小説 | ナノ

奥様は14歳.2 [ 54/145 ]


 私の一日は、家事一色で年頃の子供のように遊んだりはしない。そのせいか、酷く大人びているらしい。
 洗濯物を取り込んでいると、ふらりとぬらりひょんが入ってきて抱きしめられた。
「どうされました? お腹でも空きましたか?」
 私から洗濯物を奪ったかと思うと、彼は両脇に手を差し入れ抱き上げる。膝の上に乗せられ、訳が分からず首を傾げていると胸に頭を乗せてきた。
「んー……気持ちいい」
 グリグリと顔を胸に押し付けてくるぬらりひょんに、私はどうしたら良いのか分からず彼の頭を撫でる。
 見た目に反してサラサラとしている髪に指を通し毛並みを楽しんでいたら、パッと顔を上げられた。
 美麗な顔が近くにあり、私は思わず赤面してしまう。
「えっと……どうしましたか?」
「ワシは、京へ魑魅魍魎の主に成りに行く。京は、生き胆信仰が流行っとるらしい。危険な場所じゃ。それでもワシは、佐久穂を連れて行きたい。ワシが守る。だから、お前も来い」
 目をパチパチさせ彼をジッと見つめると、ぬらりひょんは居心地悪そうに目を逸らした。
 珍しい。いつも自信に満ち溢れていて、傍若無人を地で行くのに。なんて思ったのは秘密である。
「はい、お供します」
 私は、躊躇うことなく是と返した。ぬらりひょんが、傍に居て欲しいと望むなら私はついていくべきだと思ったからだ。
 私の答えにホッと安堵した彼は、また甘えるように胸に顔を埋めていた。
 四刻半ほどその状態でいい加減そろそろ離して欲しいなぁ……と思っていたところに、雪麗が来てくれてぬらりひょんを引き剥がしてくれたのは言うまでもなかった。


 ぬらりひょんの京入り宣言から一月あまりが過ぎ、無事京に到着した。奴良組名物戦略空中妖塞【宝船】と【小判舟】が大いに活躍したのは言うまでもない。
 空から眺める京の町は、江戸と異なり碁盤のように道が整然とされていて面白くてはしゃいだのは記憶に新しい。
 私達の拠点はどこかと言うと、名立たる太夫が連なる遊郭島原の一際高そうな店だった。
「……綺麗なお姉さんがいっぱい」
 町を歩けば、綺麗なお姉さん方が手招きをしている。ぬらりひょんは、私の腰を抱きながらゆっくりと歩き一つの店で足を止めた。
「ここにするか」
 私は、訳も分からず目をパチクリさせているとぬらりひょんは堂々と店の中へと入っていく。
 店頭は、私達を止めることなく恰も居て当然といった感じで迎え入れている。
 唖然とする私を他所に、一際大きな部屋を用意させ寛ぐぬらりひょんに一体何をしたのだと問い掛けると、彼は自身満々に言った。
「ワシの畏れを使っただけじゃ。ワシらは、客みたいなもんじゃからな。美味い飯がたんと食えるぞ」
 ニコニコと笑うぬらりひょんに、私は顔を引きつらせる。それって無銭宿泊って言うんじゃなかろうか。
 悶々と考え込む私に、ポンッと肩を叩くものが現れた。
「いつものことだ。気にしたら負けるぞ。奴良組にこれだけの人数を長期滞在させる金はない」
 奴良組の財布を握る鴉天狗の言葉は、非常に現実味があり私はなるほどと乾いた笑みを浮かべた。
 本家に居た時でさえ、日々の食事や酒代に結構な金を費やしているのは知っていた。
 確かに、これだけの人数が居たら居続けなんて出来ないだろう。
 でも、何故遊郭を選んだのだろう。私は、ぬらりひょんの行動に頭を悩ませたのだった。

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