小説 | ナノ

行く年来る年 壱 [ 123/218 ]


 12月となるとイベント毎には事欠かない。クリスマスの後、続けざまにお正月。学年末テストが入り、その後バレンタインデーにホワイトデー。嗚呼、考えただけでも面倒臭い。
 なんて言おうものなら、意外とロマンチストな彼氏に怒られる。否、愛が薄いと嘆かれてさぞウザイことになるだろう。一つ上の実兄とどこか似ているリクオを思い浮かべ、佐久穂はハァと思い溜息を吐いた。
 年末に向けて家業も書入れ時でここ数日リクオとはまともに会ってない。うわ、誕生日の二の舞を踏みそうで嫌だな。
 そんな事をツラツラと考えなら福引会場で順番待ちをしている。1000円で福引1回できる券が手に10枚ある。クリアランスセールを狙って下着の新調をしたら付いてきたのだ。
 上下セットで780円。安いけど結構可愛いくて気に入っている。最近知ったことだが、昼のリクオは淡い系の清純派下着が好きで、夜のリクオはフェロモン全開のエロ系下着が好きだ。
 同じリクオなのに、昼と夜で趣味が違うってどうなんだ?
「次の人、どうぞ」
 リクオの危ない下着趣味に思わず深く考えそうになり慌てて首を横に振る。目指すは、五等のトイレットペーパーか、六等の洗剤セットだ。
 正直、一等や二等などにあまり興味が無い。寧ろ家庭に役立つものが欲しい。腕を捲り福引器のハンドルを握り勢いよく回す。
「二等賞地デジ対応36型TV大当たり〜」
 カランカランとベルを鳴らされる。別にTVなんて要らないのに…。後で、別のに変えて貰えば良いかと言い聞かせ又回すと、今度は三等賞の1040万画素のデジカメを引き当てる。
 その後も四等のテーマパークのペアチケットを引き当て、福引のお兄さんの顔が引きつっている。私も引きつりたいよ!!最後の一回は、トイレットペーパーか洗剤かと念じながら引いたら予想を大きく裏切ってくれた。
「い、一等賞ペア温泉旅行券大当り〜」
「NoooOOOOO!!! 何でそんなが当るのよーっ! 米とか、サラダ油セットとかお酒とか無いのかーっ」
 ガックリと肩を落としクジ運の無さに嘆いた。連続で欲しくないものが当り続けるってどんだけ不幸だ。
「変えられないんですか?」
「原則変更は行っておりませんので……」
「チッ……分かりました。じゃあ、TVはこの住所に配送して下さい。他は、持って帰ります」
 テーマパークのペアチケットとデジカメ、それから温泉旅行は持って帰ることにした。全く、融通が利かないんだから。交換してくれても罰は当らないと思うんだけどなぁ…。
「私、くじ運悪いのかなぁ……」
 ハァと溜息を吐きながら、この景品どうしようと頭を悩ませた。


 家に帰ると、先に戻っていた昌浩と玄関先で鉢合わせる。
「お、大漁だな。今回は、何が当ったんだ?」
 狐より大きく犬より小さな真っ白い体躯をした物の怪が、ヒュンヒュンと長い尻尾を振りながら聞いてくる。
「TVとデジカメとテーマパークのペアチケットと温泉旅行のペアチケット。私は、洗剤セットとトイレットペーパーが欲しかったんだ!」
「ほ、ほぉ〜……そ、そうか」
 乾いた笑みを浮かべる物の怪に、佐久穂はハァと溜息を吐く。
「TVは邪魔になるからリクオのところに送ってもらったけどね」
 押付ける気満々の佐久穂に対し、物の怪は勿体無いと思いつつも、押付けられた側が果たして喜ぶだろうかと疑問に思った。
「先方には言ってあるのか?」
「ん? ああ、言ってないから後で言っとく」
 相手の了承もなしの行動に、やっぱりと呆れた視線を佐久穂に送る。今更咎めたところで、佐久穂が改心するなどこれっぽっちも思っていないが、彼女に振り回されている三つ下の彼氏はさぞ大変な思いをしているだろうと同情の念を抱いた物の怪だった。
「欲しくもないもんを当てても全然嬉しくない」
 ブスッとデジカメの入った袋を睨みつけながらブーブーと文句を言う佐久穂に、物の怪は贅沢なと突っ込みを入れた。
「お前の場合、安部家で一番運が高いんだ。くじを引けば外れなし。賭けをすれば負け無し。そういう奴を神の愛娘って言うんだぞ」
「はいはい、そうですね。お陰様で、求婚されちゃってますからねー」
 人・妖怪・神問わず、佐久穂を嫁にと申し込む輩は後を絶たない。
「テーマパークのチケットは、ひろ兄に上げるとしてデジカメは最近小姫が生まれた成兄にやるか」
「成親にやると、ウザイことになるぞ。国成が生まれた時は、それはそれはウザかった。毎日のように吉昌のところに動画付きのメールが届き延々と惚気を語り、会うたびに写真集を持参し延々と国成の可愛さを語ったもんだ。あんまりにもウザくて、一時期晴明が出入り禁止を言い渡したもんだ」
 仁王立ちしながら腕を組みうんうんと昔を懐かしむように語る物の怪に、佐久穂はありありとその後継が浮かびゲッソリとした顔を浮かべた。
「……じゃあ、ちか兄にする」
「昌親が、一番無難だろうな。因みに、晴明に渡したらお前が標的になるな。絶対に」
 サラッと嫌なことを宣う物の怪に、佐久穂は無言で彼の長い尻尾を踏みつけ中へと入ったのだった。

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