小説 | ナノ

act46 [ 47/199 ]


「……何やってんだ僕…」
 頭を抱えながら苦悩する姿は、周りの登校する学生達も引いてしまい道を開けるほどだ。
「何で夜の僕は、我慢が足りないというか人の嫌がることをするのが好きというか。あれじゃあ、本末転倒だろう」
 蘇るのは、腕の中で乱れた彼の媚態。口では言えないことを思う存分堪能した。それはもう、ガッツリと。
「いくら好きだからって強引過ぎるだろう」
 一人苦悩するリクオの頭をバシンッと衝撃が走った。
「朝っぱらから往来で何やんてんだ」
「っ、佐久穂」
「違ぇ! 往来でその名前を呼ぶんじゃねーよ」
 ギッと睨みつけるが、散々泣かされて赤く腫れた目では迫力に欠けた。
「ご、ごめん。あの、その……」
 モジモジしながら間誤付くリクオに、痺れを切らした私は早く言えとせっついた。
「早く言え」
「あーうー……体大丈夫?」
 呻き声を上げた後、恐る恐ると言った感じで体の調子を聞かれ私は眉間に皺が寄った。
「てめぇの目には、大丈夫に見えるってか?」
 地が這うような低い声に、リクオはブルブルと顔を横に振り速攻で謝ってきた。
 散々好き放題した挙句、寝たのが明け方だ。寝不足と過度の運動で疲れなんて取れるわけがない。
「清継君」
「あ?」
 名前を呼ばれ不機嫌そうに返したら、リクオに感想を言われた。
「あの…その…き…」
「き?」
「気持ち良かったです」
 一瞬何を言われたのか分からずポカンと彼を見る。そして、真っ赤になっているリクオを視界に納めた私は言われた意味を理解し伝染するように顔が火照った。
「こ、この馬鹿っ!!」
 バシンッと容赦なく彼の頭を叩いた。謝ってくるかと思ったが、感想を述べられるとは思わなかった。
「普通は、謝るだろう! つーか、寧ろ謝れこの野郎」
 胸倉を掴み詰め寄る私に、
「謝って無かったことにしたくないから嫌だ。夜の僕がしたことって、僕にとって願望だし。僕ともしようね」
と開き直った挙句に誘ってくる図太さが信じられない。私は、衝撃が大きすぎてパクパクと口を開閉し唖然とする。
「そんなに無防備だと襲っちゃうよ」
 リクオの不穏な言葉に私はブルブルと頭を横に振り、ザッと彼から距離を取る。チッと舌打ちが聞こえたのが怖かった。
「お早う二人とも」
「カナちゃんお早う」
 突如現れたカナの登場に、私は思わずホッとする。ススッと彼女の隣に移動すると、リクオの眉間に皺が一本増えた。
「お早う家長」
「あ、リクオ君。ハイ」
 ゴソゴソと鞄を漁り取り出したのは、リクオの眼鏡。
「メガネ? えっ、僕の?」
「捩目山で拾ったの」
 既に一ヶ月半が経過しているのに、渡すの遅くないか。そう思ったものの、言葉には出さず成り行きを見守ることにした。
「ありがとう」
 素直に受け取りメガネを掛けているリクオとは対照的にカナの様子がどこか変だ。
「リクオ君に聞きたいことがあるの」
「へ……」
「今までの行動を思い返してみて思ったんだけど……。リクオ君がいると、あの人もいるの……。昨日の鏡の時だってそう」
 カナの質問は、確信に迫るもので私はヒクッと顔を引きつらせる。チラッとリクオを見るとダラダラと冷や汗を流している。
 これは、ひょっとして気づかれたか?
「もしかしてリクオ君、あなたとあの人って……お友達なんでしょう!!」
 ガシッと両手を掴み真顔で友達発言をしたカナに、私は脱力した。
「えええーーー?」
 予想外のカナの言葉に、リクオが驚くのも無理ないだろう。
「ちょっ……カナちゃん?」
「ねえ!! お願いっ! 今度また彼に会わせて!」
 逃がさないとばかりにリクオの手をギューギュッと握るカナに、リクオは困惑気味に問い掛けた。
「よ、良くわかんないけど……何で会いたいの?」
 カナの顔が一瞬無表情になり、次いで凍てつくような微笑を浮かべていった。
「清継君に纏わりつく害虫を駆除するためよ。折角清継君と良い感じだったのに、邪魔されたんだから!」
 パカッと口を大きく開き呆然とするリクオに、私は盛大に顔を引きつらせる。強ち間違ってはいないのだが、目の前にいる幼馴染がそれだと気づかない。
「清継君、鼠の化け物に襲われた時から付き纏われてるんでしょう。大丈夫! 私が守るからね」
 胸を張って宣言するカナに、私は乾いた笑みが零れた。斜め上に突き進むその思考回路は、リクオと張れると思う。
「……家長、仮に恩人なんだぞ。そういう言い方はどうかと思うが」
「鼠の化け物の一件と相殺されてるから!」
 ドキッパリと言い切ったカナに、私は何も言うまいと教室に入るまで口を閉ざした。
 リクオの正体がバレなくて済んだのは良かったが、害虫駆除ときたもんだ。
 妖怪との遭遇率が高い彼女は、今後も夜のリクオと遭遇する確立は高いだろう。
 そうなった時、私は恐らく巻き込まれるのだろうと漠然とした予感に溜息を吐いたのだった。

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