小説 | ナノ
act12 [ 174/218 ]
私のプチ冒険はこうして幕を閉じたのだったが、リクオ達と帰ってきたら奴良家は大騒ぎになって色んな妖怪からしこたま怒られた。理不尽だ。
ブスッと膨れっ面で縁側に座っていると、いつの間に隣にいたのか鯉伴が座っていた。
「何でぇ、怒られて凹んでるのかい」
からかうような鯉伴の口調にムッとするも、無視すれば彼は懲りずに絡んでくる。
「偶にゃ外に出なけりゃ息も詰まるってもんだ」
鯉伴から意外な言葉を聞き、私は目をパチクリとさせる。そんな私が面白いのか、ククッと喉の奥で笑いを噛み殺している。
「縛られるのを嫌うのは、何もお前さんだけじゃねーんだぜ。俺は、ぬらりひょんだからな。自由な妖さ」
『にゃーん(若菜が不憫だ)』
「テメェ、何か悪口言っただろう?」
『ニィーニィー(お!? 意外と感が鋭いか?)』
ニヤニヤと笑えば、鯉伴に頭をグシャグシャと掻き撫でられる。ええい、鬱陶しいな。
ブルブルと頭を振れば、彼は私の胴を掴んだかと思うとヒョイッと膝の上に乗せた。
『ニャー(何だ)』
「動くなよ」
袂に手を突っ込みゴソゴソと何かを探している鯉伴に興味を持った私は、大人しく彼の膝の上にお座りの体勢でジッと見ていた。
彼が取り出したのは、鈴が付いた緋色の細い紐だった。私の首にそれを巻こうとしたもんだから、全力で拒否したさ。
噛む・蹴る・引っ掻くの三連撃に首に巻くことを諦めた鯉伴は仕方なしと尻尾に紐を巻きつけた。
バシバシッと床を尻尾で叩くも、一向に解ける気配は無い。
『フーフーッ!! (外せ外せぇえ)』
「おー、気に入ったか。似合ってるぜ」
『グルルルッ(誰も気にいっとらんわ!)』
このまま鯉伴の息の根を止めてやろうかと本気で考えていたら、通りすがりの毛女郎に見つかり窒息しかけた。
「いやぁ〜ん 藍が可愛くなってる!! 二代目、どうしたんですかコレ?」
ムギュッと豊満な乳に圧迫され呼吸困難を起こしている私に彼女は気付くことなく鯉伴に尻尾に巻きついた鈴を指差して言った。
「藍に似合うと思って貰ってきたんだ」
『ニャーッ(盗って来たのかい!!)』
意識が朦朧としながらも私の突っ込み根性は健在だった。
「でも、何で首にしなかったんです?」
「藍が全力で拒否してきたからな。ま、野良と間違われることはないだろう」
「そうですね」
相槌を打つ毛女郎の目は、納得していない気配がありありと伝わってくる。
「私が、似合うやつを選んできてあげるからね」
ボソッと呟かれた毛女郎の言葉に身の危険を感じた私は、彼女の腕に噛み付き隙を狙って逃亡した。
鯉伴が余計なことをしてくれたお陰で、本家だけでなく貸し元まで巻き込んだ大騒動に発展するなどこの時はまだ知らなかった。
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