天然×ツンデレ

登校途中、誰かに呼ばれた気がして振り返る。
「ゆきちゃんセンパイ、おはようございますっ!」
「…振り返らなければ良かったわ。」
「えっ?!」
走ってきて隣に並んだ後輩…兼、(認めたくはないけれど)恋人に溜息をついた。
「ひ、酷いですセンパイ、無視なんてしないでくださいね!?」
「確約は難しいと思うけれど、善処してみましょう。」
「うぅ、お願いします……。」
さっきまでの元気はどこへやら、すっかりしょぼくれてしまった後輩くんに溜息をひとつ。
「大声を出したりしなければ、少しくらいは許容するけれど……。」
「ホントですかっ?!」
わかりやすく顔を明るくする彼に、出てる出てる、と指摘すればすぐさま謝ってくる。
本当に、素直だわ。……良くも、悪くも。

「センパイ、せんぱーい、」
「……なに。」
間延びした声に振り返れば、気の抜ける笑顔がそこにある。首を傾げれば、不意に手を取られた。
「なんっ、」
「手、繋いでもいーですか?」
聞く前に繋いでるじゃない……ッ!
叫びそうになり、慌てて口をつぐんでから、深呼吸。
「暑いから、イヤ。」
きっぱりスッパリそう言えば、彼は途端に悲しそうな顔をして喚く。
「まだちょっと寒いくらいじゃないですか。手も冷たいしっ。」
そんなに僕と手を繋ぐのがいやですか、と唇を尖らせる彼に、そういうわけじゃないけど、とそこまで言って、止まる。べつに弁明する必要性はない気がする。
「そういうわけじゃないけど……なんですか?」
私の顔を覗き込むように首を(というか頭を)傾げる彼の、真っ直ぐな視線から逃れるように顔を背けつつ、別になんでもないわ、とだけ答えると、また不満そうな声。
「何なんですか…、教えてくださいよぅ。」
放っておくともっとうるさくなりそうな彼に、溜息を吐く。
「……人が沢山居るところではやめて欲しいのよ、」
そこまで言ってもまだ首を傾げている彼に、呆れながらも付け足す。
「…恥ずかしい、でしょう……。」
コレ、言うほうが恥ずかしかったのでは、と思ったときには遅く、熱が集まる頬を隠すようにうつむいた、瞬間。
急に体に何かが圧し掛かり、歩き続けていた足が止まった。何か、なんてわかりきっている。
「ちょっ…と、なに?重いっ。」
「すみません、でも先輩可愛くて…!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる彼の力はことのほか強く、振り払えない。
けれど、人の視線を集めているのがイヤでもわかるので早急に離れてもらいたい。
「め、目立つのがイヤだって言ってるでしょう、離れて、ほら。」
「えぇー……。あ、じゃあ、手は繋いでも良いですか?」
「は?イヤだって言ったじゃない。」
「じゃぁ離れませんー。」
なんですって……。このままじゃ遅刻しちゃうじゃない。
こうなると頑固な彼を悲しいかな知ってしまっているので、私の選択肢は呆気無く絞られてしまった。
「あぁ、もう。手は繋いであげるから、離れて。遅刻しちゃう。」
「はいっ!」
今日一番の笑顔を見せてくれた彼に、たまにはこんなのも悪くないかもしれないと、ほんの少しだけ思ってしまった。




リクエストは"天然×ツンデレ"でした!
くっ、ツンが甘い…!もうちょっとキツくしたかった……。


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