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act12 [ 13/199 ]


 原則クラブ活動をしなければならない学校の校則に則り、清十字怪奇探偵団を立ち上げた。ネーミングセンスの悪さを突っ込んではいけない。
 私が考えたわけじゃない。今は亡きこの身体の魂が考えたものであって、断じて私じゃないのだ。
「クラブ活動にする必要ってあるの?」
 リクオの素朴な疑問に私は、胸を張って答える。
「俺は帰宅部派だ。しかし、部活動必須の学校だぞ。どこにも所属してないなんて許されないからな。じゃあ、やりたい時に活動できる(私にとって)都合のいい部活を作った方が賢いだろう」
「……それ、威張ることじゃないよ。立ち上げたんだから、団長自らサボるなんて許さないからね!」
 おサボリ厳禁を言い渡された私は、今まさに思いっきり嫌な顔をしているだろう。
 適当がモットー。サボれる時にサボる。それが私の信条だ。そう掲げても、目の前の真面目少年には通用しない。
「そんな不貞腐れた顔してもダメ。探すんでしょう、呪いの人形。サクサク歩かないと手伝わないよ」
「うわっ……奴良のくせに。お前、可愛げがないぞ」
 振り回されているリクオは可愛いのに、最近耐性がついてきたのか強かになっている。
「男が可愛いなんて言われても嬉しくないよ」
「同感だ」
 可愛いというより美人と言われることは多いが、美人で得したことなど一度もない。不愉快極まりないことは多々あるのに、世の中って本当に理不尽だ。
「お、見えた。俺んちだよ」
 リクオの家とは正反対で立派な洋館の建物に、皆唖然と口を大きく開いている。まあ、無理もない。
 ある程度彼らの知識の中で私は金持ちだと分かっていただろうが、実際に家に呼んだのは恐らくこれが初めてだろう。
「で、でかいっすね」
「一般的に比べりゃデカイわな。部屋数が多いと掃除すんのが大変なんだ」
 放っておけば、埃が直ぐに溜まるので専属のハウスメイドが二人常駐している。昔は、数名居たが有能な人間が二人いれば賄える。
 仕事量は増えるが、その分見合った給料を払っているのだから妥当だろう。
「清継君も自分で掃除するの?」
「は? 何当たり前なこと言ってんだ。自分の事は自分でする、当然だろう。他人任せにしてると、いざと云うときに何も出来ない人間になる。そうなるのは嫌だからな」
 氷麗の言葉に、私はキッパリ答えると少し顔色が悪くなった。恐らくリクオを甘やかして何でも彼女が身の回りを世話していたんだろう。
 ありえるな。リクオは甘ちゃんなお坊ちゃんだし。
 門を潜り玄関ではなく庭を突き進む私に、カナが不思議そうに聞いてくる。
「玄関あっちだよ?」
「蔵は、こっちにあんだよ。家長、呪いの人形見てトイレ行けなくなっても知らねーかんな」
「ば、馬鹿言わないで! 行けるわよっ」
 顔を真っ赤にして焦るカナをからかいつつ、私は離れた場所にある蔵の前に立った。家にそぐわぬ土蔵は、威圧感がある。
 いつから建っているのか知らないが、ここには色々なものが収められている。
「立派な土蔵やね。この洋館とミスマッチやけど」
 痛い突っ込みをゆらから受け、私は苦笑を浮かべる。本当のことだから仕方が無いのだが、そこはスルーして欲しかった。
「何とでも言え。江戸時代の大火や、空襲による大火でも内部に火が回らない程、こいつの耐火性は定評があるんだ。今、鍵を開けるから待ってろ」
 阿波錠の鍵穴に33センチと大ぶりの鍵をはめ込み引っ張ると、ガチャンッと開錠する音が響いた。
「あまり見かけない鍵だね」
「阿波錠って云って、徳島県で昔使われてたもんだ。じいさんが、この形状を甚く気に入ったらしく貰って来たんだと」
 現在は、土蔵の守役となっている。管理も私が行っているため、実質上の持ち主は私だったりする。
 蔵の扉を開けても、真っ暗な闇が広がり不気味さをかもし出している。私は、パチッと入口付近にあった照明のスイッチを押すと暗かった部屋は一瞬で明るくなる。
「はぁ……すげぇ…」
 所狭しと置かれた荷物の数に、島は口をポカーンッと開けている。宝の山と言えば聞こえは良いが、殆どが曰くつきのものだったりするのだから恐ろしい。
 四方に張らた札が、ここに眠るもの達が暴れないよう押えている。妖怪である氷麗も、息苦しさを感じているのか顔色は悪い。
「及川、気分が悪いなら母屋で休んで来るか?」
「いえ、大丈夫です。それより、呪いの人形ってどこにあるんですか?」
「この中にあるとは思うんだが……どこに仕舞ったかさっぱりで分からん。悪いが、手分けして探してくれ。40センチくらいの市松人形だ。一緒に日記があると思う」
 そう言うと、各々市松人形を探し始めた。


 呪いの人形捜索から早30分。リクオが、日記と市松人形を手に声を掛けてきた。
「ねえ、これじゃない?」
「あ、それだ」
 リクオから人形と受取ると、皆を蔵の外へ誘導する。30分居ただけで、氷麗の顔色は真っ青だ。
 流石、花開院当主に高い金を払って取り寄せただけある札だ。効果はバッチリのようだ。
「なあ、ほんまに呪いの人形なん?」
「相変わらず感知能力低いな、お前。そんなんで大丈夫か?」
「うるさいで! 黙っとき」
 霊感ゼロの島でさえも、人形から発せられる妖気に慄いている。凡人以下の感知能力で花開院当主になるには、まだまだ先のようだ。
「日記を読むと怪奇現象が起こるんでしょう? 読んでみましょうよ」
「ちょっと……」
「2月22日…引越しまであと7日。昨日、これを機に祖母から貰った日本人形を捨てることにした。機会を伺ってはいたが、怖くてなかなか捨てられなかっただけで、雨が降っていたが思い切って捨てた……」
 島は目を輝かせてリクオから日記を奪うと、私の制止も聞かず日記を読み始めた。腕の中に居た人形からブワッと妖気が膨れ上がる。
 リクオの顔が、ムンクになっている。これは面白いのだが、聊か自分の身に危険が迫っているので笑えない。
 バンッとリクオが突進してきたかと思うと、二人揃って地面に倒れた。リクオに押し倒される形で。
「清継君、大丈夫っすか? 何やってんだよ、奴良!!」
「ご、ごめん。足が滑っちゃって」
 おいおい、滑るものなんてどこにもないだろう。無理な誤魔化しに私は呆れた目でリクオを見る。
 ちゃっかり服の裾で市松人形の顔を拭くのも忘れていない。何て器用な男だ。
「奴良…退け。いつまで人の上に跨がってんだ。重い」
「うわっ、ご…ごめん」
 顔を赤らめて私の上から退くリクオに、私は身体を起す。リクオのせいで背中や髪が砂塗れだ。手にしていた市松人形は、リクオがちゃっかり持っている。
「人形は、何ともないみたいっすね。じゃあ、続きを……」
 空気が読めない男・島は、また日記を読み始めた。徐々に伸びる髪に異変を感じたのは、どうやら私とリクオだけでなく氷麗も気付いたようだ。
「ど、どうしましょう。凍らします!!」
「だ、だめだよ。みんなの前で」
 ボソボソと内緒話をする二人には悪いが、私にはしっかり聞こえてる。地獄耳ではなく、単に彼らの傍に居るからだ。カナの視線がやけに痛い。お二人さん、もう少し周りを見て行動してくれ。
「2月28日、引越し前日…おかしい。仕舞っていた箱が置いてある…」
「日記読むのやめてぇえええ!!」
 そう心の中でぼやきながら、そろそろかと見守っているとリクオの制止と同時に人形が私目掛けて襲い掛かってきた。それもどこから出てきたのか不明な日本刀を手にして。
「縛」
 ゆらの放った札が、人形に張り付き動きを制限している。おお、間一髪だ。
「やはりおった。陰陽師花開院の名において物の怪よ。貴方をこの世から滅します」
「滅したらあかんだろう。救ってやれよ。半熟陰陽師」
「誰が、半熟陰陽師や! あんたは、黙っとり!! 一歩間違えたら死んでたかもしれへんねんで」
 ビシッと決めた決め台詞に思わず突っ込みを入れたら怒られた。TKG(卵かけご飯)しか食ってないから、カルシウムが足りないのだ。
 陰陽師と名乗っゆらを怯える氷麗が、リクオを連れて逃亡しようとしているなど私は気付かなかった。

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