小説 | ナノ

act49 [ 50/199 ]


 起きたらそこは妖怪の巣窟でした、チーン! ――なんて遊んでいる場合じゃなかった。
 円らな瞳をうるうるさせて傍をウロチョロする家鳴りを見つけたとき、本気で逃亡したくなった。
「あー……久しぶり?」
「キュィー」
 私の顔にしがみ付きワンワン泣くのは止めてくれ。ベリッと顔から引き剥がした家鳴りに、誰か読んできて欲しいと頼むと頭がもげるんじゃないかと思うくらい激しく縦に振っている。
 襖をガラリと開けピューッと出て行った家鳴りを見送り、私は盛大な溜息を吐いた。恐らく、ここはリクオの家だろう。
「俺、苔姫のところで倒れたはずなんだがなぁ。何でここにいるんだ?」
「苔姫から連絡を受けた三羽烏が連れてきたんだよ」
 開いた襖から入ってきたのは首なしで、手にしていた盆には水さしとコップが乗っかっている。
「……(チッ、余計なことを)そうか」
「全然そうかっていう顔じゃないね」
「……うっせぇ」
「ま、良いけど。胸のそれのせいで倒れたのかい?」
 トントンッと胸を叩く首なしに、私は訳が分からず首を傾げると呆れた顔で言った。
「鬱血の痕。まあ、妖怪で十三と言えば成人だからそいう事をしても何らおかしくはないが君は人だ。早すぎるだろう」
 眉を寄せて人の性生活にイチャモンをつける首なしに、これはアンタのとこの若頭に襲われたときについたものだと怒鳴りつけることが出来たならどれだけ良かっただろうか。
「ま、僕にはどうでも良いことだけどね。薬飲んでゆっくり寝てな。くれぐれも外に出るんじゃないよ。今日は、リクオ様の若頭襲名の大切な日なんだから」
 どうりでピリピリとした空気が漂っているわけだ。牛鬼の一件をリクオに裁かせ、その場を納めさせれば正式に若頭就任か。ぬらりひょんの奴、相変わらずやることがえげつない。
「帰るって選択はねーのかよ」
「あるわけないだろう。親御さんには連絡済だよ」
 何とまあご丁寧なことである。この辺りの手配は、恐らくリクオが根回しをしたに違いない。
「……分かったよ」
「そう、なら良かった。家鳴りを付けるから、お腹空いたら呼んでくれ」
 首なしは、それだけ言うと盆を置いて部屋を出て行った。
 寝ろといわれたところで、目が覚めてしまったら眠気も来ないってものだ。
「どうしろってんだい、全く」
 妖怪に関わりまくってるじゃないか私。妖怪を寄せ付けない護符があれば欲しいのだが、果たしてそれが利くかは不明である。


 ぼんやりと過ごすこと1時間。寝ているのも退屈になってきた。
「家鳴り、トイレどこ?」
 別にトイレに行きたかったわけじゃないが、寝っぱなしよりはマシとトイレの場所を聞く。
 彼は、ピョンピョンと飛び跳ね私をトイレまで案内してくれた。
 トテトテと廊下を歩いていると、雪女もとい氷麗の絶叫が聞こえてきて何事かと走ると牛頭丸と馬頭丸が居た。
「ありえません!! ありえませーん!」
 本家預かりになったのを彼女は今知ったのか。不憫な。特に牛頭丸とは犬猿の仲なのに、リクオも一言あれば彼女とて心の準備が出来ただろう。
「どうした?」
「ハウワァ…き、清継君!? どどどどどーしてここに?」
 おお、凄い同様。どもりが面白いが、氷麗をからかうために居るわけじゃない。
「お前の主人から何にも聞いてないのか?」
「へ? リ……じゃなかった。若からですか?」
「そう、苔姫んところで倒れて三羽烏がここに収容したんだ」
「……」
 目が点になっている。相当衝撃が強すぎたのか、固まる氷麗を他所に突如現れた人間(私)に、牛頭丸と馬頭丸は敵意を剥き出しにして威嚇してくる。
「……何だ貴様は」
「あ? 見てわかんねぇか。人間様だよ。お前ら牛鬼の部下だろう」
 上から下までじっくり見た後、馬鹿にしたように笑ってやると彼らは意図も簡単に挑発に乗ってくれた。これで良いのか牛鬼組。
「何で人間が、ここにいんだよ!!」
 胸倉を掴み上げられ射殺さんばかりの殺気に、私はニヤッと笑みを浮かべる。
「アンタの上司に聞いてみな」
「は?」
「総大将か若頭か、どっちでも良いさ。納得のいく答えが得られるかは別だが、何せあいつらの命令で(三羽烏に拉致られ)俺は今ここにいる」
 唖然とする牛頭丸の腕を払い退け、彼らの隣を通ろうとするがガシッと肩を掴まれ止められる。
「人間如きが、牛鬼様を呼び捨てにするな」
「その人間如きに助けられた牛鬼はどうなんだ? 貴様らは、恩で仇を返すのが礼儀なのか」
 睨み合う事しばしば、隣でジッと私達のやり取りを見ていた馬頭丸がポンッと手を叩き言った。
「この子じゃない? 牛鬼様が言ってた変わった美少年! 女の子と間違えて平手打ち食らったアレだよ!! うわぁ、本当に女の子みたい♪」
「は? こいつが!? 女だろう、どう見ても……」
 牛鬼組は、NGワードを連発して地雷を踏むのが好きなようだ。
 滅多に拝めない良い笑顔と共に繰り出された蹴りは、しっかりと牛頭丸の股間に命中しその2秒後には馬頭丸の左頬に裏拳が炸裂した。
「俺は男だ。次、そんな口きいてみろ。それ使い物になんねぇようにしてやる」
 それが、どれを指しているかは明白で青ざめる二人に私はケッと吐き捨てる。
「清継君、格好良いです!」
「おう、それより雪女暇なら話し相手になってくれ」
「よろこんで
 暇潰し1号を確保した私は、徘徊するのを止め家鳴り・氷麗を引きつれ宛がわれた部屋へと戻ったのだった。
 総会が終わり、リクオやぬらりひょんや鴆など顔見知りの妖怪らが部屋に押しかけひと悶着あるのは、後数時間後の事である。

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