小説 | ナノ
初代|切欠は貴方B [ 8/145 ]
朝から体が重くて、私は学校を早退した。
気力を振り絞って帰ってきたは良いが、家に着いた途端気が緩み玄関先でブラックアウトした。
どれくらい眠ったのか、フワッと香る嗅ぎなれた匂いに薄っすらと目を開けた。
「ぬら…り、ひょん…さ…?」
「この馬鹿! 具合が悪いなら何故大人しく寝とらんのだ」
開口一番にお叱りを受けてしまいました。
「大丈夫、かなって……」
そう言うと、大きなため息が振ってきて睨まれた。
「大丈夫じゃねぇから倒れてんじゃろう。佐久穂は、もっと人を頼れ。」
頼れと言ってくれるのは嬉しいが、天涯孤独の身で頼る相手もいない。
「頼る相手がいません」
「ここにおるじゃろう」
何を言ってるんだと呆れた顔をしながら怒るぬらりひょんに、私は目をパチクリと大きく見開いた。
「えっと……」
「ワシを頼れば良い」
「……ありがとう御座います」
病気になると誰かに甘えたくなってしまう。
臆面なく言って退けるぬらりひょんに、私は戸惑いながらも彼の好意を受け入れる。
「ゆっくり寝ろ」
ぬらりひょんに頭を撫でられ、私はそのまま意識を手放した。
汗を沢山かいた為か、気分は大分良い。
「ん……ふぁー、よく寝た」
ムクッと起き上がると、素っ裸だったことに悲鳴を上げる。
「キャーッ!! な、なにこれ!? 裸ってあり得ないでしょう」
脱がされた制服は、きちんと畳まれ机の上に置かれている。使用済み下着もだ。
兎に角服を着なくちゃとベッドから降りたら、ガチャッとドアが開いた。
「おう、起きたか」
平然とした顔でにこやかに笑うぬらりひょんを見て、殺意が芽生えた。
「出て行って下さいぃ!!」
近くにあった枕を掴みぬらりひょんの顔を目掛けて投げつける。
まさか、枕を投げられるとは思ってもみなかったのか顔面でそれを受けていた。
思わぬハプニングもあり騒然とした朝ではあったが、寝汗をシャワーで流し服を着た私は冷静さを取り戻す。
リビングに行くと、お粥がテーブルの上に置かれており、ぬらりひょんはというとブスッとした顔で椅子に座っている。
「ぬらりひょんさん」
「……何じゃ」
物凄く不機嫌な顔で返事をするぬらりひょんに、私はごめんなさいと謝った。
看病してくれたのは彼だし(看病の仕方にいささか問題はあるけど)、こうして病食を用意してくれる気遣いはありがたい。
「看病してくれてありがとう御座います」
「その割には、随分な仕打ちじゃったな」
枕をぶつけられたことを根に持っているのか、ブチブチと文句を言う。
「だって、着替えようとしたらぬらりひょんさんがドアを開けるんですもの」
「……そりゃ悪かったな」
流石に裸を見たことには罪悪感があるのか、謝ってくれる。
良かれと思ってやってくれたことなので、私はそれ以上何も言わなかった。
「早く飯を食え、冷める」
「はい」
私は、ぬらりひょんに促されるままにお粥に口をつける。
ほんのりと塩が聞いていて美味しかった。
パクパクとお粥を口に運んでいると、ぬらりひょんから思わぬ言葉が飛び出した。
「佐久穂、何でメガネなんか掛けるんじゃ? 折角の美人が台無しじゃぞ」
お世辞もここまでくれば嫌味だ。眉を潜める私に、ぬらりひょんは首を傾げる。
「どうした佐久穂?」
「ぬらりひょんさんの美意識が、おかしいんじゃないかと思いまして」
「失礼な。ワシの美意識は高いぞ」
「私、自慢じゃありませんが生まれてこの方『名前負けしている』と評されるほど残念な容姿してますよ」
「メガネと髪型に問題あるからじゃろう」
ガンとして意見を変えない私に対して、ぬらりひょんが切れた。
「そこまで言うならワシが証明してやる!」
その一言が、思いも寄らない方向へと変わってしまうのだった。
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