掴みは上々のようだ。氷麗たちが、体育館を囲むように配置に付いている。リクオの考えそうなことだ。


――演説は、時間内であれば何をしても良いって聞いている。折角なら、余興を楽しんで頂きたいと思いこういう演出をしてみたのさ。俺が、生徒会長になった暁には出来うる限り願いを叶えよう。さあ、言ってみな。


「はいはーい! 学校指定の鞄自由化、もしくはブランド品にして下さい」


――分かった。当選したら、その案を上に提出して通す。


 仕込み2号の巻の言葉に、またも返事を返すスクリーンの中の私。完全に生中継だと思われている。
 演説を淡々とこなすスクリーンの中の私は、最後にこう締めくくった。


――嗚呼、タイムリミットのようだ。心もとないが、君に応援演説頼んだ。


 挙動不審に出てくるリクオを見て、私は唖然とする。何で首なしがそこに立っているんだ!!
 絶叫しなかっただけ褒めて欲しい。周りは気付いていないって、影薄過ぎだろう。ぬらりひょんだから仕方が無いのか?
 ブツブツと考え事をしていると、歓声が上がった。それに比例しておぞましい妖気が体育館を覆っている。
「……厄介だな」
 人が集まる場所でドンパチされたら、被害が大きくなるのは目に見えている。
 ゆらがどれだけ動けるか気になるが、あまり当てには出来ないだろう。
「俺がするべきことは、あいつのフォローくらいでしょう」
 女装までしているのだ。傷でも作ろうものなら、後で説教してやる。私は、さてどうするかと無い頭をフル回転させながらアドリブだらけの即興寸劇の幕を上げた。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -