小説 | ナノ
君がすべてact5 [ 146/218 ]
引きずられるようにデパートから連れ出された私は、前を歩くぬらりひょんの顔を盗み見る。
眉間に深い皺を刻み仏頂面をしているだけマシな方だろう。結局、デートらしいデートも出来ず彼を怒らせてしまっただけだった。
折角購入した贈り物も置き去りにして、デパートに来た意味すらない。
まだ日は高く、夕方にすらなっていない。このまま帰れば、ぬらりひょんの為に開く宴会の準備をしていることがばれてしまう。
「ぬらりひょん様」
「……」
「家には、まだ帰りたくないです」
「いい加減に……」
ぬらりひょんが怒鳴りつけようとした言葉は続くことはなく、変わりに出たのは大きな溜息だった。
「泣くんじゃねぇよ。佐久穂は、何で帰りたくないんじゃ」
目尻に溜まる涙を拭った後、彼は譲歩を見せる。私は、視線を宙に彷徨わせ頬を赤く染めながら口を開く。
「……滅多に二人だけで出かけることなんてありませんでしょう。だから、二人の時間を楽しみたいです」
常に誰かが傍に居るのが当たり前で、ぬらりひょんの性質からかフラフラいているので、夫婦としての時間は余りにも少ない。
それに加え、私は外に出ることが極端に少ない。年を重ねる毎にぬらりひょんや鯉伴は、私が外に出るのを極端に嫌がるのだ。
「もう少しだけ…二人きりで居られるならどこでも良いんです。ダメですか?」
ぬらりひょんの空気が一変し、私は余計なことを言ったことに気付き顔を引きつらせる。
「どこでも良いんじゃな」
ぬらりひょんは、ニィッと妖しい笑みを浮かべている。後悔先に立たずとはこのことで、私は出かけた直前のことを思い出し青ざめる。
「よし、行くか」
私を担いだかと思うと、ヒョイヒョイッと屋根を足場に進む先は浮世絵町一の歓楽街。
ラブホテルと呼ばれる建物の中に入ると、フロントから鍵をくすねて私を担いだまま部屋へと連れ込んだ。
「あ、あの……ここは?」
「らぶほてるって言ってな、逢引茶屋みたいなもんじゃ」
二人で寝るには大きすぎるベッドが部屋の中央に鎮座している。室内は、薄暗く至ってシンプルな作りになっている。
「お前さんにゃ、お仕置きをせんといけんしなぁ。ワシと離れて何をしておった?」
トンッと背中を押され、ボスッとベッドの上に倒れこむ。ぬらりひょんは、身動きが出来ないようにと圧し掛かってくる。
そんなことをしなくても逃げないのに。何度言葉にしても彼は信じてくれないのだ。
「夏実さんとぬらりひょん様を探しておりました」
「ほぉ、買い物しておったように見えたがなぁ」
買い物しているところまで見ていたなら声を掛ければ良いのに、そうしないのは彼の意地なのか。
私は、ぬらりひょんの頬に手を滑らせる。
「あなた様に購入したものですわ。でも、受け取る前にでぱぁとを出てしまったのでお渡しすることが出来ません。済みません」
「ワシにか」
まさか自分宛ての贈り物だとは思わなかったのか、彼は目を丸くしている。今日が自分の誕生日だと気付いていないのだろう。
「ぬらりひょん様、愛してます」
呟いた愛の言葉に、ぬらりひょんは年甲斐もなく真っ赤になり私の首筋に顔を埋めた。
*prev/home/#next