01.初詣で
テレビの中で除夜の金が鳴り響いた数分後、基本鳴らない携帯から音が漏れた。 恋人からのメール、電話だけ音が出るようにしてあるし、どちらの音か、なんて最初の一瞬のノイズだけでもわかるレベル。 我ながら少々気持ち悪いとは思うが、仕方ない。これも愛だ。 等と考えながら、ディスプレイなど見向きもせずに携帯を耳元へ持って行く。 「もしもし?」 「あ、もしもし!冬樹さんですか?!」 夜中にしてはテンションの高い、愛しい声が耳に届いた。あァ、そういえば、声を聞くのは少し久しぶりのような気もする。 「俺以外がでたら怖いな。」 笑いを噛み殺す俺とは逆に、確かに!と笑いだす恋人。 まずい、声を聞いたら、ふと。
「――会いた、い。」
「へっ?」 電話口からの間の抜けた声に我に帰る。 「ぁ…?今俺、口に出した?」 「え、た、多分…?あの、えと、おれに会いたい、ってことで会ってます?」 他に誰だというんだ。そう言うと、彼は明るい声音で話し出した。 「と、とりあえず、明けましておめでとうございます!」 「あァ、おめでとう。」 「今年もよろしくお願いします!」 「こちらこそ、よろしく。」 当たり前のやり取りが、録音してとっておきたいほど愛しい。このやり取りが、これから先ずっと続くのなら、これ以上の幸せは、願わない。貰えるなら貰うけど。 ……続かないなんて選択肢を与える気は、毛頭無いが。 「そ、それで、ですね!」 続く明るい声に引き戻され、うん、と返事を返す。暫く、えぇと、その、あの、と言い淀んでから、意を決したように息を吸う音が聞こえて。
「えっとその、夜が、明けたら……は、初詣でに、行きません、か?」
聞こえたのは、誘いの言葉。 友人たちも一緒だけど、と付け足された言葉は正直要らなかったが、この際スルーだ。 愛しい愛しい恋人に、久しぶりに会えるのだから、あまり文句は言うまい。 「あぁ、行く。」 そう返せば、ホントですか!と明るい声。
――嗚呼。 かわいい。いとしい。愛しい。 夜が明けたらなんて言わず、今からでも会いに行って抱きしめたい。
待ち合わせの時間と場所を聞きながら、外に飛び出したくなる衝動を必死に押し込めていると、不意に彼が黙り込む。 「箏?」 どうした、と問えば、いやあの、とまた淀む言葉。 首を傾げながら続きを促せば、ゆっくりと紡がれた言葉に絶句した。
「おれ、も、会いたい、です。」
……とりあえず、明日の夜は覚悟しとけ。
了
冬樹さん目線は甘ったるい。
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