小説 | ナノ

act29 [ 191/218 ]


 妖怪の価値観は、人知を超えていると痛感することが多い。
 目の前の彼らは、ある種例外中の例外的な存在なのかもしれないのだろうが、彼らの下僕はしっかり毒されており、あまりにも違和感無くやって退けるために『普通』だと認識しているようだ。
 白銀の長い髪を後ろに垂らし、機嫌をあらわすかのように筆のような形をした尻尾がバシバシと床を叩いている。
「随分とご機嫌斜めじゃのぉ」
「そりゃ、親父が膝に乗せてっからだろうが。藍は、俺の方が良いもんな」
 細腰に回された腕から奪い取ろうと手を伸ばす鯉伴に、リクオがハッと鼻で笑っている。
「どちらも違うよ。藍は、僕のところが良いんだよね〜」
 リクオのドス黒い笑みに私はビクリと身体を震わせる。最近知ったのだが、この三人の中で一番性質が悪いのは絶対にリクオだと思う。
「……果てしなくうぜぇ」
 ボソッと漏れた心の呟きを聞取った彼らは、口々に言い合う。
「父さんもじいちゃんも、藍にウザがられてるよ」
 さっさとその手を放せと言わんばかりの孫に対し、
「いやいや、お前らのその暑苦しい重たい愛が鬱陶しいと言っとるんじゃ。散れ」
と自分に都合の良い様に解釈するぬらりひょん。
「藍の眉間の皺が一本追加されてるところを見るとどちらも違うみたいだぜ。いい年こいたじいさんとガキはお呼びでないってこった」
 ハハハハッと爽やかに笑い飛ばす鯉伴が、一番酷いことを宣っているのだが当人は気付いた様子はない。
「乙女の柔肌もとい乳を揉むな。太腿を撫でるな。尻尾を掴むな。つーか、お前ら全員マジうぜぇ。死ね」
 大体、奴良家の野郎共は無駄に性欲旺盛で助平だ。半獣になれるのを知ったのを機に、ガッツリ手を出してくる。
 人前だろうとお構い無しに。
「あ、若菜」
 鯉伴が、私の太腿を撫でているのを放置しつつ廊下を歩いている若菜を見つけてパッと顔を明るくした。
 反対に若菜の形相が般若と化しているのは当然の流れてというもの。
「……何しているんですか、あ・な・た」
 彼女の背中に羅刹が見える。公然で他の女を押し倒そうとしているのを目の当たりにしているのだからそりゃ怒るだろう。
 私の予測の範疇をはるかに越えた突っ込みが若菜から入った。
「私の藍ちゃんに手を出さないで頂けますか。藍ちゃんの気持ちを無視して……まとめて死ねば良いのに」
「おい、待て! 私は、お前のじゃねーぞコラッ!! 私は、身も心も青田坊のもんだ」
 所有権を主張する若菜に対し、ふざけるなと声を荒げるが聞いちゃいない。
「母さん!! それは、ずるよっ。大体、僕が藍を拾ったんだから拾得者は僕だ」
「おいおい、藍の面倒を一番餌を与えて面倒を見ているのはワシじゃ。だから所有権はワシにある」
 ギャイギャイと言い争いだした彼らは、ヒートアップしたのか三者とも仁王立ちになり掴みかからんばかりの勢いだ。
 拘束から逃れられた私は、そのままこっそり逃げ出そうとしたがガシッと腕を掴まれたかと思うと大きな手が口元を覆った。
「騒ぐなよ」
「んんーっ(ウゲェッ、鯉伴!!)」
 見た目年齢十六歳前後の身体だと彼にかかれば、荷物と化した。小脇に抱えられ明鏡止水をつかい華麗に逃亡。
 最近、このパターンが多く鯉伴の一人勝ちが続いていることにいい加減学習すればいいものを言い争っている当人達は気付きもしない。
「うるさいのが気付かねぇ内にどっか飯でも食いに行こうぜ」
 そりゃ無銭飲食でかと盛大に心の中で突っ込みを入れたのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -