小説 | ナノ

32.露出狂親父とカシム [ 33/39 ]


 アブマドが連れて来たのは、ここ数ヶ月の間で急成長したカジノ『ランバルディア』だった。
 他のカジノと比べ掛け金も銅貨1枚から掛けられるが、一夜で大金を稼ぐことは出来ないシステムになっている。
 『生活を破綻させるような賭け事はさせない』をモットーとしているため、お金持ちや一攫千金を夢見る相手には見向きもされないのが現状だ。
 作ったのは、勿論アブマドである。身を崩して路頭に迷った挙句、奴隷に身を落としたなんて目も当てられないだろうと笑うのだ。
 他国の民だとしても、アブマドにとっては同じらしくお人好し過ぎて騙されやしないか心配になる。
 普段は支配人という形で従業員に指示を出したりしている彼が、客という立場で店を訪れたから大変だった。
「ティア様!? 今日は、お休みのはずでは? もしかして、何か問題でも起きましたか?」
 チーフマネージャーの名札をつけた女がすっ飛んできた。彼女は、厳しい顔つきでアブマドと対峙している。
 そんな彼女に、アブマドは苦笑いを浮かべながら手を軽く振った。
「イシター、今日は客として来たんだ」
「そうだったんですね。お連れの方は、未成年のように見受けられるのですが……」
 ちらりと一瞥したイシターに、カシムは軽く頭を下げた。
「嗚呼、カシムはラマーのおっさんに用事があるんだ」
とアブマドが言った瞬間、イシターの目が大きく見開きカシムの肩をグワシィィッと鷲掴んだ。
「悪いことは言わないわ。今すぐお家へ帰りなさい! ティア様もティア様です!! あんな変態を目の当たりにしてトラウマになったらどうするんですかっ」
 キッとティアを睨みつけるイシターを不敬だと怒るよりも、彼女の言葉の方が何倍も気になったが口に出せる雰囲気ではなかったのでカシムは賢明にも口を噤んだ。
「大丈夫だろう。同じ男だし問題なし」
「男だろうが女だろうが問題ありまくりですよっ!」
 拳を作って力説するイシターに、カシムは不安になった。師の人選を誤ったかもしれないと。
「どこか欠点があった方が人間味が溢れて楽しいだろう」
 カラカラと笑うアブマドは、そういう訳だからとイシターを軽くあしらい店内へと入っていった。
 カシムは、アブマドにおいて行かれないよう後ろに付いて歩く。
 中央部分は円を描くようにお立ち台が作られ踊り子が曲に合わせて踊っている。
 カード・スロット・パチンコにルーレット等と種類は多種多様だ。ショーを見ながら食事を楽しむ者がいる傍ら、カードゲームでお金をすって呻いている輩もいる。何てシュールな光景か。
 アブマドは、キョロキョロと周囲を見渡し目当ての人物を見つけたのか一直線にその人物のところまで歩き出した。
「ワシの全財産だ!!」
 初老のおっさんが、金歯を突然抜いたかと思うと2つのサイコロを振った。勢いが余ったのか、サイコロの一つが椀の外に飛び出してしまった。
「貴方の負けです」
 スタッフの言葉に、がくぜんとする全裸の親父。まかさとは思うが、この男だとは言うまいな。
 それだけは違ってくれと、無言でアブマドを見つめていたら彼はニヤッと嫌な笑みを浮かべていた。
「のぉぉおおっ!! もう一回、もう一回だけ」
「師匠、もうお金ない。ダメ、帰ろう」
 男の肩に布を被せる少女に窘められも、もう一回だけとごねている姿はどことなく自分とアブマドの関係を思わせ親近感が湧いた。
「相変わらずギャンブル運ないな、ラマーのおっさん」
「ティアちゃんか、ワシ今傷心なんじゃ」
 ヨヨヨヨと泣き崩れる男に対し、アブマドは容赦なくズケズケと傷を抉っている。
「あんな阿呆なかけ方をするから悪いんだろう。うちは、現金をチップに換金しなけりゃゲームは出来ないって何度も言ってるだろう。この金歯は持って帰れよ」
 テーブルの上に置かれた金歯をラマーではなく、少女の手に握らせた。
「何でトトに渡すんじゃ」
「何でもクソもあるかっ! あんたに渡したらそれを使って賭け事しようとすんだろうが」
 アブマドの指摘にラマーは、ウッと言葉を詰まらせた。
「ティアさん、居ると師匠大人しくなる。トト、助かる」
「こんなおっさん放っておいて、私と美味しいものを食べよう。カシムもおいで」
 デレッとした顔でトトの背中を押しながら別のテーブルへと移動しているアブマドに、カシムは大きな溜息を漏らした。
「何が食べたい? 好きなものを注文しなさい」
「……オイこら、目的忘れているだろう」
 トトを猫可愛がりするアブマドを恨みがましく睨みつけるが、当人は花を飛ばして甲斐甲斐しくトトの世話を焼いていた。
 この分だと、今日は目的を達成することは出来ないだろう。
 カシムは、画してラマーと接触することに成功はしたのだが本題に切り出すことなく顔合わせは終わったのだった。
 しかし、アブマドの護衛として後を付いて回ることで高頻度の確率で彼やトトと出会い興味を持ったラマーに逆勧誘されるのは一月後のことである。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -