小説 | ナノ

act39 [ 40/199 ]


 毎年恒例のクラス対抗球技大会は、異様な盛り上がりを見せていた。
「おい、とうとうあの三人が決勝でぶつかるぜ」
「二組対三組!」
「やべーっ、このカードぜってぇ見逃せねぇ!!」
 興奮気味の男子は、決勝を行っているグランドへと走り出した。
 既に試合は始まっており、沢山のギャラリーが集まっている。
「奴良を止めろーっ」
「奴をつぶせー!!」
 コートの中で飛び交う敵方のMFを笑いながらサクサクと彼らの間を駆けていく。
「キャーッ!!! リクオ様ー!」
 氷麗の声援を受けながらドガッと蹴られたアーリークロスは、美しい軌道を描きながらゴールへ吸い込まれていく。
 誰もが、ゴールに入ると思っていたが島にパスカットされてしまった。
「このボケーッ、何甘ちゃん玉蹴ってんだ! 俺の仕事が増えたじゃねーかっ」
 私は、リクオに対しギャオウッと吼えた後、面倒臭いと悪態を吐きつつも向かってくる島の妨害を勤しんだ。
「そう簡単に通すかよっ」
「いくら清継君でもこればかりは譲れないっす」
 タイマンでボールの取り合いをする私達に、声援が大きくなる。
「清継くーん! 頑張って!!」
「島引っ込めー!」
 殆どが女子からの声援だが、内容は雲泥の差がある。
 引っ込めコールを受けた島が、外野の女子に向かって意識を向けた瞬間、私はそれを見逃さなかった。
「外野うるせーよ!! 黙れ」
 ボールから意識を反らした島の隙をつきボールを奪うと前線にいるリクオにパスを回す。
「あっ!!!」
「今度こそシュート決めろ」
 自分の仕事は終わったと言わんばかりに、仁王立ちしてシュートが決まるのを待っていたら、リクオは私の期待に応え華麗なシュートを決めてみせた。
 ピピーッとホイッスルが鳴り、試合は二組の勝利で終わった。
 頭を抱えて落ち込む島に、私はリクオの背中を蹴りながら反省会をしていた。
「甘ちゃんボールばっか蹴りやがって。パスカットされたの何回目だ」
「痛いよ。たかが、三回じゃないか。清継君サボリすぎだよ!そもそも、清継君はトップ下だったんだぞ。そこに居ればもっとスムーズに試合に勝てた」
「ダルイ。面倒。疲れる。んなポジション、やってられるか」
 球技大会も腰痛を理由にサボる気満々でいたのだが、リクオの黒い笑みに勝てず決勝まで来てしまった。
 島とのガチバトルに発展したわけだが、やる気のない人間にやる気を出せと言うのは無茶な注文だ。
「清継君にサッカーで負けるなんてぇえ」
「ほぉ、随分と不服そうじゃねーか。そもそも、てめぇがボールから目を離したのが悪いんだろうが。負けて当然だ」
 ケッと吐き捨ててやると、奴はズーンッと暗雲を背負い落ち込んでいる。
「清継君、おめでとう御座います。素敵でした。格好良かったです」
 キラキラと目を輝かせて私を褒める氷麗に、悪い気はせずにこやかに返事を返しているとリクオから突っ込みが入った。
「面倒臭いを理由にセンターから全然動かないのに、格好良いもないよ」
「そんなことありません! 悉く島君のボールをカットして繋ぐ姿はまさに才能溢れる勇者!! 最高ですっ」
 褒めちぎる氷麗に私は恥ずかしいなぁと思っていたら、カナがジットリとした目で私を見ていた。
「どうした家長」
「デレデレしちゃって、清継君のスケベ」
 ボソッと呟かれた暴言に、私はピクッと米神に青筋が浮かんだ。誑しの次はスケベかよ。
「だーれが、デレデレしてるって?」
「してるじゃん。及川さんに褒められて顔がにやけてたわよ」
 ツーンッとそっぽ向くカナに、冗談じゃないと文句を言おうとしたら、巻に抱きつかれた。
「清継君、優勝おめでとう!」
 背中に当たる柔らかい感触に、わざとやってるなと半眼になりながら巻を睨みつけた。カナに文句を言いそびれたじゃないか。
「離れろ。乳が当たってる」
「いやん、清継君のえっち
「てめーが押し付けてんだろうがっ!」
「良いじゃん。スキでしょ、おっぱい」
「おっぱい言うな」
 下ネタ満載の巻の暴走に私は頭が痛くなる。
「清継君、ほんまぁモテモテやねぇ。その内、背中からブスッと刺されるんとちゃう」
 ニコニコと怖い未来を予想するゆらの顔は、恐ろしかった。顔は笑っているのに、目は全然笑ってない。
 どうして、私の周りは変な奴ばっかりなのか。球技大会には勝利したが、精神的に敗北した一日だった。

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