ヒラリ、と。
風に乗り舞い落ちてきた用紙を、咄嗟に受け止める。
前方を歩いていたのは同期の女子二人。その内の片方が、慌てたように振り返ってくる。ミーナだった。
拾った紙を、ほら、と手渡す。


「ごめんね、有難う」

「今日はアニは一緒じゃないのか?」

「ちょっとね。ハンナの相談に乗ってるの」


一人で行動する事の多いアニだが、最近はミーナが傍に居る事の方が増えていた。
「別に」「そう」「そう思うんなら、そうなんじゃない?」など、気の乗らない返答が多いようだが、避けるような事もしていない。
クールで近寄り難い、そう見える一方で、他人との接し方が分からない、そんな風に見える事もある。
口数の少ないアニと対称的に、明るく朗らかなミーナとの相性はとても良いように思えた。
そのアニを、ここしばらく、ミーナの側で見ていない。


「そうだ、ナマエからも何かアドバイスを貰ったらどう?」

「えっ、で、でも」

「大丈夫だって。ナマエは口が固いから」


チラッと見上げてくるハンナの顔は、分かりやすすぎる程に赤い。耳まで真っ赤に染まっている。
アドバイス。そしてこの反応。
何とはなしにその内容を察しながら、話を促してみる事にする。


「ハンナ、俺でよければ力になるよ」

「うん、じゃあ……お願いしようかな。その、フランツの事なんだけど──」



***



思っていた通りの内容だった。
驚いたのは、まだハンナとフランツが付き合っていないという事実だ。
告白もまだらしい。
心配せずとも、フランツもハンナが好きなのだと思うのだが……さっきだってチラッチラとこちらの様子を伺っていたしな。
ハンナとミーナは気付いていないようだったが、脈はありすぎる。というか、露骨すぎる。何故気付かない。


「ナマエ、ハンナとお付き合いしているという噂は本当なんですか?」

「は?」


唐突に訊ねられた内容に、思わず間の抜けた声を出してしまった。
サシャが神妙な面持ちで俺の事を見つめている。


「ナマエが好きなのはアニだと思っていましたが……」

「いや、両方誤解だ」


何を言い出すのか。
ハンナは大方さっきの場面を見ていた誰かが勘違いしたのだろうが、アニはなんだ?


「本当ですか?」

「あぁ」

「告白されていたのでは?」

「相談に乗っていただけだ。ミーナも居ただろ?」

「……なるほど、信じましょう」


なに目線なんだろう。
居ただろ?とは言ってみたが、それをコイツが知っていたとは思えない。いや、それを込みで信じたのか?

頷いたサシャが、何処かへと視線を投げた。それを追ってみると、フランツの視線とぶつかった。
なるほど、探って欲しいとでも頼まれたのか。……いや、違うな。サシャから持ちかけたのだろう。
一仕事終えたような、どこかやりとげた顔をしたサシャが、グッと親指を立てている。パンでも貰う約束なのだろう。何とわかりやすい。


「どうして、俺がアニを好きだと思ったんだ?」

「えっと、いえ、単純に。ナマエはアニと良く話していますから。この間も対人格闘で組んでましたよね?」

「あれはライナーが挑んでただけだ」

「そうでしたっけ?」


あの時はライナーはひっくり返っていた。それで誤解したのだろうか。
そもそも、良く話す、と言う程アニと仲が良いと言える自信がない。
他のやつらよりは多少、言葉を交わす機会が多いだけだ。


「話している、と言うなら、アニよりもお前との方が多いと思うけど」

「えっ」

「あ、別にそういう意味じゃないからな」

「じゃあどういう……あぁ、なるほど、これが噂のツンデレですか」

「どんな噂だ」

 
女子の間ではそういう話題が盛り上がるのだろうか?
ツンデレと言えば…………エレン、は、デレた部分を見た事がない。駆逐系男子だろう。ジャンは……デレデレ?いや、ただただ不憫だという事しか分からん。


「素直になってもいいんですよ?」

「ありえない、誰がお前なんか」

「またまた〜」


ぐふふ、とでも声が聞こえてきそうな、おおよそ女子には似つかわしくない笑みが浮かんでいる。
これが本当のデレデレだろうか。いや違うな。
なんだか途端に面倒になってきたので、サシャはそのまま放置する事にした。
フランツと話をするために、足をそちらへと向ける。
相談に乗ったからには、上手くいってもらわないとな。後押しでもしてこよう。



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