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導師守役の憂鬱B [ 3/10 ]


 死ぬとされていた十五歳になったイオンは、殺してもしなないくらいピンピンしていた。
 イオンの寝室で、私は眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。理由は、目の前の阿呆がお馬鹿なことを仕出かしたからだ。
「死ぬ気配がないのに、何でレプリカ作成に協力しちゃいますかね? 馬鹿ですか」
 そう虚仮下ろしたらイオンは素知らぬ顔で、
「導師なんて役職に縛られたくないので、レプリカが居れば仕事を押付けられて万々歳でしょう」
と嘯いた。
「導師を押付けた後、貴方はどうするつもりですか?」
「どうしましょうか。一緒に旅でもしますか?」
 質問したのは私なのに、質問で返された。答える気がないということか。そもそも私を旅の仲間に誘う時点で嘘臭い。
「罠ですか? アリエッタ響手と旅してきたら如何です」
「何故そこでアリエッタが出てくるのか分からないんですけど」
 首を傾げるイオンに、私は本気で言っているのかこいつと思わず凝視してしまった。
「こうして情を交わしていると言うのに随分とつれないんですね」
 イオンは、私の腕を掴みベッドへと引き倒した。体制を入替圧し掛かる彼を私は無表情で見上げる。
「下の世話も仕事の内と強要した方の戯言を信じるほど純情じゃありませんからね。導師の意向は分かりました。生まれたてのレプリカは安定するのに数ヶ月ほど時間を要すと聞きます。その間に旅の準備をしておきます。それで宜しいですか?」
「上等だ。でも、ベッドの上で導師は止めろ。気が削がれる」
「そのまま削がれて大人しく起きれば良いでしょう」
 私の返事に彼は満足したかに見えたが、名前を呼ばないことが気に食わないらしく無邪気な笑みを浮かべ乱暴に私の身体を貪った。


 レプリカ・イオンが安定するまでの間、トリトハイムを通じイオンの国外へ逃がす準備をしていた。
 ディストを巻き込みケテルブルクにある彼の生家を借りることに成功した。
 最後の仕上げは、やはり目の前の少女だろう。
「……何です」
 私が導師守役の任に就いてから、イオンの態度がおかしいのは私のせいだと思っている節があるアリエッタに話をするのは骨が折れる。
「アリエッタ響手に導師のことでお話があります」
「イオン様のこと!? イオン様が、どうしたですか?」
「私の部屋でお話します」
 イオンの名前を出せばあっさりと食いついてくる。私は、彼女の返事を待たず自室へと向かって歩き出した。
 アリエッタは、ちょこちょこと小走りに後ろを付いて来る。
 宛がわれた一人部屋に彼女と彼女に付き従うライガを部屋の中に入れてドアを閉めた。他人に聞かれるのは拙いので防御魔法をかけることも忘れない。
「話って何です?」
「まず話をする前に、導師がオラクルの退団を望んだら従事しますか?」
 私の質問にアリエッタは目をパチクリと瞬きし首を傾げた。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です」
「イオン様の傍に居られなくなるってことですか?」
 アリエッタの瞳が潤み始めた。彼女の起伏を敏感に察知したライガが、威嚇の唸り声を上げる。本格的に泣こうものなら、私はライガに噛み殺されて死ぬのか。それは嫌だな。
「違います。質問を変えます。総長と導師どちらを優先しますか?」
「……イオン様。総長はアリエッタの恩人だけど、アリエッタはイオン様が好き」
 少しの葛藤の後、彼女の出した答えはイオンを取ることだった。私は、ホッと息を吐き本題を口にした。
「これから話すことは、全て私の独断です。まずは、貴女を導師守役から外した経緯から話しましょうか」
 私は、アリエッタにお茶を淹れながら長い話をした。

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