02

 普段滅多に見せないような笑顔で玄関先に立っていた冬樹に、一瞬動きが止まった。
 クリスマスだからと、家に居るのは知っていた。が、玄関入ってすぐそこに居たことなんて今まで無かったから、驚いたんだ。
 そんなわけで、俺が、表情には出さないまでもうろたえているのを知ってか知らずか、冬樹は笑顔のまま口を開いた。
「とりあえず、戸、閉めて。寒い。」
 声音に不機嫌は見出せない。とりあえず、確かに寒いし、逆らう理由も無いので、俺が動きを止めたせいで開いたままだった戸を閉めて、冬樹に振り返った。
 ――瞬間。
 胸ぐら掴まれて、まったく予想していなかったせいで勢いのまま戸に押し付けられた。ダン、という音と共に襲った弱い痛みと鈍い衝撃に、軽く顔を顰めつつ、冬樹を見やる。
 細っこい腕は、少し抵抗すれば簡単に振りほどけるだろう。身構えていないと、こんなに細い腕にすら負けることはあるんだなあ、などと我ながら心底どうでもいいことを考えながら、このままじっとしていたって何にもならないし、と多少の息苦しさに目を瞑って口を開く。
「どうした、ふゆき?」
 今回ばかりは、怒らせるようなことをした覚えが無い。仕事を速く終わらせたいが為に、雑談どころか、上司との必要最低限の会話と同僚への挨拶くらいにしか口を使っていないので、嫉妬では(多分)ない。連絡無しで遅くなったわけでもない、ってか遅くなってない。……いままでにこいつを怒らせたようなことは、してない、よな。
 一日の行動をざっと思い返してみて、結局俺に原因が有るようには思えなかったので、意識を現実に戻す。と、いつの間にか目の前に金と蒼がちらついて、次いで唇にやわらかな感触。数秒、俺に体温を分け与え、ぺろりと俺のそれを一舐めしてから離れた薄い唇は、上機嫌に弧を描いていた。
「……冬樹?」
 わけがわからずに首を傾げると、冬樹はネクタイとYシャツを鷲掴みにしていた手を離して、俺の首に腕を回す。キスに香ったアルコールの匂いと、甘えるような仕草に、こいつまた一人で先に飲んで居やがったな、と思いつつ。どうしたんだよ、と靴を脱ぎながら問えば、冬樹は耳元で囁いた。
「有給とってくれなかった、仕返し。」
 ……いや、確かに昨日、「明日、有給とって家に居てよ。」とは言われたが。まさか本気だったのかと一瞬疑い、けれど肩口から聞こえたクスクスという笑い声に、要するにキスする口実か、と息を吐いた。


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