「そりゃモテないはずだ」


俺がそう言えば、なにやら愕然とした表情でサシャは右手に持っていたパンを皿の上へと落とした。
見開かれた瞳が怖い。
ピシャーン、と。
雷にでも撃たれたかのような反応である。


「なんでですか……!?」

「いや、なんでも何も」


何故そこを疑問に思えるのか。
逆に聞きたい。
パンくずを口端につけたまま、サシャは俺の答えを待っている。食い入るような、必死の形相だ。
待たれても……
答えは目の前にあった。
鏡でも持って来るべきか?


「教えてやったらどうだ、ナマエ」

「ジャンまで同意見ですか!?」

「あ?あぁ、まぁオレだけじゃないだろうが」

「ぇえ!?」


素で驚いている。
その様子に、俺は嘆息するしかない。
ニヤニヤしながらこちらを眺めていたジャンが口を挟んできたのは意外だったが、コニーが中々復活してこないのも意外だった。

ああぁぁぁ!?という悲壮な叫び声が聞こえたのはつい先程の事だ。
訓練中にしていた何らかの勝負の結果らしいが、「これは正当な権利です!」とか何とか。そのような事を叫びながらサシャはコニーからパンを奪い取っていた。
そこからの流れの冒頭の台詞である。

顔はいい。
スタイルもいい。
だが、中身が残念すぎた。
なにより入団式に芋を食べ始める女が、どうしてモテるだろうか。


「なに騒いでるんだ?」


そんな事を話していると、トレーを持ったエレンが後ろを通りかかった。これから食べ始めるようだ。アルミンとミカサもその後に続いている。
要点をかいつまんで話すと、俺の隣に座りながら、エレンは納得したように頷いた。
頷いちゃうのか。
エレンの隣にミカサが。ミカサの向かいの席にアルミンが腰を下ろす。


「ナマエはモテるよな」

「こないだも告白されてたよね」

「……見てたのか?」


話題が俺に向いてしまった。
別に俺は、エレンやジャンのように目立つ存在という訳でも、女子に騒がれるようなイケメンという訳でもない。普通だ。成績だっていたって普通だ。
ただここでは、普通である方が好かれる事もある。
特に将来を考えるのなら、調査兵団を志望の奴は距離を置かれてしまう。死ににいくような、それこそ死にたがりと呼ばれるような相手とは恋人にはなれないのだろう。
憲兵団であれば安定した職にはなるのだろうが、入団と同時に結婚でもしない限り、しばらくは離れ離れとなってしまう。
その点駐屯兵団は、同じ地区を希望すれば大体はそのまま一緒に派遣してもらえる。これまでのように、ずっと側にいられるというわけだ。
まぁ、成績が良ければ二人で憲兵団を目指すのが一番良いのだろうが。


「こ、告白!?ナマエに!?そんな物好きが!?」

「それは俺に喧嘩を売っているのか?」


サシャが青い顔で驚愕していた。
まさか、このナマエに!?という、失礼すぎる感情が全面に浮かんでいる。


「ま、まぁまぁ。落ち着いて二人とも」

「ナマエがモテるだなんて……ミカサは知っていましたか?」

「さぁ……、わからない。気にした事がなかった」

「おい、ミカサ……っ!」


クールに答えたミカサに、エレンが慌てたように声を上げている。気にした事がない、イコール興味がない、と取れるからだろう。というか、実際そうなのだろう。
けれど、俺が気にしたのはそこではなかった。
ミカサがエレンしか見ていないのは今に始まった事ではない。

げ、元気だしてください、と馬鹿にするように口許に手を当てて笑っているサシャに、イラッときていたのだ。
ガタリと席を立てば、アルミンが焦った様子で落ち着いて、と止めてくる。
そのままワァワァと騒いでいる内に教官がやって来てしまったのだが、ミカサが上手い具合に責任をサシャへ押し付けていた。
グッジョブだ。

ただ、その視線をどう勘違いされたのが、ジャンに軽く肩を叩かれた。
なんだその励ますような眼差しは。




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