小説 | ナノ
初代|切欠は貴方P [ 22/145 ]
多分来ているだろうなと思っていたら、案の定彼はそこに居た。
「遅かったじゃねーか」
「友達と話してて遅くなりました。ご飯作りますね」
鞄を置きに自室へ向かおうとしたが、ぬらりひょんの腕に止められる。
「何ですか?」
「リクオを振ったんじゃろう。何でじゃ?」
好奇心からの質問か、それとも練習を無駄にしたことに対する怒りなのか。
何を思って振った理由を聞いてくるのかは分からないが、私はそれに答える気はなかった。
「言いたくありません」
「リクオが気に食わん買ったのかい?」
「いいえ、違います」
「じゃあ、何でじゃ?」
「言いたくないと言っているんです。聞かないで下さい」
ピシャリと言って退けると、彼は目を丸くし私を見ている。
今まで彼の前で声を荒げるなんてしたことがなかったから驚いたのだろう。
「他に好きな奴でも出来たのか?」
「……」
感の鋭い彼は、私の表情を見て確信を得たようだ。
「誰じゃ」
聞いたことがないくらい低い声に、私はビクリと身体を振るわせる。
私が熱を出したときに叱った声とは違う。
怒気が声にありありと表れている。
首を横に振り答えたくないと意思表示しても、彼は許してくれなかった。
「ワシの知ってる奴なのか? 一体誰じゃ。答えろ」
強く掴まれた掴まれた肩が痛い。言ってしまったら、負担になる。
「言いたくない、です」
声を振り絞って拒絶すると、彼は舌打ちを一つしもう良いと言い残し帰って行った。
いつもなら、ぬらりひょんが居て一緒にご飯を食べているのに、私以外誰も居ない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ボロボロと零れる涙を止めることが出来ず、壊れたレコードのように居ない彼に対し謝罪の言葉を綴った。
次の日、泣きはらした目は赤く腫れぼったくなっていてズル休みした。
ピタリと止んだ彼の訪問に、私はまた涙を流した。
ふと浮かんだリクオの言葉に、私はまさにその通りだと思う。
言わずに会えなくなるなら、言ってしまって後悔した方が何倍も良いと後で気付くなんて本当に馬鹿である。
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