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70.中間報告と云う名の吊るし上げ会 [ 71/72 ]


 中間報告という名目で立ち寄ったバチカルで、シュザンヌ直々にお茶会と称した吊るし上げ会に強制参加させられた。
 蛇に睨まれた蛙再びな状況に、涙がちょちょぎれそうだ。
「新婚ほやほやなのに離れ離れにならなければならないなんて……」
 その後に続く言葉がすごく気になるのだが、ここで下手に突っ込みを入れたら恐ろしいことになりそうなので無言を貫いた。
「そう言えば、髭と眼鏡を追っていた彼らは?」
 世紀の大罪人一味の討伐を二ヶ国+αで行っているのだが、その総指揮をファブレ公爵が執っている。
 パッセージリング操作と解読の指揮をマルクト代表として私が執っている為、形的には平等に見えるが実際はそうでなかったりと複雑だ。
「貴女の予想が当たりましたわね。グランツ元主席総長殿は、アッシュを使いアクゼリュスを崩落させました。彼らに見つからないようアクゼリュスの外で監視させてましたの」
「崩落で死ぬようなタマではありませんよ、奴らは」
と返せば、シュザンヌは鬱蒼と深い笑みを浮かべて言った。
「そんなこと百も承知ですわ。ですから、ユリアシティは既に占拠しましたのよ」
 ユリアロードを封鎖するくらいなら想像していたが、ユリアシティの占拠は想定外だ。
「一括検挙に踏み切るおつもりですね」
「その方が、労力も少なく済みますでしょう」
 食えない女だと思っていたが、魑魅魍魎が跋扈している王宮で生き延びただけはある。
「ユリアの譜歌を歌われたら厄介です。性格は糞ですが、譜歌と剣術だけは一流です。ヴァンがそう簡単に捕まるとは思えません」
 私も随分と譜歌と譜術の腕を上げたが、ヴァンには到底追いついていない現状だ。
 ユリアの譜歌は、ヴァンですら膝をつかせるほど強力なものである。体制のない彼らに、無事でいられる保証はないだろう。
「ティア、人は学習するものでしてよ。今回の任務に当たった者は、クロナーシンボルの装着を義務付けてますわ」
 鬼だ。クローナシンボルと云えば、すべての状態異常・状態変化を完全防止するアイテムだ。
「掛かった費用は、全部ダアト持ちですの」
 鬼がここにいた!? 販売価格は一つ五万ガルドと決して安い値段ではない。それを人数分となれば相当な出費である。
「……今のダアトに支払い能力があると思えませんが」
 私がダアトの財源に大きな風穴をぶち空けたのは知っているだろうに。第一、金が支払えないから人材・知的財産をぶん捕っている。
 絞り滓すら残っていないであろうダアトに、何が残っていると言うのだ。
 私の考えていることなどお見通しなのか、シュザンヌはクツクツと笑い声を零した。
「フフフッ……ダアトの財源は、貴女が絞り取って下さったおかげで今やすっからかんでしょうね。ですが、まだ残っているものがありましてよ」
 金も人も知的財産も搾り取られたとなれば、残るは土地しかない。まさかと嫌な想像が頭をよぎったが、目の前の女帝なら何の躊躇いもなくやってのける。シュザンヌは、そういう女だ。
「領土ですか」
「正解よ。貴女には、簡単すぎたかしら。ダアトは、元々マルクトとキムラスカが自治区として認めた土地です。高々自治区の高官が、世界を混乱に落としたとなればやはり国の介入が必要と判断されてもおかしくありませんでしょう。フフ、ユリアシティとダアトの領土は、マルクトとキムラスカに返還されるのですよ」
 その割合は、6:4でキムラスカが多めに取るのだろう。マルクトのトップが、あれでは押し切られてしまいだろう。
「教団は残して置いて下さいね。預言がなくなった時に教団がないと、その感情が私に向かってくるので」
「向かってきても貴女ならそれすら利用してしまえるでしょう」
 何とも無茶ブリなことを宣ってくれる。本気でそう言っているせいか、始末におえない。
 取敢えず、教団を完全に潰されないように気を付けなければ。私の心労は、こうして一つ増えたのだった。

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