SS

140~1000字前後のss。連作お題は終わり次第、加筆修正して短編に。[お題]にせごり様※スマホ閲覧推奨

「花咲くようにはいかないもので」海賊(赤青)

 毎日水をやった所で、上手く育つとはいかないもので。幾度目かのため息をついて頬杖を付く。クザンは目の前の真っ白な紙を前に思案していた。先程からピクリとも動いてくれないペン先は渇き始めている。拝啓…なんて始めるのはクザンの柄でもないし、送る相手にもそんな堅苦しい書き始めを送りたい訳でもない。そも、手紙を書こうなどと言う事柄自体が普段からして考えられないだろうなと、また溜息をつく。何故手紙を書こうとしたか。理由はただ一つ、あまりにも鈍い頑固でクソ真面目な同僚へ思い知らせてしまいたいからだ。いつからと言われたら小っ恥ずかしいが、クザンがまだ訓練兵時代の頃。自覚したのは数年前だが、無自覚にずっとあの背中を追っていた。それでも今まで異性が恋愛対象であり、先輩から同僚となったあの男に惚れた事をすんなりと受け入れれた訳ではない。悩んで、いっとき徹底的に避けた時期もあるが、本部半壊始末者を提出したとだけ言えばお分かりだろう。その時のすったもんだでクザンも漸く観念した。想っているだけでなんて殊勝な性格をしていないクザンは、吹っ切れた日からアプローチをした。掲げる正義が反対な為ぶつかる事も多いが、腹が立っても言い返すのを我慢して、なるべく会話をする様にもしたし、食事にだって2人で行った。あのボルサリーノにだって恥を忍んで協力してもらっても気付かない鈍ちんである。「…はぁー…。やっぱ、脈なしか?」いや、そんな事はないはず。手を握っても抱きついても、あからさまに女性との会話に割り込んでも、家に行きなり訪ねて同じ布団に入っても拒絶は無かった。「流石に襲うのはなぁ。…面と向かって思い知らされるのは、しんどいし」だからこその手紙なのだけれど、手が止まる。余りにも馬鹿馬鹿しい言葉しか出てこなくて。ゴミ箱の中に幾つも捨てた書き損じにも同じ言葉が連なっている。「ガキじゃねぇんだから…もっとまともな言い回し思いつけよ」たったふた文字の余りに赤裸々な言葉に、途方にくれた。


「でぇ?いつ、君はクザンに返事してやるのぉ~?」「何のことじゃ」素知らぬフリをしながら、ボルサリーノの言葉を受け、微かに笑う男は嫌に様になっている。元後輩兼、現同僚に男の趣味が悪いと忠告してやるべきだが…。同じくらいこの同期の男が嬉しそうにクザンを見ている穏やかな姿が好きなので、ただ黙って2人を見守ることにした。
直接的な言葉を聞きたいがために、あの積極的なアプローチを交わし続ける男の忍耐と根気良さに若干の呆れもしながら。
2022/12/31

「氷の指が融けるまで」海賊(赤青)

 ケホ、朧げな意識の中乾いた音が耳につく。数度続く音が鬱陶しく感じるが、其れは己の喉から出ているのかと気がついた。ぼんやりと視界に移るは自宅の天井。何故寝たままなのか、今はいつで何もしていたのか。喉の違和感に顔を顰め、もう一度吐き出された咳と共に寝る前の事が思い出される。数日前から立て続けに大将が出る規模の任務が続いていた。サカズキだけでなく、同僚である年上の同期と後輩であった大将も慌ただしくしていた。どこかの地方ではこの時期は
師走と呼ばれて、正に走るが如く年の瀬まで日々が過ぎると誰かが雑談で呟いていた。決済書類やら年が変わると言う事でいつもよりも締め切りも早まり、本当に息を吐く暇もなかった。普段サボりがちなクザンでさえ抜け出す事なく仕事をしていた。そんな折に任務に就いた島で、さあ帰るぞと言う時に大寒波がサカズキ達に襲いかかった。地元民によれば数年に一度あるかないかと言う大雪で、帰るに帰れず、あまりに積もり民家が埋もれるという被害が出た為、サカズキ達は総出で雪の除雪作業を行った。やっと帰れた時には部下は数人寒さに倒れて、残った者達で倍になった報告書やらで徹夜した。漸く落ち着き、数週間振りの家に就いた後の記憶が無い。「起きた?」カラリ、襖の向こうに盆を持ったクザンが居た。「…なんでおるんじゃ」「嘘だろ?…まぁ、あれだその…いいだろ別に」布団のそばにきてサカズキの額にヒヤリとした掌が当てられる。熱いな、と溢れる言葉に漸くサカズキは風邪を引いたのだと理解した。した途端身体がとてつもなく重くなった。「情けなぁ」「俺は楽しいけどな」カラカラ笑う恋人をギロリと睨むが、益々目を三日月型にされた。額に当てられていた掌が離されるが、咄嗟にその手を掴んでしまう。己の無自覚な行動に目を丸くするが、目の前のクザンも驚いている。思った以上に弱っている自身に情けなくなる。顔を顰め手を離すサカズキにクザンは遂に吹き出して腹を抱えて笑い出した。「お前さんを可愛いなんて、思う日が来ると思ってなかったよ」「うっさいわ。気の迷いじゃアホタレ」「是非偶には気の迷いを起こしてよ」「お前だけには、二度と見せん」「なんでよ、いいでしょ」誰が見せれるかと内心吐き捨てる。ねぇねぇと五月蝿い口を黙らせる為、枕を掴んで投げてやるが力が入らず顔に当たる前にキャッチされた。そして暫く手に枕を持って考え込んだが、にまぁ~と顔に笑みを浮かべる。その顔は正しくいつも要らん事をする時の顔だった。「一緒に寝てほしいのな。サカズキも風邪の時は寂しがりになんのか」「ぶちまわすぞ」やめろと言ってもクザンはそのままサカズキの静止を押し除けて布団の中に入ってきた。ふわりと香るクザンの匂いと、程よい体温にぐらり、と頭が溶かされる。「お前さん専用の氷嚢抱き枕…なんて」飄々としているのに何処までも柔らかい声音に、不覚にも目頭が熱くなった。思った以上に熱で頭がやられていたらしい。情けない顔をこの悪餓鬼に見せたらどんだけ揶揄われるか。それに…いつだって恋人には情けない姿ではなく、かっこいいと言われる姿で有りたい男心を分かれと内心でキレ散らかす。こんな無様を晒すのは今回だけだと自身にいい含め、腕の中の身体を抱きしめる。そして、情けない面を誤魔化す為に、顔をサカズキ専用氷嚢の頭へ埋めた。
2022/12/22

