身体がダルい。
どうにも調子が良くない。
そう気付いたのは夕飯時の事だった。

今日の訓練はもう終わっている。後はこれを食べて風呂に入れば終了だ。早く寝よう。無理そうなら明日は休ませてもらうしかない。
不調はミスを呼ぶ。無理に参加し致命的な失敗をする訳にはいかない
訓練と言えども命懸けだ。

「………………」


スープを喉へと流しこむ。
あまり手が進まなくなってきた。
濃いのだ、味が。これはもう、食べない方がいいのかもしれない。


「大丈夫か?」


斜め向かいに座っていたライナーが話しかけてきた。
心配そうに眉根を寄せている。
どうやら気付かれてしまったらしい。


「少しダルいだけだが……風邪かもしれない」

「当番があるなら変わるぞ」

「いや、今日は無い」


さすがライナーだ。
俺ならそこまで気が回らない。
礼を言えば、「無理はするなよ」と返ってきた。
明日は……座学が中心だったか?
それならいけるだろうか。


「ナマエ、少し失礼します」


え?
という間もなく。
突然、背後から手が伸びてきた。驚きに仰け反ると、後頭部に何かが当たる。人だ。今の声はサシャだった。いつの間に後ろに。
俺の動きが止まった所で、伸ばされていた手が額に触れた。
ひやりと冷たい。


「うーん……少し熱いでしょうか?」


そんな声が真後ろから聞こえてきた。
熱を計っているらしい。ライナーとの会話を聞いていたのだろう。
そのライナーと目が合う。
何故かサッと視線を逸らされてしまった。僅かに頬が赤くなっていた。
端の方からはクリスタの視線を感じる。あとはユミルの笑っている気配だ。
………………。


「サシャ」

「はい?」

「離してくれ」

「あぁ、すみません」


素直に離された手に、ようやく体勢を立て直す。
当たっていたのだ。
後頭部に。胸が。
仰け反った状態で額を押さえられていた為に。
もう少し気にしたらどうだろうか。
気にしないのだろうな。
対人訓練でコニーと組んでいる時点で、そうなのだろう。
まぁ、ただ波長が合うからという理由だけかもしれないが。


「ナマエさん」

「なんだ?」

「それ、食べないのならいただいてもいいですか?」

「………………」


それが目的か。
不自然なさん付けから、とてもわかりやすい欲が見えていた。
食べかけのスープ。
まだ半分以上残っているが、俺はもう食べられそうにない。
しかしいくら食に対するガッツキがあろうとも、他人が口をつけたものを欲しがるというのは……
まぁ、これも気にしないのだろう。
サシャだしな。


「いいぞ」

「有難うございます!」

「でもお前、もう食べ終わったんだろう?新しいスプーンを──」


借りてきたらどうだ、
そう言い切る前に。
サシャは俺の隣に腰掛けると、もうスープを口に運んでいた。
どんだけだよ。
早い。
早すぎるだろ。


「………どうしたんです?」

「いや……もう何と言うか。無自覚にも程があると思うけど」

「何がですか?」

「……………なんでもないよ」


疲れた。
熱が上がってきたかもしれない。
もしこいつに風邪が移ったとしても、それは俺のせいではないという事だけは主張しておきたい。



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