03.春休み

「春休み?…へぇ、大学って春休みあるんだ。」
「はい。あ、講義が無いだけで、研究室とかに入り浸ってる人は多いですよ。」
首を傾げる冬樹に、箏は律儀に補足する。ふぅん、と興味なさ気に頬杖をついて、意識をテレビに戻してしまう恋人に苦笑して、箏は食器を手に立ち上がった。

休日の昼下がり、異常気象なのか未だに春の気配が薄い外に出る気などカケラも湧かず、箏は冬樹の家に来ていた。
昼食の片付けを終えてリビングに戻ると、冬樹は肩までこたつに潜り込んでいる。
「冬樹さん、寝るならベッド行きましょう?風邪、ひきますよ。」
「んー…、」
眉を寄せて呻く冬樹に、また苦笑して。
「しょーがないなぁ…。ほら、捕まって。連れてってあげますから。」
目をほとんど閉じたまま素直に首に回された腕に、箏は照れを噛み殺しながら、冬樹を抱き上げるべく腕に力を込めた。

ガチャリと戸が開く音がして、視界の端に金色が映る。冬樹さんが起きたのか、と思いつつ、箏はゲームから目が離せないでいた。
「おはよう、ござ、いますっ、」
ぎゃぁあ死ぬしぬ、などと内心焦りながら、それでも一応、と挨拶を寄越した箏に、冬樹は眉を寄せた。
「…はよ。……なに、してんの?」
不機嫌丸出しの声音に気付いているのかいないのか(多分気付いてないんだけど)、箏はわたわたと手を動かしながら必死に返事を返す。
「さっ、最近発売、された、あのっ、えぇと、音ゲー?です…あぁあ死んだっ!」
うぎゃーっ、とバンザイをして床に倒れ込む箏を見下ろしながら、ふぅん、と呟いた冬樹は、変わらず不機嫌そうだ。
仰向けに倒れ込んだおかげで冬樹の顔が目に入った箏は、やっと不機嫌に気付いたらしく、体を起こして首を傾げる。
「えっと……どう、しました?」
「…………べつに。」
言いながら、箏の上半身を支えている腕を足で払い、いだッ、と床に逆戻った彼の腹に跨がった。
「ふ、ゆき、さん?」
心底不思議そうに首を傾げる箏に、冬樹は不満げに顔を歪めた。
「俺が居るのにゲームとか、ムカつく。」
「あー…スミマセン…。」
子供のように拗ねる冬樹に苦笑する。口を尖らせている彼は、やたらとかわいく見えた。
「箏のばーか。」
「それは心外…、どうしたら許してくれます?」
すっかり拗ねてしまった恋人の顔を覗き込む箏の目は優しい。「……春休みぜんぶ、俺にくれたら許す。」
「全部?」
頓狂な声を上げる箏の首に、素早く冬樹の手がかかった。
「っちょ、」
未だに馬乗りになられて居るので、首を締められるような格好になったことに箏は少しだけ焦りを見せる。
「べつに、出掛けるななんて言わない。俺以外と遊ぶな、ってのも無理だろうから良いし。ナンパしないのもどーせ無理だから良い。」
「おれ信用無いなー…。」
遠い目をする箏に、お前がわるい、と吐き捨てる。
「ま、そうなんですけど。…それで、俺がすべきことは?」
だいぶ限られた気がする、と首を傾げている彼に、冬樹はス、と目を細めた。
「ここに、帰ってきて。ここで寝て、起きて。ここから出掛けて。…春休みの間だけ、一緒に。」
じゃなきゃ締める。と副音声が聞こえた。
…まぁ、春休みの間だけなら、妹も親友が預かってくれるだろうし、俺の行動も特に制限されていないから、つまりこれは多分、彼の中では最大限譲歩した結果だ。
もっと束縛したい筈なのは、付き合ってればわかってきてる。けど、甘えてしまう。
「…スミマセン、」
「なにが、っ、」
不意打ちのキスに赤くなった彼に、笑いかける。
甘えちゃって、すみません。それから、
「ありがとうございます、冬樹さん。」

「……ドーイタシマシテ。」

明らかに照れた様子の棒読みに、つい笑ってしまったら頭を叩かれた。




なぜかやたら長くなりました。
軟禁みたいな話にしようと思ってたんですが、意外と冬樹さんは譲歩を覚えていました。あれぇ…。←

というか視点(?)が二転三転してる気が…読みづらかったらすみません。


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