「理由がなければいけません」海賊(赤青)

※黄金🐌事件以降/中将/何処かでの任務中な話
 このままで良いのか。其れでお前は正義の道を弛まず踏み締める覚悟はあるのか。強い眼差しがクザンを貫く。目の前にある道は既にマグマで地表は焼け付くし、先に進む者を阻んでいる。常人ならばその熱気だけで皮膚は焼け付き、器官から入った熱が肺をも焦がすだろう。死体の様になりはてても悪に鉄槌を、勧善懲悪とし例外はあり得ない、全てを白にする為に黒を焼き付かせるのか。問いかけが、怒号が聞こえてくる様だった。まさに善の理想だとも。しかしそこに立った後、本当に望んでいた景色が残っているだろうか。
「ままならねぇな」
親友の言葉が、叫びが耳にこびりついて離れない。世界が白か黒で分けられたならば簡単だった。そうではないと沢山の国を人を海賊を政府を見て来た、単純な事などこの世界にどれくらいあるのだろうか。人が人と交わる限りそんなものはないのかも知れない。立場によって世界は変わる。クザンの世界ではオハラの学者も親友も悪であった。しかし、民間人は違う、守るべき弱者であった。砲撃したサカズキの可能性悪が理解できないわけではない。それでも自身が納得できる理由にはたり得なかった。だからこそ…小さな芽を逃したのだ。悪とは思わないが、正しいとも言い切れない行いにクザン自身が失望した。海兵をこのまま続けれるか…初めて潰れそうになった。この白をしばらく目にするのが嫌でサングラスを手放せなかった。でも、其れでもこうして目の前に広がる惨事を見て、横っ面を引っ叩かれた。幾つもの仲間を人々を取りこぼし、踏みつけて歩いた。その度に苦々しいものもあった、迷うことも、…その中で確かに救われたものもあったのに。正義を纏った背中を、憧れた理想の、いや今は現実の壁となりクザンの前を歩む男を見る。焼け爛れた道に足を踏み出す。熱いマグマが襲い掛かるが体には届く前に凍らせ歩みを進める。振り返る眼差しには問いかけが込められていた。答えに足る言葉は未だない、其れでも正義の白を纏い続ける為にサカズキの後を追う。追いつき、先を超えて己の正義を歩くために。今はひたすら煮えたぎる男が歩いた道を歩く。呆れた様にため息を吐いて待っている姿に、余裕が見えてなんだか癪な触った。精々待っていろと不敵に笑って見せ、視界の悪くなるサングラスを投げ捨てた。

(自分が納得するために)
2022/10/10

「ガラス片を埋めた道」海賊(赤青)

