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30.逃亡させて頂きます [ 31/39 ]


 電撃喰らって服ボロボロ。満身創痍で煌支部の門を潜ったら、部下達が卒倒した。
「一体王宮で何があったのですかぁあっ」
「黒虎、落ち着け。見た目ほど酷くはない」
「酷くないわけないでしょう!肌が爛れているじゃありませんか」
 服の合間から赤く爛れた肌を見つけ目を吊り上げる黒虎に、私は苦笑いを浮かべた。この程度の怪我なら回復魔法を掛ければ十分事足りる。
 それよりも一刻も早くこの国を出なければならない。ナイトメアも精々十五分程度しか持たない。
「馬の用意をしてくれ、カシムは旅に出る準備を頼む。私は着替えてくるよ」
「無茶です。そんな身体で旅に出るなど自殺行為ですよ」
 止めて下さいと追い縋る黒虎に、私は見せたほうが早いかとナースを自分に掛けた。
 一瞬にして焼け爛れた肌が再生され元に戻る。
「一体何が……」
 何が起こったのか頭で理解が追いつかなかったのか、ポカンとする黒虎に治癒魔法を自分に掛けたのだと言えば大層驚かれた。
「私のことは大丈夫です。煌支部(ここ)を、皆を守って下さいね」
 そう告げると彼は何か言いたそうにしたが、口にすることはなく深く頷いた。
「あんたの大丈夫ほど信用してませんからね」
「カシム、その言い草酷くないか?」
 荷物を纏めたカシムが、ジロリと私を睨みながら突っ込みを入れるのはデフォルト化しつつあるのは何故だろう。
「追っ手が来る前に町を出るんでしょう。さっさと着替えてきて下さい」
 バサッと服一式とマントを放り投げられ、私は慌ててそれをキャッチする。普段と違い尋常じゃないくらい彼は怒っている。
 恐らく私に。その理由は凡そ検討が付くのだが、それに関しては私に非はない。
「了解」
 非はないのだが、怒りが収まるまでの間は大人しくしておいた方が身の為だろうと嘆息し、そそくさと着替えをするべく空き部屋へと引っ込んだ。


 着替えを終えた私達は、移転魔法と馬を使いわけながら日が暮れない内に煌帝国から脱出することが出来た。
 馬を木に繋ぎテントを張ったところで、漸く一息吐けた気がした。
 カシムから手渡されたカップには、珈琲の良い香りが鼻腔をくすぐり張り詰めていた緊張が解される。
「頂きます」
 さぞや美味しいだろうと思って口にしたら、物凄く苦かった。
「ブーーーッ!! ゲホゲホッ、に……苦っ!」
 尋常じゃない苦さに目が涙目になる。キッとカシムを睨みつけたら、彼はツーンッとそっぽ向いてしまった。
「何の恨みがあってこんなことするかな!」
「人聞きの悪いこといわないで下さい」
「怪我したこと怒ってるんだろう」
 その意趣返しだろうと膝を叩いて問い質せば、ハッと鼻で笑われた。
「ええ、怒ってますとも。人の忠告も聞かずに暴走した挙句、怪我するなんて笑止。大馬鹿者ですね。俺なんかを庇って死んだらどうするつもりだってんですか」
 私は、思い違いをしていたらしい。彼は怪我したことを怒っていたのではなく、庇ったことに怒りを感じていたようだ。
「あの程度の魔法で、この私が死ぬわけないだろう。大体あの女、殺す気で攻撃してきたわけじゃない。多分、痛めつけて動けなくするのが目的だったんだろう」
「じゃあ、庇う必要なかっただろう!!」
「庇わなかったらお前死んでたぞ」
「は?」
「カシムは、魔力が少ない上に魔防も低い。直撃したら即死だった。骨すら燃えて炭になっていただろうよ。私だったから、あの程度で済んだんだ。それからな、弟の身を守るのが兄の勤めだろう。俺なんかって言うんじゃないよ」
 グシャグシャとカシムの頭を撫でれば、彼はくやしいと言わんばかりに唇を噛み締め静かに涙を流していた。
「カシムには剣がある。私には、譜術がある。お互いが欠けているところを補えば無敵だと思わないか? 大切なものを守れる強さが欲しいなら精進することだ。強さは、一朝一夕で手に入るものじゃないんだからな」
 カシムに思うところがあったのか、私の一言が原因でカシムが武者修行に行きたいと言い出すことになろうとは、その時思いもしなかった。

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