クリスタ・ユミル・サシャ・ミカサ視点
「好きな人?」
「いきなり何だ」
髪を拭う手を止めて、クリスタが瞬く。サシャからの唐突な質問に、クリスタの傍にいたユミルが盛大に顔を歪めた。
訓練が終わり、体を清めた後の自由時間はそれなりに騒がしい。なんでもない会話をかわすのはいつもの事ではあったけれど、その内容が普段とは少し違った。
「前から聞いてみたかったんですよ。クリスタはいないんですか?」
「おい待て。クリスタは、って何だよ。まさかお前はいるのか?」
「いえ、私ではなく。ユミルとミカサにはいるじゃないですか」
「は?」
「え?」
いきなり、自分の名前を出された。
それも断定口調で。
傍観していようと耳を傾けるだけだっただけに、咄嗟に否定も出来なかった。
好きな人?
私に?
揃って疑問の声を上げられたサシャが、戸惑ったように首を傾げる。
「あれ?違いました?ユミルはクリスタが大好きでしょう?」
「あ、あぁ…そういう事か。それなら勿論クリスタだな」
「ミカサはエレンが大好きですし」
「エレンは家族。好きなのは当然のこと」
「照れるなって」
「でも、ミカサは…ナナシ分隊長の事が好きじゃないの?」
クリスタの発言に、えっ!?と他の二人の視線が集まった。
サシャは純粋な驚き。ユミルはマジかよ、という楽しげな響きだ。
エレンの次はナナシ分隊長。
どんな答えを期待されているのかは分からなかったけれど、正直な思いを口にした。
「好きか嫌いかで言えば好きだけど、ナナシ分隊長は尊敬出来る上官」
「そうなんだ…」
「……どうしてそう思ったの?」
「なんとなく、かなぁ。ミカサやエレンと居る時のナナシ分隊長って、なんだか優しそうだから…仲がいいのかなって」
「そう」
「私の勘違いだったみたい。ごめんね?」
大丈夫、気にしていない。
そう応えたところで、ユミルの腕が肩へと回された。いつの間に近付いてきていたのか、ズシリと凭れかかられる。
「クリスタが謝ることねぇだろ。ミカサが自分で気付いてないだけって事もありえるんだから…そうだな、尊敬から好意へってのはアリだな」
「私はどっちでも応援しますよ、ミカサ!」
「……話を聞いてほしい」
まともに会話出来ているのはクリスタだけのようだった。
ユミルの腕を外す。特に抵抗はされなかった。クリスタがまだ濡れている為に、いつものように彼女にベッタリと出来ないからだろうけれど…こちらへ来られても困る。
ひっつく私とユミルを見てクリスタが嬉しそうだったのは、これも彼女から見れば仲が良いと思えたから、なのかもしれない。
…そんな事を考えている暇はなかった。
ユミルとサシャがどんどんと話を脱線させている。溜め息をつく間にも、二人は別の方向へと盛り上がりを見せていた。
「ナナシ分隊長ね…強いってのはポイントが高いな」
「そうですねー。狩りをするにも体力がいりますし」
「モテてるのか怖がられてるのかわかんねぇが…」
「彼女がいるのかもわかりませんね」
「いたとしても…どうなんだ?」
「どう、とは?」
「私生活も謎だろ?ああ見えて──」
「クリスタの好きな相手は誰?」
「──とかはどうでもいいか。どうなんだ?クリスタ」
割り込む形になったが、ユミルを誘導する事に成功した。
注意するよりも、クリスタの話題を振った方が効果的だという事は分かっていた。いたけれど、思っていた以上に見事な急カーブで話題を元の位置に戻す事が出来た。
結局、聞けていないままだった。
突然戻った質問に、クリスタがえ?えっ?と慌てた声を出している。
サシャの期待に満ちた眼差し。
ユミルの見定めるような強い視線。
それから私の事をチラリと一瞥した後に、クリスタは赤く染まった顔を俯かせた。
頭に乗せられたままのタオルが、僅かに覗くその表情すら隠す。
「私は……その、……内緒!」
──その一言に騒ぎ出したサシャとユミルを沈めるのには、少しだけ骨が折れた。
***
ミカサが苦労人ポジションになってしまいました…
あと勝手にクリスタの好きな人も作ってしまいましたが、特に設定はありません…!ごめんなさい!
コッペパンさま、リクエスト有り難うございました!(*^^*)
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