※"忘れてしまったこの瞬間から"の続き
 一方的に遠ざけてしまいなんとも言えぬ空気のまま赴いた任務地。大将1人で事足りる任務に何故と元帥問うサカズキとは違い、クザンは口を閉じていた。軍医からはまだ、完全に変化したわけでは無いのでΩの特徴は出ないが、いつなってもおかしく無いと言われていた。もし、変質が起こった時に備えてと言う事だろうが、せめてもう1人の同僚、ボルサリーノにして欲しかったと顔を顰める。けれど、これ以上の負担を元帥に掛けるわけにも行かないし、飛び回っている同僚を振り回すわけにもいかないと理解もしていた。そして赴いた地で順調に事が運ばれれば良かったのだが悉く運に見放されたらしい。詳細は省くがヘマをしたのだ。自身でも信じられない程の。
「うそだ。」「おい、クザン!わりゃなに、やっちょッ…!」
現れ始めた変化にあんまりにもな顔をしていたのだろう。サカズキは開きかけた口を閉じて戸惑いの表情を浮かべていた。帽子を脱いでクザンに深く被せたあと、しばらく休め、後はやっておくと任務を請け負いその場を後にした。心配する部下達に謝罪をいれ、大丈夫だとなんとか張り切り1人になったとたん…。
「あ、?」
歪む視界に濡れた頬の感触。自身が泣いていると遅れて気が付き、遂に来てしまったと絶望が押し寄せる。覚悟していたつもりだったがつもりでしか無かったのだと知らしめられる。情けなさに声が口から溢れ出して必死に掌で塞ぎ止めた。引き攣る喉が忌々しい、始まってしまった完全なバース変異の兆候。今までαとしてやってきたのに真逆の性質になる恐怖で可笑しくなりそうだった。こんなに情緒不安定になるのも変化のせいだろうか、そうだろうと無理矢理思い込まなければやっていられない。物陰に隠れている時でよかった、絶対にアイツには…見せたく無い、絶対に。ただそれだけの意地で息を止めて素早く移動し、急いで部屋に入り鍵を閉めた。もう以前の様には隣に立てない事が悔しくて悲しくて腹が立って仕方がなかった。
2022/10/03

「忘れてしまったこの瞬間から」海賊(赤青)

※独自オメガバース設定
 嘘だと目の前の提示された事実を受け入れられない。海軍の階級持ちは海賊をはじめ、様々な犯罪者を相手取る。なの知れた賞金首など悪魔の実の能力者が多く決まってそいつらはβの場合もあるが大抵がα持ちだ。必然、制圧する力を持つ海軍の階級持ちは能力者、もしくはαである。青雉と呼ばれるクザンもαで能力者の1人である…はずだった。
「どうなってんのよ」「運命の番と言う逸話を聞いた事は?」
都市伝説の様な話を誰しも一度は耳にする。軽く頷くクザンに軍医は推測の域になると前置きして説明をした。
「本来何万何億分の一だと言われていますが、確かに存在するペアは居るのです。古い文献から数少ない事例を探ると大将と似通った事例が3件、"運命の番"を無くした片割れの変質。」「俺ァ番なんざ作っちゃいねぇけど」
Ωは海軍や民間にいないことも無いが出会うは番持ち、若くは特殊な事例や薬を服用した者としか接触はない為番う可能性はない。承知していると軍医は頷き説明を続ける。
「基本的には番同士が結ばれていなければお互い影響はないですが、"運命"は度々今の技術では解明出来ない事が多々あります。これもその一つ、"出会う前に運命の番が亡くなったらしき片割れのバース性の変化"」「…ソレどうやって運命で、亡くなったってわかんのよ」「そこ迄はさっぱり。」
前兆としては数日間の体調不良と特徴として"涙が止まらない"現象が起こるらしい。半身が無くなったと錯覚する幻肢痛故に。心当たりを聞かれるが、先日に医務室利用履歴を問われてハッとする。大将ともなれば滅多な事では怪我をしないが先日海楼石を使用した爆撃から部下を庇い珍しく怪我したなと思い返す。傷の深さに対して脂汗が噴き出るほどの痛みに久々に同僚に突かれたのだ。完治してからも不調が続くと思い今回診察してもらったが…未だに信じられない。唖然とするクザンの手の中にあるバース性ははっきりと"Ω"と記されていた。軍医には緘口令を厳命し紙を燃やす。そのまま元帥の元へ足を運ぶが足裏の感覚が覚束ない。βならまだ良かった、Ωなど…海軍大将"青雉"を戴く身で大問題だ。報告にしても少し落ち着くべきだと立ち止まって深呼吸する。と、甘い香りが鼻についた。こんな時なのにひどく、腹が減るような。革靴の床を歩く音と甘やかな香りと共に現れたのは同僚で、思想の違いから衝突の絶えない"赤犬"。ギクリ、身体が強張る。またサボリかと唸るサカズキだがクザンの可笑しい様子に気づき声を掛けてくる。こんな時に、出会いたくなかった。いつもなら叩ける軽口が酷く重い、どうしていた、自分はどう彼と。
「?お前さん、何ぞつけとんか」
その言葉にヒュッと息が詰まり、足が後ろに逃げた。そこから先の記憶は酷く曖昧で、気がつくと目の前には厳しい顔をしながら心配する顔の元帥の顔があった。
2022/10/01
new | old
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -