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50.グランコクマへ強行軍 [ 51/72 ]
一足先にグランコクマへ向かっているシンクへ鳩を飛ばし、私達はアリエッタのお友達を借りてグランコクマを目指していた。
火急の為、同行していたファブレ使用人は数人の護衛以外は全てコーラル城で待機を命じた。
全員が着いて行くと言い出したので、仮にも敵国にルーク一人単身で乗り込ませるのが危険だと考えたのだろうと予測を立てた私は、ルークの身に何かあったら私の首をくれてやると言ったら逆に怒られた。
結局、怒られた意味が分からず首を傾げていたらルークが彼らを説得してくれてその場は丸く収まった。
アリエッタに引きずられてきたマクガヴァン将軍とルークの護衛隊長に仮責任者の権限を与えコーラル城を後にした。
強行軍で飛ばした為、尻の皮が剥けて痛かった。馬車でも3日は掛かるだろうという距離を飛ばしたのだから当たり前か。
「ううっ、お尻が痛い」
「同感だ」
「……」
メソメソと泣いていたら、ルークも痛かったのか私の言葉に頷いている。一人無言を貫くアスランも、顔色はあまり宜しくない。
「でも、早く着いた……です」
モソモソと喋るアリエッタに、私は確かにと頷いた。
「エンゲーブまで行ければ良かったんですけど、流石に無理でしたね。ベッドで寝たかった……」
「獣道走りまくって3日掛かる距離を1日で来たんだ。無茶にも程があるだろう」
ベッドで寝たいとぼやく私に、ルークの力ない突っ込みが入りカクリと肩を落とした。
「明日、エンゲーブで一泊したらどうですか?」
アスランの心遣い溢れる提案に、私はうーんと唸った。髭とアッシュがアクゼリュスに向かっているなら、高確率で崩落する確率が高い。
ヴァンが、アッシュを使ってアクゼリュスを落とすだろう。それが暗示か、自発的なものによるのかは不明だが。
「明日は、そのままグランコクマ入りします。アリエッタとシンクにして貰いたい仕事がありますので」
「シンク殿にですか?」
「リグレットの護送を頼んだばっかりだぜ。今度は何やらせる気だ」
護送以外にまだ仕事があるのかと首を捻るアスランに対し、ルークは胡乱気な顔で私を見ている。信用がないらしい。
「ダアトへ行ってもらいシンクは導師に成代り、アリエッタは導師の保護をして貰おうと思って。導師イオンを押さえておけば、パッセージリングは封印を解かない限り先に進めないからね。ガイ・セシルがヴァンと合流したら、パッセージリングを操作できる状態になってしまうのよ。操作出来ないように弄られたら困るでしょう」
「シンクがイオンじゃないってバレたら危ないだろう!」
私の案に絶対ダメだとルークは声を荒げた。
「万が一バレても、シンクなら高確率で生き残れるわ。ダアトに居た頃の彼の肩書き忘れたの? 師団長でもあったけど、参謀長官も兼任していたのよ。髭を騙くらかすなんてお手の物よ。私が彼なら無傷で逃げおおせる自信があるわ」
口八丁でねとは云わなかったが、私の云いたいことが伝わったのかルークは微妙な顔で口を噤んだ。
「マルクトの恥をこれ以上放置するわけにもいかないし、早いところ回収して首切りたいじゃない」
「それが本音だろう」
「それが本音なんですね」
「それ、本音だ……です」
私の最後の一言に、異口同音の答えを返された。私をどう思っているのか如実に分かった気がするのは何故だろう。
「ボクは、ご主人様の味方ですの〜。目障りな奴は撲殺しちゃえ!作戦ですのー」
「ニャー」
「仔ライガもそう言ってるですの」
仔ライガに跨ったミュウが胸を張って味方だと云うが、言ってることが物騒で怖い。
「こいつらの性格……絶対ティアの影響受けてるよなぁ」
ボソッと呟かれた失礼極まりないルークの暴言に、私はうわぁあんと声を上げて泣いたのだった。
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