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少女、旅先で罠に掛かるA [ 32/41 ]


 『女』の暖簾を潜り、脱衣所で着物を脱ぐと少しばかり肉が絞られたせいかシャープに見える。
「痩せるのは良いけど、心なしか胸が減った気がする……」
 減ったと言っても、元々Fカップなのだ。減ったもくそもないだろうと、そこに勾陳がいたら突っ込まれていただろう。
「うーぅっ、早く温泉に浸かろう」
 流石に裸でいると冷えるなと身体を震わせ、手拭を肩にかけいざ浴場へと足を踏み入れた。
 ムアッと湯気が視界を奪いパタパタと手で湯気を追い払うと目の前には露天風呂が広がっていた。周囲は、竹垣で囲われ雰囲気もばっちりだ。
 硫黄の臭いが凄い。湯船に手を入れてみると、ぬるっとした感触は天然ローションのようだ。
 私は、掛け湯用に用意されたお湯で身体を清め温泉を心行くまで堪能したのだった。


 私が温泉を堪能している頃、奥手な昌浩のために物の怪と勾陳による性教育が行われていた。
「そそそそんなこと出来るわけないだろう!」
「接吻の一つや二つ出来なくて、この先子供も夢のまた夢で終わるぞ」
 一生性交が出来ないと断言する勾陳に、昌浩は顔を真っ赤に染め金魚のように口をパクパクと開閉させている。
「あ――昌浩や、何も一足飛びに契れとは言ってないんだ。気軽に考えたらどうだ」
 慰めにもフォローにもならない物の怪の言葉に、
「そういう問題じゃないだろう!!」
と物の怪を怒鳴りつけた。怒っているわけではないのだ。単に恥ずかしいだけで、羞恥を煽るようなことを強要されて冷静でいられる者はいないだろう。
「藍の性格を考えてみろ。あいつは、何事にもあっさりし過ぎている。機会を見つけては別れを切り出しお前のもとを去るだろう。何の躊躇いもなくな。そうなってからでは遅いのではないのか?」
 勾陳とて『佐久穂藍』という人物を全て理解しているわけではない。だが、短い間とは言え共に過ごした時間の中で彼女の人成りを把握するには十分の時間だった。
「そうだけど……。藍の気持ちも考えないでそんな事出来ない」
「そうかぁ? 藍は、お前のこと気に入っていると思うぞ」
 昌浩の悲しげな心情に対し、物の怪は首を緩く横に振りそれを否定した。
「そうは見えないけど」
「あいつは、自己犠牲を進んでするような女じゃない。ましてや、神罰が下ったとしても自分の意思を曲げるような相手じゃない。今回、昌浩となら夫婦になっても良いと踏んだから高淤神の言葉に文句は言ったが拒否はしなかったんじゃないのか」
 畳み掛けるような物の怪の言葉に、昌浩はそうなのかもと少しずつ洗脳されている。
 嘘は言っていないが、彼女が昌浩に対する感情が親愛なのか恋慕なのかは分からないのも事実だ。
「折角邪魔する奴は居ないんだ。藍と距離を縮めたらどうだ? 相手が意識してくれれば脈はある」
「昌浩に惚れれば、子供が出来れば、藍も去ろうとは考えないだろうしな」
 そこまで言われ、昌浩は小さく頷いた。
「俺、頑張るよ」
 この後押しが、功を成すのは少し先の未来となる。

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