すれ違い両想い

下駄箱に入っていた可愛げのないメモ用紙には、『放課後、中庭で待ってる。』とだけ書かれていた。
見慣れ過ぎた程の筆跡は、幼稚園以来の幼馴染のものだ。――そして、密かに俺が想いを寄せている相手でもある。
男友達のような存在で、でもいつからか好きになっていて。だけど、今の関係を壊すのが怖くて言えやしなかった。
そもそもおれ自身、結構軽い性格だし、まじめに告白とか、正直、キャラじゃないし。

けれど、この手紙は、少し……期待しても、仕方ないだろう。

内心浮き足立ちながら中庭に向かえば、珍しく真剣な顔をした彼女が立っていた。
「あ、来たね。」
おれの存在に気付いた途端、いつもどおりの笑顔になった幼馴染は、けれどやけに緊張した声音でおれの名を呼んだ。
「なに、」
問おうとした言葉を遮って、彼女は静かに、言う。
「あの、さ、」

好きなんだけど、付き合わない?

一瞬、思考が固まった。
期待は、していた。確かにしていたが、まさか本当に?
何か、何か言え、おれ、なにか…ッ!
「ぁ、」
やっと声を絞り出せそうなところまで回復した瞬間、幼馴染は酷い爆弾を落とした。

「な…っ、なーんてね!冗談だよ、びっくりした!?」

もう一度硬直するおれ。
「…、は?」
だが今度は思ったよりも簡単に声がでた。酷く間抜けな声だったが、これはもう仕方ないと思う。
いや、だって、あんまりじゃないか?
「冗談だよ、冗談ー!罰ゲームでさぁ!誰かに告白しろって言うの!」
アンタなら冗談が通るからさー。そう言って笑う彼女に、流石に声を上げそうになったが、必死に堪える。悪いのは、罰ゲームを提示したヤツ。
それから。……どこかで、冗談でよかったと安心している、おれのヘタレさ。

「悪い、今日、用事あるから、用が済んだなら帰っていいか?」
必死に、いつも通りを装う。
「え、あぁ、うん……ま、また明日ね!」
「おー。」
さっさと踵を返して、彼女の顔を見られないまま、中庭を後にした。
うまく笑えていた、気がしない。



「……なんで、アンタが、…傷ついたような顔、してんのよ……。」
自分以外いなくなった中庭で、芝生にしゃがみ込みながら呟いた。
沈黙が痛くて、茶化してしまった。茶化すだけならともかく、なんで内容全部を冗談にしてしまうのか。あぁもう、この口が憎い。
普段幼馴染のことをヘタレだのチキンだの散々言っているが、これじゃあ人の事言えないじゃない。
ていうか、それよりも。
別れ際、振り返る瞬間に見えた彼の瞳が、酷く悲しげに揺らいでいたような気がして。
「そんな顔したいのは、こっちだっての……。」
あの沈黙は脈が無いんだと思ったのに、なのに、じゃぁなんであんな顔するんだ、もう。
「あーっもう!あのヘタレめ!!」
わけがわからない!と叫びながら、内心思う。

――追いかけて確かめるだけの勇気がないわたしも大概ヘタレじゃないの、ちくしょう。




リクエストは"NLですれ違い両思い"でした!
すれ違いってなんですか…orz


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